DIARY 1999年冬


12月1日 ちっちゃなフィリップ

宇田川気分でPhilippe Decoufleのドキュメンタリー映画「プラネット・ドゥクフレ」を観てきました。

一介のダンサーだった彼がパワーズ・オブ・テンなみの加速度で視野を広げていくプロセスを追ってみると、舞台芸術の概念を超越した彼のスペクタクル作品もやっぱり「ダンス」なんだと納得。アルベールビルオリンピックの開会式で見せた、巨大なタケウマやゴムひもを使って空を駆け回るパフォーマンスも、手足を使って空間を捉えるという意味ではダンスの延長上にあります。

彼の捉える空間と運動の面白さを二次元にパックしたのが一連の映像作品、そしてその映像の前に新たな空間をつくってみせたのが最新の舞台作品「Shazam!」。まるで、マルチトラックに録音した演奏を1本にダビングして、空いたトラックにまた新しい演奏を重ねていく60年代のレコーディングみたい。ドゥクフレの芸術は、次元を圧縮してはまた新たな次元を積み重ねていくのです。

終演後、なおも宇田川気分でKaterineのライブ。もうひとりのPhilippeに会いに。

余談:実は10月にも1本ライブに行ってるんだがあまりのつまらなさに何も書けず。もう行かないかも。関係者席で大あくびしてた庵野秀明さん、面白かったですか?

12月6日 Rockin' Around The Christmas Tree

体調悪いくせに、山下達郎さんのクリスマスアルバム欲しさにケンタッキーフライドチキンを食べる大馬鹿者。宗教行事のために毎年のようにポップソングが大量生産されるなんて日本人の感覚ではよくわかりませんが、僕らのクリスマス好きは素晴らしいクリスマスソングのおかげです。
 ラマダンソングなんて文化がなくてよかった。Phil Spectorで3kg痩せた! とかさ。アブフレックスをお求めの方にもれなくラマダンアルバムがついてきたらどうしよう。

宮子和眞さんの「インドアポップサイクル」をパラパラめくってびっくり。この本で紹介されている100枚のアルバム、半分以上は僕がいつでも聴けるところに置いてあるのです。Brian Wilsonからバーバンク、シンガーソングライターを経て、Beck、Stereolabに至るライン。それだけならまだありきたりだけど、ちょっとした寄り道までばっちり身に覚えがある。
 自分はわりと無節操に音楽を聴いてるつもりだったんですが、こうして体系化されちゃうと全部「インドアポップ」だったのか。

Beach Boysコーナー更新しました。ブラザーレコード時代のアルバム5枚。エサ箱を探ると後ろの方に入ってます。

12月13日 Waitin' for a Superman (Is it gettin' heavy?)

ああもう、今年はFlaming Lipsなんだがなあ。人に薦めてもいまいち反応鈍いし、ファンサイト見に行ってもどうもツボが違うみたい。なんか一人で盛りあがってて寂しかったんですが、ここへきてようやく直枝政広さんと高橋健太郎さんの絶賛記事を発見。権威の力を借りて再び盛りあがってます。Lipsさいこー。

直枝さんは「The Soft Bulletin」を今年のベスト1に挙げ、「これ以上ないほどぼくの趣味に合いました」とコメント。高橋さんはライブ評を「今年のベストライブのひとつ。いや、きっと何年も忘れることのできないコンサートだろう」という言葉で締めてます。お二人ともWayneのNeil Young性を指摘しているのはほほう。だけど高橋さん、メンバーの名前を根本的に勘違いしてますよ。
 10年後の僕は今回のタイトルに込めた暗喩をちゃんと思い出すように。最近もの忘れが激しいから心配。

12月20日 若いこだま

クロスレビューRock Crusadersを更新しました。今月のテーマは「1999年を振り返って」。Lipsのことばっかり書いてもよかったんですが、あのサイトの読者には受けなさそうなんで、「2000年問題」とかそういうベタな話に。駄目な僕。そもそも「何年代」っていう切り口が非常に80年代的だったと恥ずかしい気持ちになる。

実は今年を振り返ろうにも新譜を聴く時間がなくて、この夏から聴いてないCDがうず高く積み上げられています。一生かけても聴ききれないほどレコードを買ってしまったという山下達郎さんの呟きは喜びなのか嘆きなのか。
 「レコードを聴くのは好きだけど買うのはもっと楽しい」という小西康陽さんの告白は、誰もがこっそり同意したに違いない。でも、買ったレコードを聴いてないことを自慢するみうらじゅんさんどうなのか。あの山、少しづつ切り崩していこう。

