DIARY 2000年春


3月14日 春なんて来なければいいのに

世間は春をちやほやし過ぎてませんか。僕は暑がりなんで、夏の入り口より冬の入り口の方がありがたい。冬の透明な空気はしゃんと引き締まるじゃないですか。オリオン輝く星空の下を、いそいそ帰ってきてコタツに入る喜びよ。できれば背中はほんのり寒く、ミカンはあくまで冷たくあってくれ。つま先のぬくもりが、寄り道しないで心に響くように。

猛暑だったと言われる終戦の日、東京の気温は29度だったんだって。明治時代には最低気温0度以下の日が3ヶ月も続いたんだって。僕が子供の頃だって35度を超える日は珍しかったし、冬には雪が積もってました。今の日本は夏に偏ってるよ。夏なんてベタベタしてジトジトしてとろけてるだけじゃないですか。気温の上昇をポジティブに切り取らなくっちゃ会話さえ始まらないなんて、まったく大人って奴は。そんなことだから春が図にのって花粉をまき散らすのだ。

くしゃみはなみずはなずまり。朦朧とした意識に鼻炎カプセルがとどめをさして、心はクリーム色した霧の世界を彷徨います。洗面台にあごを乗せて、蛇口のように流れ出るハナミズもそのままに鏡に映る自分の姿をぼんやり眺めていると、人間としての尊厳が少しづつ崩壊していくのがわかります。しかも今年のはノドの内側がかゆくなる。くしゃみした時にご飯粒が詰るとこが無性に痛かゆいのです。花粉症本来の緩慢な苦痛と痒みという攻撃的な苦痛のコンフリクト、これが辛い。

鼻炎カプセルを飲み続けてたら社会生活に影響がでてきて、ついに「どうなってるの」でやってた民間療法に手を出してしまいました。ヘチマコロンで鼻の周りを拭いて、ドクダミ茶の匂いを1分以上嗅ぐってやつ。生まれて初めてヘチマコロンとドクダミ茶を買ってきた。効かなかった。「アトピーが治った」本の類いを笑えません。これからは花粉症が治った産業が発達すると思う。

3月21日 ドクタードクター

大田区は今、深い悲しみに包まれています。イトーヨーカドー大森店まさかの閉店。しょせん大手資本の入りこめる土地柄じゃないんですが、ヨーカドーは大田区プライスでよく頑張ってた。おかげで僕はCDより高い服をほとんど買ったことがありませんでした。コートや靴だって国内盤2枚組よりは安いし、シャツなんて下手するとScatman Johnの中古盤より安かった。これから僕はどこで服を買えばいいんでしょうか。地元の店は安いんだけどラメ入ってるんだよ。
 ヨーカドーでの最後の買物は、胸にでっかく「Dr.Junko」と書かれたトレーナーでした。安かった。

クロスレビューRock Crusadersを更新しました。今月のお題はDr.Johnです。Junkoじゃないよ。

3月27日 Guess I'm dumb, but I don't care

ロック史上最も有名な未完成アルバム「SMiLE」。これが完成していたら歴史は変わっていたとかBeatlesなんて足下にも及ばなかったとか好き勝手いわれてますが、しょせんは未完成の美学。音楽そのものより、音楽を巡るミステリーの方が面白いに決まってる。
 と思ってたのは、今までのブートがあんまり面白くなかったから。要はSMiLEという壮大なパズルを解きほぐすためのピースだったんです。ところがS.O.T.シリーズが「素材集としてのSMiLE」に取りあえずの決着をつけてから、ブート業者の主眼は「アルバムとして鑑賞できるもの」にシフトしているようです。何が言いたいかというとですね、「SMiLE-millenium edition」いいね。やばい。

ショップの扉が開くパッケージも秀逸ですが、内容の方も愛情たっぷり。異様にクリアな音質には驚きました。粒が立ち過ぎかなってくらい (細い、とも言うか) 。
 一晩中おんなじレコードを聴き続けるなんて何年ぶりだろう。眠るのがもったいなくて。もうすぐ28ですよ。大人になろう。

