DIARY 2001年秋


9月9日 情けない僕に君はいら立ち、僕はまた僕を責める

更新が途絶えがち。治療方針が変わって眠り続けてます。9月に入ってからの総起床時間は、平均的な日本人の2日分くらいじゃないかと思う。そんなわけで秋の実感がまだ湧かなくて、久しぶりに外出したら寒くて驚いた。今日はスコールが降ったりいきなり晴れたりで地味に蒸し暑い。僕の知らないところで地球は回っている。

最近の些末な関心ごとは掲示板に書いてます。
 クロスレビューサイトRock Crusadersはリニューアルに向けて準備中。云々。今月は何かと仕込み月間になりそう。

9月11日 ハロー警報

またしても大型台風がセイハロー。16号もきてるハローハロー。木村太郎さんは城ヶ島まで現地レポートに行く必要があったんでしょうか。
 秋雨のシーズン。お天気お姉さんは雨の日には悲しい顔をするのが仕事です。でもみんな、そんなに雨が嫌いなの? というわけで、雨の日に聴きたい曲を集めたCDを作ってみました。欲しいという酔狂な方がいらしたらメールください。先着10名様に差し上げます。何人かの方には勝手に送りつけます。

BBSで教えて頂いた曲は殆どチェックしました。「雨の日にはジャズを聴きたい」という声も多かった。聴いてみて納得。でも自分の守備範囲外の曲を選ぶのは借り物っぽいので外してしまった。
 気候の違いがポップスに与える影響についてはまだまだ研究の余地がありそう。60年代のアメリカの雨の歌にはほぼ例外なく雷の音が入ってました。イギリス人はじとじと降り続く雨にうんざりしてる。Painと韻を踏むためだけにRainが登場します。日本で降水確率が高かったのはナイアガラレーベルとそのフォロワー達。ティンパンファミリーは乾燥気味でした。

9月11日深夜 テロのことなど

最近のアメリカには嫌悪感を抱いていたんだけど、この惨劇を見逃すほど愚かにもなれず。ニュースを聞いて大はしゃぎするパレスチナの子供達には、僕の想像を遥かに超えた壮絶な日常があるに違いない。アメリカでも中東でも、悲劇はほんとうに起きている。「自由を守るためにあらゆる手段を取る」と言うブッシュ大統領が、次の悲劇を起こさないことを祈る。今はそれだけ。

9月12日 翌朝に思うことなど

ブッシュ氏はやる気まんまんである。靖国純一郎も拳を握っている。ジャイアン国家にあおられて、スネ夫やのび太はもちろん、出来杉からしずかちゃんまでが気を上げている。ジャイアン次第では不毛な報復合戦に発展しかねない。数千人の犠牲者が数万人にも数十万人になりかねない。国連のアナン氏は「テロ行為にはいかなる正当性もない。が、こういう時こそ冷静な対応が必要だ」と言っていたけど、再放送では後半がカットされていた。報復にも正当性などない。

9月18日 そっと背泳ぎを決めて浮かんでいたいの

飯島愛の役を星野真理が演じる昨今。わこうどよ、あなたは背泳ぎをしますか。
 僕がいつも行く区民プールでは、中・高年の方々がみんな背泳ぎをしています。当然のようにプール中央で激突、轟沈します。僕らの生まれる前に背泳ぎブームでもあったんだろうか (ボーリングブームみたいなの) 。それとも彼らなりの出会いのテクニックなんだろうか (図書館で同じ本を手にとって「あっ」みたいなの) 。お怪我はありませんか、なんてところから茶のみ友達に発展したり。

前回ご紹介したレインソングコンピレーション、欲しいという方が本当に現れてびっくりしてます。しかも公開当日の昼過ぎには申し込み数が予定枚数を上回り、その時点で予約を打ち切るのも無碍かなと思っているうちに結局23人分、46枚を生産することになりました。発送というより出荷、といった風情でした。
 趣味でお金を取るのは不粋なので今回は無料で配付しましたが、また似たような企画をする場合は、皆さんのお薦めコンピとトレード、とかそういう文化を育んで参りたい。

最近の購入音源。Cornelius / Point Of View Point 先行シングル。アコギでプログレ。アルバム聴いてみないとなんとも。Gamo / Gamo Utilities 「小池屋スコーン」や鉄拳のお喋りをサンプリング。超バカ。大好き。Fennesz / Endless Summer ウィーンのノイズユニット。アコギを使ってメランコリックに変身。Manual / until tomorrow Morrレーベルのエレクトロニカ。クールなのにほのぼの。Scratch Pat Land / solo soli iiiii Sonigレーベルより。Sack Und Blummをお気楽にした感じ。最近この手の音が本当に面白い。