12月24日 人の背中を見て育つ

火を噴いて暴れまわる凶悪ロボットが互いをぶっ壊し合うパフォーマンスで知られるサヴァイヴァル・リサーチ・ラボラトリーズ。待望の初来日公演と聞いてデジカメ持っていそいそと出かけたんですが、会場は丸ノ内線もびっくりの大混雑で、見えたのは前の客の背中だけ。寒空の下を1時間半ならんで押しくら饅頭して、前の人のセーターのテクスチャを1時間眺めて帰ってきた。
 いちおう腕を伸ばして写真とってきた。身長が210cmくらいあればこんな風景が見えたみたい。

12月31日 Colour Field

ミュージックフリークという人種はどうしても年間ベストを選びたくなってしまう性分です。レコードコレクションとは、完璧なチョイスを完成させるための手段に過ぎません。
 2000年を迎えるにあたって、これまで僕が愛聴してきたアルバム様を一同に並べて讃えたいと思います。完璧に自己満足です。コメントありません。選択こそ批評。整列こそ創造。

手間の割に見栄えが変わらないんですが、メニュー構造をちょっと変えてみました。デザイン面でいろいろ無理がでてきたな。

1月5日 2000-00

明けましておめでとうございます。2000年だって。やばいね。
 WindowsがY2K問題に対応してないって知ってました? 常識なのかな。業務用パソコンには修正プログラムいれといた方がいいって言われて大晦日に一人で出勤。帰りの道すがらPizzicato Fiveのカウントダウンライヴの会場を覗いてみたら、なんか当日券で入れちゃった。

ついでにずっと公開し忘れてたBeach Boysの60年代末のアルバムレビュー5枚分を追加しました。

1月13日 月面不参加

12月1日の日記にMoonridersのライブがつまんなかったことをちょろっと書いたの。ポツポツとリアクション頂いたんで、思うところをちゃんと書いておきます。
 あの日のライブは昨今の「ファンに媚びるライダーズ」の集大成でした。不穏な空気はライブ開始前からあった。白井良明さんによるDJタイム、ものすごく下手なのは置いといて、数曲に1曲は自分達の曲をかけてたんだ。野暮だわ。ライブ本編もここ数年の「お約束」で、ここで泣いてここで踊ってくださいって手取り足取り指示されてるみたいな気分でした。もちろん興味深い演奏もあったんだよ。20世紀への郷愁を込めた「Kのトランク」や、ルーズな「Honky Tonk Women」のカバーや。

かつてライダーズとファンの間には、「僕ら勝手にやってくから聴きたい奴だけ聴きな」「じゃあこっちも好き勝手聴かせてもらうよ」っていう、よく言えば自己責任に則った関係が成立していました。それが崩れてしまったのは、ひとつにはファンクラブの設立、そしてもうひとつにはインターネットの弊害があると思います。今まで見えてなかったファンの姿が直に見えるようになっちゃった。
 今のライダーズの迷走ぶりは、ガロが少年ジャンプを目指しているようなもの。妄信的なファンの意見なんて何の指針にもならない。オフィシャルサイトの掲示板みてください。ちょっとでも否定的なことを書いたら信者達の袋だたきにあう。

ファンに媚びるという手段は、ライダーズの置かれている厳しい状況の中でやむを得ない方策なのかも知れません。我が道を歩み続けた彼らの同志たちは、今やほとんど表舞台から姿を消してしまった。20年以上もヒットのないライダーズが、辛うじてメジャーレーベルにひっかかって生き残っているのは奇跡です。
 彼らは「ライダーズはいつも変わり続けてファンを裏切ってきたのさ」っていうかも知れない。でも、ファンを置いていくというスタンスを置いていくなんてメタな変貌ぶりには僕はついていけない。僕をロック少年にしてしまったのは明らかにライダーズで、今でもとても思い入れのあるバンドです。それだけに残念で仕方ない。ところで、メンバーの中にも違和感を感じながらやってる人が何人かいるような気がする。鈴木博文さん、満足してますか?

