DIARY
2000年秋
9月1日 Sour Time Blues
■
どうもここんとこ酸っぱい匂いがする。猫トイレを徹底掃除してみた。違う。布団を干した。雑巾がけした。ファブリーズした。洗濯機に放り込めるもの全部放り込んだ。全然効果なし。ひょっとして...。匂いの元は僕だ。ハチミツ黒酢ダイエット。
■
韓国料理を食った翌日に全身がキムチに侵されるみたく、なんかいま毛穴から黒酢の匂いがしてます。体質もあるんでしょうが。ペットボトルでがぶ飲みしたのかまずかったかな。冷蔵庫にしこたま買い込んだ広末涼子さんは大丈夫だったでしょうか。
ハチミツ黒酢ダイエットは美味しいし体にいいような気がするんで、出かける予定のない日は愛飲してます。クレームじゃないです。ほんとです。
9月6日 How Deep Is The Ocean?
■
長いこと廃盤だった70年代傑作群の再発やら、素晴らしいトリビュートアルバムの発売やらで、何かと盛りあがりちゅうのBeach Boys業界。マニアにはまたひとつ、なによりのプレゼントが届きました。「ブライアン・ウィルスンそしてビーチ・ボーイズ」。世界最古のロック評論家Paul Wiliams氏が、三十余年の評論人生の中でBeach Boysについて書いたテキストをかき集めたもの。
■
「SMiLE」の神話を生み出した伝説のスタジオレポートももちろん収録してます。でももっと興味深いのは、録音芸術のピークを目撃してしまった彼にとって、シンプルなバンドサウンドに立ち返った67年のアルバム「Wild Honey」が失望でしかなかったってこと。でも彼はその僅か2ヵ月後に、「素朴さに立ち返り、音楽に立ち返る」ことこそがいま必要であり、またしてもBrianの先見性に負けたと素直に認めているのです。すげえよな。実際その頃からBob DylanやBeatlesがシンプルなサウンドを追求することになるわけだ。
■
で、この本いきなり核心に入っちゃうんで初心者にはお薦めしません。まずは自分の耳で聴いてみよう。資料が欲しければVANDA編「The Beach Boys Complete」を。複数のライターが好き勝手に書いてるんで、あるページで絶賛してる作品を別のページでけなしてたりで、よく言えば幅広い意見が収集できます。最後は自分の耳を信じよう。
ひみつじょうほう:優れたジャズ評論家が必ずしも優れたロック評論家とは限りません。赤い本にはご用心。彼がネタ本にしてる「ブライアン・ウィルソン自叙伝」は、裁判の末Eugene Landyによるでっちあげとされて本国では発売中止です。それを承知の上でなら、お話としては一読の価値あり。
9月11日 キャピタルレコードの終わりなき稟議
■
ほとんど全ての緊急連絡がメールと携帯でできるようになってしまった昨今、留守番電話はすっかり出番を失ってしまいました。なにかと遊び甲斐のあるおもちゃだと思うんだけど、過渡期のメディアだったのかな。先日ひさしぶりにランプがチカチカしているのを発見、わくわくしながらボタンを押したら「意識調査のお願い」が入ってました。「バンゴウヲニュウリョクシテ、#ヲオシテクダサイ」。もちろん留守電が#を押すわけもなく、電話は一定時間待って勝手に切れましたが。
■
過渡期のメディアと言えば、CDの経年劣化が問題になってるそうで。錆びる以前の問題として、80年代のCDはマスタリング技術が未熟で聴けたもんじゃない。
「Pet Sounds」またリミックス・リマスタリングしたそうですね。今度は「Wouldn't It Be Nice」のバース部分がオリジナルに忠実になって、エンジニアのMark Linnetも太鼓判を押したとか。Beach Boys周辺にはご意見番が多すぎる。いったい何人の太鼓判を貰えばいいんでしょうか。Brian Wilson本人が97年盤に納得したんだからそれでいいじゃん。90年盤に太鼓判を押してしまった山下達郎さんの立場はどうなるのか。
■
ところでBrianは圧倒的にCD派らしい。理由は「ちっちゃくてキュートだから」。そんなBrianこそキュートだぜ!