3月30日 Birthday Mania

1998年の誕生日に公開したこのサイトも今日で丸2年を迎えました。つまり今日は僕の誕生日な訳ですが。3月30日生まれの有名人と言えばゴッホ、ゴヤ、ヴェルレーヌ、クラプトン。波瀾と狂気の星回りらしい。日本ではこの人、島倉千代子さん。人生いろいろって感じですか。
 大変なことに気づきました。ジャパニーズロック史に残る傑作ライブアルバム、小坂忠さんの「もっともっと」が収録されたのがちょうど僕の生まれた日なんです。演奏はFour Joe Half、そしてゲストに鈴木茂さんと細野晴臣さん。後にTin Pan Alleyを結成する4人が、自分の生まれたほんの数時間後に同じステージに立って歴史的名演を繰り広げてたんだ。これ、自慢していいんじゃないですか。

話がそれた。我がポヨレコは、個人サイト2年限界説を乗り越えて大幅リニューアルします。と言い続けて何ヶ月が過ぎたか、ほんとは今日を目処にしてたんだがまあいいか。波瀾と狂気と花粉症を吹き飛ばし、「リニューアルか無か」という線でうーん、要はなにかと行き詰まってる。

4月3日 横井さんの憂鬱

オムニバスエッセイ集「無人島レコード」を読みました。無人島に1枚だけレコードを持ってくとしたら、という使い古された手で本1冊にまとめてしまった力技なんですが、これが非常に面白かった。ただ好きなレコードを挙げて蘊蓄たれるんじゃなくて、どんな無人島を思い浮かべたかまで語らせるんです。そうすると、そこから選者の音楽とのつきあい方がくっきりと見えてくる。
 例えば、鈴木慶一さんと田島貴男さんは着想自体はすごく近いんだけど、最終的なセレクトに二人の音楽のユーモアの違いが凝縮されている。無人島に自発的に行ったのか突発的事故でやむなく行ったのか、日本に帰る気があるのかないのかで、選ばれるレコードが大きく違ってくるようです。

共感したのは山本ムーグさんの回答。いとうせいこうさんも結論は似てるんだけど、彼が書くとかっこ悪く見えるのはなぜだ。たぶん彼のラップのかっこ悪さ、ぎこちない韻へのこだわりと関係があります。「無人島じゃ音楽聴かない」という反則技を持ってきたのはDarian Sahanajaと大林宣彦さん。回答がスマートだったのは大林宣彦さんの方で、はーそんな文化があったとは知りませんでした。
 ...もどかしい。ネタバレなしじゃ書きたいことが書けないじゃないですか。自分で読んでくれ。リスナー人生の重みが伝わります。履歴書に趣味:音楽鑑賞と書く前に、これと「レコードコレクターズ紳士録」を読むことを国民に義務付けよう。ほんとに君の趣味は音楽鑑賞だと言い切れるのか。覚悟はできているのか。

僕だったらなに持ってくだろう、「Pet Sounds」じゃないですね。突発事故だったら「The Medium is the Massage」を聴いて難しがってみると社会復帰への意欲が沸くかも。島のSEにも合うし。自発的に行くならJacques Tatiのサントラ。ただしレコを替えるために2週に一度日本に帰っていいものとする。ダメですかね。じゃCD-R焼いちゃダメですか。あダメ。

4月6日 Ring Ring

新宿三丁目の飲み屋に入ったらたまたま後ろに座ってたのが米良美一さんで、「実はジャニーズに入りたかった」とか「叶姉妹に関心がある」とか世間的には興味深い話題を繰り広げてたんですがそれはまあ置いといて。
 懐かしい友達と飲んで恥ずかしい話をしてバイバイして、一人で地下鉄に乗ってChris Rainbowの「Ring Ring」を聴いてたら涙が出たんで日記に書いてみた。いい曲だね。隅から隅までルーツへのオマージュにあふれて、それでいてオリジナルなポップスとしても完璧です。心のトップ40に入るかも。オリジナルアルバムを再発してくれエム・レコードよ。

この前に涙を流したのは1996年頃、やっぱり地下鉄の中で「Love and Marcy」のリメイクバージョンを聴いてる時でした。

4月17日 餃子竿竹

会社の近所で餃子の移動販売車を発見。(竿竹屋のメロディで) ギョウザ〜ギョウザっていうの。なんで餃子なんだろう。っていうかなんで竿竹なんだろう。竿竹なんて一生のうちでそう何度も買うもんじゃないでしょう。ちょっと前には玄米パンの移動販売車を見かけました。こっちは石焼き芋のメロディだったんだけどなんか字足らずだった。恐るべき会社の近所。ビバ会社の近所。
 アンビエントハウス華やかりし頃「石焼き芋の歌アンビエントミックス」を作ろうと思ってたことをふと思い出しました。頭の中では完璧に出来てたんだけど結局やんなかった。環太平洋的でいいメロディだと思うんだがな。