1月20日 始まりの終わりの始まり

渋谷で「Last Waltz」やってますね。映画館でライブ映画を観たの初めてなんですが、熱いステージを前にお行儀よく腰掛けるのはどうも。拍手はおろか、咳払いでもしようもんなら睨まれちゃいそうな静けさでした。あたりまえか。
 ご存じの通り、「Last Waltz」はThe Bandの解散ライブを追ったドキュメント映画です。ステージ風景を中心にインタビューを巧みにはさんで、バンドの歴史を鳥瞰してみせる。見どころは豪華なゲスト陣です。盟友Bob Dylanはもちろん、Neil Young、Van Morrison、Joni Mitchell、Eric Claptonといった同時代の先鋭たち、さらにはR&Bのパイオニアから現代詩人に至るまでロックの偉大なるルーツが同じステージに並ぶ。あるバンドの終焉の記録というより、アメリカンロック史そのもののひとつのピリオドです。

こういうお祭り騒ぎをやって、かっこよく見える場合とそうでない場合がある。紙一重を隔てるものは何でしょうね。ウッドストックに出たことを後悔しているという彼らにお祭り騒ぎは似合わないような気もしますが、映画の中の5人はめちゃくちゃかっこよかった。彼らの功績を讃えるゲストもそれに応える彼らも本当に楽しそう。
 でもやっぱりあの時代、あの場所だから許された祝宴なわけで、得体の知れない時空のマジックを掴む緊張感が、ステージ上のメンバーの間で無意識のうちに共有できてる。本人たちはどれくらい自覚的だったのかな。なんも考えずにオーイェーって言ってただけなのかも知れない。

CDケースに収められたパンフレットがキュートでした。味気ないと言われ続けてきたプラスチックケースも、ようやく愛情の対象になったってことか。ずっと欲しかったCDを手に入れたとき、帰りの電車の中でキャラメル包装を剥いちゃうでしょ。パンフの封を開ける時にあの興奮が不意に蘇って、ミュージックフリークとしての至福の一瞬を見すかされた気がしました。物に対する愛。
 それにしてもRobbie Robertsonは田中麗奈に似ている。誰も賛同してくれないのはわかってるんです。でもね、頬の筋肉の突っ張り具合が似てるの。

クロスレビューRock Crusadersを更新しました。今回のお題はSimply Redです。

2月1日 そして僕は喋り過ぎた

お酒飲んだらちょっと暴れたい。醤油飲んだからちょっと逃げ出したい。薬屋さんって客の顔をよく見てます。激務期にはチョコラBBやバンテリンコーワの試供品をくれたのに、ここんところハイチオールとか五苓散とかいわゆる二日酔系を渡されることが多い。

最近ちょっと文章が長くて。心が荒んでると話がくどくなる。Beach Boysコーナーにデビューから1966年までのレビューを追加したんですが、これがまた長い長い。いいかげんスタイルシートを導入して、せめて見栄えだけでも読みやすくします。お酒も控えます。

2月8日 レコ屋のカップル

「だからさぁ、赤と青と白はベスト盤なんだよ」
「あそっかあ」
「赤は'62年から'66年だから4年分だろ、青は3年分だろ、
 白は30周年記念だからぜんぶ入ってんだよ。
 ...ほらオブラディオブラダ両方にあるじゃん」
「あっほんとだあ...でもレットイットビーは白にないよ」
「うそ、貸せよ...ぜってえあるって...白は字が読み難いんだよ」
「イエスタデーある? 」
「バーカあれはジョン・レノンだろ」
「...でも赤には入ってるよ」
「...じゃ白にもあるよ、白にしようぜ」

結局「白」を買っていきました。彼女はたぶん気づいてた。ふたりが「白」を気に入ってくれるといいと思う。

Beach BoysコーナーにBruce JohnstonとOther Members合わせて14枚分のレビューを追加しました。エサ箱の下のほうを漁ってください。

2月10日 むかし夢見ていたおぼろげな僕は

今日もまた、決して世に出ることのない作品を作る。「パソコンじゃこんなのしか出来ないからやっぱりビデオで作りましょうよ」っていうためのデモソフト。たまには友達に見せられる仕事がしたい僕は俗物。