9月20日 てにおえ
■
にわかには信じられないだろうが、写真の彼はあお向けのまま熟睡してる。実家が犬派だったんで、彼らと出会うまで猫と暮らしたことがなかったんです。だから初めて見た時は、なんて無防備な生き物だろうかと。周りの猫好きに聞いてみたら、やっぱりうちだけ特殊らしいので公開しました。
■
うつぶせ寝する時は、できればアゴ枕が欲しいところ。たまたま近くに相棒が寝ている場合、相棒が枕がわりになる。枕にされた方が迷惑そうな顔をしている。当然このあと2匹の間で紛争が勃発する。
また、たまたま近くに僕が寝ている場合、いわゆる腕枕をすることになる。一見ファンシーでドリーミーなペットライフぽいが、実際うっとうしい (紛争勃発) 。
■
相変わらずベッドに隠ってBrian生活を送りつつ、在宅勤務という形での社会復帰を模索中。くだらないこと書いてるわりに実生活は散々なんだよ。
クロスレビューRock Crusadersを更新しました。連載22回目にして初めて、メンバー全員ご推薦の傑作が登場。食め、万の民。
9月25日 斜陽の人
■
以前からコメディアンとして高く評価している小室哲哉さん。オリンピックムードの影に隠れてひっそりと納豆を発売しました。商品名「TMナットワーク」。情けない。情けないです。トニー谷直系のシャープなボケはどこへやら。
以前の彼なら沖縄サミットに合わせてゴーヤ風味に仕立てあげ、各国首脳に試食させて反応をみたり、「納豆の糸で世界を結ぼうYou're The One!」とかやってたはず。商品名はもちろん「ネバーエンド」で。
■
ITネタは久々に面白いと思ったんだが、今や森総理の方が100倍面白いしなあ。どこへ向かうのかTK。明日はあるのかTK。いっそ電波少年でヒッチハイクしてる朋ちゃんに合流するってのはどうでしょう。彼女は逞しいです。見直した。
10月2日 Too Many Music In Our Day
■
「Sea And Cake聴いた?」って何人に聞かれたことか、すいませんまだ聴いてない。よっぽど僕向きの音なんでしょう。High Llamasの新作もまだ聴いてない。Beckley-Lamm-Wilsonも聴いてない。世の中には聴くべき音楽が多すぎるよ。
今は中村一義ばっか聴いてます。傑作感涙。自分より年下のミュージシャンに打ちのめされることにももう慣れた。よく考えたら「Rubber Soul」だって「Pet Sounds」だって「風街ろまん」だって、いつの間にか年下の音楽になってしまった。
■
学生時代に最新の音楽を追い求めていた仲間達は、いま何を聴いていいかわからないみたい。あの頃の彼らは、60年代ポップスに夢中になってる僕を怪訝な目で見てたけど、過去50年分のポピュラー音楽を聴いてきた僕の耳は次の動きにもすぐに順応できる。彼らは90年代にへばりついたまま歳をとるのだろうか。僕は広く浅くなんでもつまみ食いして生き残る。
■
Beach Boys廃盤群の再発もようやく一段落つきました。鮮やかなハーモニーを楽しみたいなら「Sunflower」を、ファニーな遊び心に触れたいなら「Love You」を聴いてみてください。荒削りなムーグの感触は、今のインディポップに通じると思う。
Brianの1stも再発されました。音が格段によくなって、コーラスやベースラインまでくっきり。名盤度3割増しです。88年の段階で、Brianのセンスがここまで復活してたとは。最高の仲間に囲まれて絶好調の今、次のアルバムを早く聴きたい。でもその前にSea And Cake聴かなきゃだね。
10月12日 テレパシー失敗
■
忙しかった。7日にひっそりとオープンした博物館の展示映像を作ってました。先方から提供されるはずの素材が4日になっても揃わなくて、けっきょく自分で適当なイラストを描いて埋めてしまった。お金払ってこれを観る人のことを思うと切ない気持ちになります。間違って花屋敷の見世物小屋に入っちゃったみたいな。
■
スリリングな2連徹の末、6日中になんとか自分の担当分を終わらせて飲み会へ。当然のように酔っ払い、そのまま昇天してタクシーで家まで連行されました。
翌朝、いつもの調子で詫びのメールを入れたら、一部の人から非難を浴びてしまった。気心知れた友達だと思ってたのに、僕なりの照れやそこに込めた気持ちがまるっきり伝わってなかった。悲しいね。ましてや会ったこともないこのサイトの読者は、僕のこと極悪人だと思ってないだろうか。根は誠実なんです。ただ空気を読むのがちょびっと下手なだけなんだ。