弟が結婚することになったんで、彼女のご家族とお食事会。家長は僕、支払いは弟。相手のお父さんは有名製鉄会社の部長様で、お兄さんは有名証券会社にお勤めでした。いい人でした。真面目でした。こっちは爽やか兄さんを3時間も演じてたら疲れ果てて寝込んだ。

4月21日 深爪

って書くと妙に艶かしい感じになるのはなぜだ。ちょっと爪きりすぎちゃった!! というわけであんまり左手を使いたくないので要点だけ。
 クロスレビューRock Crusadersを更新しました。今月のお題はTalking Headsです。

4月24日 日本一は世界一

Blondie ChaplinとRicky Fataarが在籍していたことで知られる (知られてない) 南アフリカのロックバンド、The FlamesのLPをたまたま見つけてしまいました。期待しないで聴いてみたらこれがなかなかええやないの、というわけでBlondieとRickyの足跡を調べてみた。出るわ出るわ細かい仕事が。The Flamesについてはたぶん世界一詳しい日本語サイトになったと思う。

最近の幸せ話をひとつ。タワレコの袋が丈夫になりましたね。素材のクオリティもさることながら、持ち手のとこが折り返しになっているのがうれしい。これならたくさん買っても大丈夫、指に食い込むことはありません。こんな些細な理由でVやHから足が遠のいたりもする。Wの袋は丈夫だけど、リュックに押し込んだ時にワシワシうるさいのが難点だ。たとえレジが死ぬほど遅くても、やっぱりタワレコ新宿店。

5月2日 教えてレコスケくん

Sgt. Pepper'sのUKファーストプレスというやつを借りてしまいました。有名な誤植もばっちり、本物です。
 「オリジナル盤はカッティングまで本人が立ち会ってるから音が全然違うんだよ、Sgt. Pepper'sはこれ以外ぜんぶニセモノ」なんて話をよく聞くけどそりゃ大げさだよ、そんなに違うわけないでしょう。と頭では思いつつもドキドキしながら針を降ろすと、こりゃ全然違うぜ! 音に広がりがあって楽器ひとつひとつがよく聴こえる! なのにスカスカしないで低音がのたうちまわってる! ような気がする。

そもそもあんなでっかい音で聴いたことなかったし、ふだん聴いてるのが88年版のCDなんでなんの比較にもなりません。オリジナル盤信仰って実際どうなんでしょう。

5月8日 Running on a dark race course

ゴールデンウィークYeah! なんだかんだで5連休してしまいました。去年の夏休みをまだとってないのだが。
 でこの5日間、主に部屋の隅でうずくまってたわけですが、飯も1日平均1.5食というありさまでそれも永谷園のお茶漬け、これで痩せりゃいいのに痩せないのが不思議なところです。最近ますます太っ腹なのはクスリのせいかしら。などとロッキンオンっぽい書き出しで。

久しぶりにテレビつけたら、Folder 5売り込んでますね。Folderというグループは紛れもなく大地くんのソウルフルなボーカルがセールスポイントだったわけですが、その大地くんが生意気に見えてしまうのがネックでした。そこで男の子達に変声期休暇を与えて、残りの女の子5人で結成したのがFolder 5。
 僕らはずっと気になっていたわけです。後ろの女の子たちはなんのためにいるのかと。キャリアはあるのにタレントとして新鮮な存在。ぜひとも大地くんが戻る前に売れて欲しいものです。

そういえば、デビュー当時「なんでいるの」と言われていた上原多香子さんが、順調な滑り出しをみせてますね。やっぱり人として、ダークホースに肩入れしたい本能が働いてるのかも知れない。
 自分のレーベルに「Dark Horse」と名付けてしまったGeorge Harrisonはその線を狙ってたんでしょうか。休み中にCD整理してて気づいたんですが、我が家にはJohnやPaulのアルバムよりもGeorgeの方がいっぱいありました。いいよGeorge。音楽の嗜好なんて思い入れが全て。余計な知識に左右されようが、いいと思ったらいいのです。