Beach BoysコーナーのBrian Wilson 1994-1999に小ネタを追加しました。

2月16日 Music For Astro Age

A.D.2000年。ガングロ雑誌「egg」休刊。公式見解によると「Speedみたく絶好調の時にやめるのがかっこいいと思った」からだそうですが、実情は内部抗争だとか編集者が居着かなかったとか。誌面構成もなにもなく、ただ茶色い写真をベタベタ貼ってくだけの仕事が嫌になったのかもしれない。
 最終号でひときわ目を引くのは、第5回egg大賞受賞記念故郷凱旋コーナーです。受賞者は青森出身の女の子。雪降り積もる盛岡駅前で、ビキニを着て例のポーズ。根性あるなあ。渋谷にたむろするアダモちゃんは、埼京線や常磐線に乗って北の国からやってくるという都市伝説があるんですが、まさか盛岡からおいでとは。さすがに津軽海峡は超えられなかったんだろうか。ブラキストン線か。

素晴らしい本を見つけました。「彼らが夢見た2000年」アンドリュー ワット・長山靖生著。20世紀初頭の人々が描いた未来絵図を世界中から集めたもの。蒸気機関と飛行船に託した夢。アール・ヌーヴォー調の巨大な建築物が、バベルの塔や九龍城のようにそびえたち、人々はちっちゃな気球を背負ってあくせくと...でも本当の2000年からみたらかなり優雅に暮らしています。これは面白い。
 人間電送機や海中都市と並んで、超大胆なくるぶし上スカート (膝上ではない) まで登場します。まさか雪国でビキニを着用するとは思いもよらなかったらしい。

A.D.79年。ポンペイ市埋没。発掘された小物達は、骨董趣味なんかじゃなくお洒落な日用品としてぜひ欲しい、と思わせるものばかりでした。絵画や彫刻のモチーフも、文房具やちょっとした小物の佇まいを描いたり、高度な描写力がありながらあえてダサ可愛さを狙ってみたり、ギリシアの古典彫刻のパロディで「酩酊した老婆像」を作ってみたりと、今でも使えそうなネタばかり。そのころ日本は弥生時代でした。
 「イタリアポンペイ展」もう終わっちゃうけど、入場料高いだけのことはあったよ。彼らの日常がありありと浮かんできた。ガングロ少女の日常よりも。ポンペイ遺跡にはまだかなりの未発掘地域があって、21世紀いっぱいは手をつけずに未来の考古学者に調査を託すそうです。果たして2100年の人々は、どんな格好でどんな生活をしてるだろうか。

2月21日 Style It Takes

スタイルシートの概念を根本的に勘違いしてました。概念なんて偉そうな言葉を持ち出すのが恥ずかしいほど。あそっか、だから「スタイルシート」って言うのね。面白いですね。いつかちゃんと使おう。

クロスレビューRock Crusadersを更新しました。今回のお題は10ccの「The Original Soundtrack」。三人三様のリアクションをご堪能ください。それとBeach Boysコーナーにコンピレーションアルバムをごっそりと。

2月28日 The Great Nostalgia

唐突に越後湯沢に行ってきました。近場の温泉とかにはたまーに行くんだけど、なんとなく山手線の引力圏から離れないとトラベル感が湧かなくて、だから心情的には6年ぶりの旅。なにしろ予定が立たない職種なんで...。いや違うな。日常に溺れてるうちに「旅をする自分像」というものが思い描けなくなっちゃったんです。ここんとこ沸々と野山を愛でたい気持ちが湧いてきて、リハビリを兼ねてひとりで高尾山遠足にでも行こうかと思ってた時にジャストなお誘い。締切の群れをギリギリかわして週末の自由を勝ち取ったのでした。

山は白銀、朝日を浴びて。僕の知ってるスキー場は広瀬香美やZOOがガンガンにかかってるところでしたが、時は流れてゲレンデはスノボの天下。耳障りなBGMもすっかり姿を消して、アースカラーの少年少女がアースを体感していました。いいことだね。そんな中で、弟に借りたウェア (バブルの遺物) と同行者に借りた耳あて (実用性なし) のコーディネーションが我ながらあんまりだったので、反省の意味を込めてここに晒します。や、実は耳あてはちょっと気に入ってる。や、やっぱダメ。

無理をしてでも行ってよかった。考えることを拒否して固まっていた脳の襞が、しばらく忘れていた感情のバリエーションを次々と蘇らせていくのが自分でもわかりました。それと同時に喋り方がどんどんゆっくりになっていって。そういえば昔は喋るの遅かったな。ゲット・バック、これがベーシックな僕。ポップスに胸ときめかせてたあの頃は、これくらい感情の手数があったわけだ。