2015年追記 :
飲み会の時、眼の前で不義理を見せつけられて、動揺したっていうのも大きいんだよ。不義理を起こしたのは、非難したその人だった。結局この日を境に、大学時代の仲間とは疎遠になった。
■
でもへこたれてる場合じゃない。レキソタンをモリモリ飲んで洋服屋へゴー。即日仕上げで礼服を購入して、翌8日は弟の結婚式でした。家長としての任務は果たせなかったけど、でも僕が鬱をおしてなんとか出席できたことを弟は喜んでくれた。
翌日は疲れ果てて寝て過ごし、10日には大森駅前で 片桐はいり さんを目撃。ふと、子供の頃に流行ったハンバーグのCMソングを思い出したよハイリ・ハイリフレ・ハイリホー。気が抜けてホッとしたような情けないような複雑な心境になった。夜道で10メートル先から「片桐はいり」を主張する顔面、あれだけでも才能だと思いました。
10月20日 あの頃のまま
■
Bread & Butterのライブに行ってきました。もう50代のはずなのにどうしてあんなに澄んだ声が出るのか、この目で確かめたかったんだ。MCもあのまんま、少年みたいな声が流れ出て、やっぱりマイペースに生きている人は歳をとらないなと思った。
そうる透さんを中心とするバックバンドもさすがの演奏で、くつろいだ雰囲気の楽しいライブでした。そうるさんのオヤジギャグがなければなおよかった。ああいう所に歳が出るね。っていうか芸名が既にオヤジギャグだよね。
■
で、休憩時間にトイレに立ち、ふと隣を見たらそこにいるのは岩沢二弓さんその人ではありませんか。密室で男二人、並んで用を足す緊張感。しかも向こうから話しかけられてしまった。「なんかこうして並んでると緊張して出るもんも出ないね」それこっちのセリフだわ!
今から思えば「後半も頑張ってください」って言えばよかったんだろうが、「はあっびっくりしました」って答えるのが精一杯。だってびっくりしたんだもん。二弓さんは「後半もよろしくね」、とさわやかな笑顔を見せて去っていきました。人生なにが起きるかわかりません。スターパインズカフェさん、出演者用のトイレは別に設けた方がいい。
■
このあまりの気さくさ、ミュージシャン然としていないところが、あれだけの実力がありながらセールス的に伸び悩んでいる要因ではなかろうか。少なくともロッキンオン的カタルシスとは無縁だもんね。みずみずしい天然色ポップスを日本語で聴きたい方は「BB★C」をチェック。バックはCarnation、コクがあるのに喉ごしすっきりの名盤です。ベストアルバムも出てるけど、お仕事歌謡曲がおおくていまいちだった。
クロスレビューページ、Rock Crusadersがそろそろ更新されてるはず。
10月30日 #9 Dream
■
夢を見た。
テレビ電話の開発をしている僕は、ある日混線したモニターの中で恐るべき光景を目撃した。身長3cmくらいの木星人が研究室の中を行進してるんだ。高度な文明を持つ彼らは透明な体になって、密かに地球を偵察していた。
ところが地球にもちゃんと衛兵がいた。それはG。彼らの行動パターン、ササッと駆け回り、一箇所で静止したかと思ったらまたあらぬ方向に駆け出す動きは、人間の目には見えない木星人を退治してくれてたのだ。ありがたい。この驚愕の事実を世界に向けて発表するべきか、自分の胸だけに秘めておくべきか。
■
このあと物語は意外な展開を迎え、ついには和田アキコと2人でカラハリ砂漠横断に至る訳だが、そのあたりのエピソードは長くなるので割愛する。地球を守るために奮闘した。僕は頑張ったと思う。
さすがに途中で夢かと思ったが、ほっぺたをつねるのを忘れた。夢の中じゃほんとうに痛くないんでしょうか。今度ためしてみよう。
後日談:翌日の夢の舞台はキリマンジャロのふもと。王位を継承すべく数々の試練に耐える少年 (本人は自分の地位を知らない) と、彼の命を狙う一族を巡るストーリーだった。感動した。さすがに途中で夢かと思って、ほっぺたをつねろうとしたら腕が上がらなかった。なるほど。大脳生理学的に納得のいく結果だった。
11月1日 ピンホールカメラ
■
影が来る影が来る。闇の中にまた影が来る。招いたのは僕だ。この暗闇に針の穴ほどの光を見つければ、世界はそこに像を結んでくれるだろうか。
■