マニアックという志向は、このダークホース本能に突き動かされていると思う。駄目人間ほどダークホースに肩入れしてマニアに走る。そういえばうち、Ringoのアルバムもそろってます。けっこう聴いてます。

5月18日 東京アンダーグラウンド

中学に言語センスのない国語教師がいて、「東急も戦前は『工業都市』なんて酷い駅名をつけてたのに、最近は『あざみ野』とか『つくし野』とか洒落た名前をつけるようになりましたね」って言ってたの。そうか今はペンションみたいな駅名をつけてる東急も、戦前には「工業都市」なんてイカした名前をつけてたんだ。おじさんたちがトンカチたたいて働いてそう。陽の当たる空き地には廃材が転がって、煤けた子供たちが駆け回ってたかも。場所は今の武蔵小杉あたりだそうです。
 なんでこんな話を思い出したかっていうと、最近世の中に非常に嫌な言葉が蔓延しているせい。それはシヴヤ。なにシヴヤって。「さいたま市」と同じ薄ら寒さを感ないか。

童謡「春の小川」を作詞した高野辰之が芸大教授時代に住んでいたのが今の代々木八幡辺り。だからあの歌のモデルは宇田川の支流なんだって。今や世界有数のレコ地帯、宇田川町の宇田川。
 「春の小川は埋め立てられた」なんて替え歌もあったけど、宇田川は今もしたたかに流れています。暗渠となって渋谷の街の地下深く、ビームとクアトロの間をすり抜けて宮下公園の前で渋谷川の暗渠に流れ込む。映画「Love & Pop」で三輪明日美が「あの素晴らしい愛をもう一度」を歌いながらバシャバシャ歩くドブ川は、渋谷のアンダーグラウンドを洗い流した渋谷川が太陽のもとに姿をあらわすところ。もうちょっと歩くと笄川と合流して古川と名前をかえ、浜崎橋ジャンクションの真下から東京湾に注ぎます。

スコットランドのポップバンドBMX Banditsが、「春の小川」を大胆にカバーしてBrian Wilson風の素晴らしいインストに仕上げています。1995年の傑作「Gettin' Dirty」に収録。これぞ宇田川町ポップス。彼らはこの次のシングルで渋谷のストリートペインティングをジャケットに使って、C/Wには「Love and Marcy」の素晴らしいカバーが収められています。こんな粋な真似をするのがスコットランド人ってのはどうなのか。日本人よ、シヴヤじゃないだろう。東京の地方性というものを大事にしたいものです。
 西武のA館とB館の間に地下通路がないのは、東横の東館に地下階がないのは、そこに川が流れているから。渋谷だってひと皮むけばちゃんと生きてるんだよ。

2015年追記 : 西武のA館とB館の間には地下通路がないというのが定説でしたが、宇田川の下、地下3階に業務用の地下通路があるそうです。凍結工法で掘ったらしい。

5月23日 Coming, colors in the air

ネタとして半年くらい出遅れてますか? だいじょぶ?
 iGumだって。カネボウフーズより発売中です。カネボウなんで味は推して知るべし。ブルーベリー、グレープ、ライムはそのまんまの名前、ストロベリーはなぜか「チェリー味」でタンジェリンは「レモン味」になっています。昔っから子供心に胡散臭いメーカーだとは思ってたけど。どうせそのうちグラファイトも出るんでしょう。

クロスレビューRock Crusadersを更新しました。今回のテーマはDylan GroupがOrbの「Towers Of Dub」をカバーしたやつ。

5月29日 父さん母さんありがとう≒嫁と息子に感謝する

歌謡曲が行き着くところ、いつの時代も家族愛。

ポップフリークの聖地オンステージヤマノ、久しぶりに行ってみたら無くなってるじゃないですか。同じビルに入ってる山野楽器の一角に、オンステージからそのまま持ってきたと思われる棚が残っていましたが、新作のブートはほとんど入ってませんでした。山野楽器じゃ堂々とは売れないよな。
 中部だか東海だかいうグループが夏の悲恋を朗々と歌いあげる中で、モッズコーナーを漁るおじさんの背中が心なしか寂しそうでした。

2月から中身を更新してなかった。書きかけたまま放置していたやつを載っけときます。Beach Boysコーナーにフォロワーズの棚をどかっと新設しました。溜め込んじゃだめですね。テキストがどんどん劣化する。