さよならシベリア鉄道。僕はこの日を忘れちゃいけない。だから日記に書く。僕のために。みなさんこんなもん読んで楽しいだろうか。ようやく読者を集め始めたこのサイトが、僕にとって今ピンホールカメラなのだ。
11月6日 俺は高木ブーだ
■
ハワイ帰りの弟がメイドインチャイナのウクレレをくれた。早速さわってみるも、これは前途多難だわ。
とりあえずピッチパイプと教則本を買ってきた。練習の成果をリアルタイムにここで紹介しますね。それぐらいのモチベーションがないと根気がもたなそうなんで。
■
ついでに「高木ブーのウクレレ教室」のビデオをお持ちの方を募集中です。NHKに問い合わせたらもう再放送の予定はないんだって。ウクレレの新番組の予定もないらしい。ブームは去ったのか。
やっぱプロの演奏を聴いてみないとわかんないもんね。パイプ通りにチューニングしたら3弦より4弦の方が音が高くなったんだけどこれで合ってるんでしょうか。
11月14日 20世紀のお土産に
■
Beatlesのアルバムくらい全部揃えといてもいいんじゃないの。それが無理ならせめて唯一の公式ベストアルバム (赤盤・青盤) を。
悲劇的におざなりなベスト盤が出ました。選曲の基準もあんまりだが、なによりタイトル・ジャケットのセンスの無さ。こういう仕事をしちゃいかん。関係者はろくな死にかたをしないと思う。僕は当然買いません。でも実は、マスタリングの出来がどんなもんか気になっている。誰か聴いたら教えて。
高木ブー計画進捗状況:チューニングでつまづき中。
11月20日 鴨鍋ィビィ
■
歳をとるのは早いもので、今年もついに初鍋のシーズン@渋谷。居酒屋の階段を降りるとそこにはすでにナビィな空気が漂っていていて、まずはビールと葱間鍋。命名「ネギしょってきたかも」。
僕はBeach Boysマニアだけど冬が好き。ようやく自分の季節がやってきた。寒い冬の心を暖めてくれるものは全て鍋の魂、ナビィ・ソウルを宿していると言っていいでしょう。こたつ。みかん。テレビ。デブ猫。ああ世界は鍋に満ちている。
■
「Beatles 1」についてのPaul McCartneyのコメント。企画案を持ってきたレコード会社に「『そんなことできないよ』なんて言えないだろ?」とのこと。いや言ってもよかったと思うんですけど。
イギリスではElvis CostelloがHMVの店頭に並んで購入したそうです。前から10番以内だったって。コネとか使わない、ロックスピリットが市民生活に溶け込んでるね。同じ日にここジャパンでは、野村サチヨさんがロックバンドを結成。ある意味で市民生活に溶け込んだロックと言えよう。
■
クロスレビューサイトRock Crusadersを更新しました。今回のお題は僕の最愛のミュージシャンの1人、Paul Simon。最初は食わず嫌いしていたほかのメンバーにも気に入って頂けたみたい。キタキタ。推薦人冥利につきる。
彼のアルバムには1枚の駄作もないんですよ。ほんと。保証します。みんな聴いてくれるといいなあ。
高木ブー計画進捗状況:目に見える進捗なし。
11月29日 Everyday I Write The Book
■
◯月×日
一人暮らしのプータロー (=僕) はどうせろくなもん食ってないだろうと、超高級串焼き屋に連れていかれた。興奮して写真を撮らせてもらった。ああ小市民。びっくりするほどうまかった。肉とは魚とは野菜とは、本来こんな味がするのかと思った。
斜向かいでは自分と同世代のカップルが平然と食っていた。外国人の接待、エグゼクティブとその愛人、店内が自信に満ちていた。金持ちになりたいとは思わないけど、旨いもんが食べられるようになりたいとは思う。
■
◯月×日
ギターを持ったお笑い芸人ポカスカジャンのライブ見る。どうしようもなくバカバカしいのに、無駄なまでにギターが上手い。そのかわり、観客にもある程度の音楽の知識を要求する。アコギ2本で「笑点のテーマ」Ventures風を熱演。グルーヴィー!
表現者も観客もちょっと努力して歩み寄れば、予想もつかないエンターテイメントの地平が広がる。こういう世界を「通好み」という言葉でかたづけてしまうのはもったいない。
■
◯月×日
100円占いをする。経営の才能を持つて居る貴方は....全然ダメ。最初の1行を見ただけで読む気なくす。
窓を開けたら星空に月が笑っていた。今週もたくさん迷ったり悩んだり立ち止まったりした。でもちょっとだけ光が見えた。
高木ブー計画進捗状況:ウクレレデュオを結成。年内にお披露目か?
|