無限の報復:この1週間、どのサイトを見てもテロの話題でもちきりでした。あたりまえってばあたりまえなんだけど、薄気味悪さも感じたな。僕らはアメリカのこともアラブのことも知らなすぎる。結局気分としての反戦というか、対岸の火事としてしか考えてないのかなあとも思う。という引け目があるから薄い色で書いてるんですが。そんなばかちんでもわかるのは、「無限の正義」なんてものは存在しないということ。
 アメリカ人には共通のアイデンティティが必要で、それが「正しいことと自由のために戦うこと!」なのは、あくまでアメリカの都合に過ぎません。そして、「明らかな悪」が枯渇してきた昨今、アメリカは誰を仮想敵に仕立てるかを模索していたように思います。特に不明瞭な選挙で選ばれたブッシュ大統領は、今回のテロという「明らかな悪」によって、国威の掲揚と自分の基盤作りをしているようにも見えます。
 同じようにイスラム圏の人々にも、心の拠り所になる宗教や団結のための目的が必要で、それを踏みにじられたら当然激しく怒ります。それは彼らの論理だし彼らの都合です。アメリカの都合とイスラムの都合がぶつかって報復合戦をしている今、第三国としては止めに入るべきじゃないかと思います。
 イスラムの人達がどんな教育を受け、どんな思想を持ち、どんな生活をしているのかを僕らは本当に知りません。それを知って、君たちのどこがあかん、ということを的確に指摘しなくてはいけないと思います。世界中がイスラム原理主義になって欲しくはないけど、世界中がディズニーランドになって欲しくもない。

9月27日 今日の空

大切な後輩の結婚式に出席。いつも午後3時起きとかしている身としては、午前8時半起きなんて未知の領域です。目覚ましを2個かけてモーニングコールを頼んでステレオのタイマーをセットして、CDに合わせて大きな声で歌を歌った (冬山の遭難者のように) 。
 結婚式は秋空の下で穏やかに進行。ご両親への感謝の手紙が案の定「てにをは」に問題ありで笑ったけど、その辺も含めて彼女らしくて先輩は感動したよ。出会った頃は幼かった君も、いつの間にか本当に大人になった。

最近、仲のいい後輩が次々と結婚して名前が変わる。正直、花嫁の兄くらいの気持ちにはなる。これからは急に呼び出して酒飲んで弱音はいたりできないんだな。
 二次会では受付を仰せつかっていたにも関わらず、パーティ帽をかぶってはしゃいでしまった。かぶりもの大好き。会計に誤差があったらすまん。三次会まで顔を出して、久しぶりに酔っぱらって撤収。なにはともあれ、おめでとうおめでとう!

その翌日は寝て過ごすつもりが、ロックサイト同期会のお誘い。行く! メンバーは、今や人気ライターになってしまったOUTDEXのムネカタさんと、日本のロックサイトのクオリティを飛躍的に向上させたCarnation Garden (現在は休火山) のフミエさん。
 初めてお会いするムネカタさんは、目をきょろきょろさせながらアップテンポに仕掛けてくる方でした。一方のフミエさんはヘビーなテーマで応戦。ハードロックな展開に、僕のインドアポップなファルセットなど吹き飛んでしまった。でもあと3回飲めばいい友達になれるよ。

アメリカの新聞に意見広告を出す運動があるそうです。知ってて損はないのではないか。

10月9日 ファッションについて

やりたいことはいっぱいあるんだがダルー。ほぼ徒歩圏内で生活が完結してます。大森山王の洋服屋さんが考える「ファッション」という概念について思い悩む日々。
 最近はミニストップのまぐろユッケ丼がウママママーッ! あと近所のスーパーで売ってる「健康果仁」っていうハムスターの餌みたいなおやつがウママママーッ! カシューナッツやレーズンがいっぱい入ってるの。ひまわりの種も入ってる。ここはときどき卵とか異様に安い日があって、電波少年の鮒子が自転車で来ないかなどと思う。

最近の購入音源。Francois De Roubaix / ANTHOLOGIE 「冒険者たち」や「ラムの大通り」で有名なフランスの映画音楽家。ノスタルジックで少し悲しくて少し楽しい。Wechsel Garland / Wechsel Garland サンプラーを駆使したドイツエレクトロニカの代表格。霞み草でも食べてそう。Raymond Scott / soothing sounds for baby 伝説のムーグ使い。ペリキンより上品で聴きやすいけど、babyに聴かせても受けない。

10月15日 狂牛病渦のしゃぶしゃぶ屋

すいてるかと思って行ってみたら全品半額サービス中につき満員御礼。店員さんは大わらわ、ハシだって取り違える。たらふく食べて結構飲んで、ひとり2000円ちょっとだった。
 狂牛病問題のポイントは坂口厚労大臣はヅラなのか、ってことじゃなくて厚労省の対応は適切だったかという点につきます。しゃぶしゃぶは見るからに脳髄じゃないし、食べられると思うよ。

10月18日 Bob Dylanの「やっちゃいました」

Bob Dylanがバックステージパスを忘れて、自分のライブ会場から閉め出されちゃったそうです。そのとき彼の頭の中では「Knockin' On Heaven's Door」が流れていたか? かわいそう。でも時期が時期だけに警備員さんだって慎重になるよね。

鈴木惣一朗さんのオフィシャルサイトQUIETONE.NETに新しいコラムを書かせていただきました。Archivesをご覧ください。題して「牧歌テクノでまったり」。Studio Voice誌などでもじわじわ来ている最近のエレクトロニカのお話です。がんばって書いたのでよろしくお願いします。スペシャルサンクスサイトウさん。
 ちなみに鈴木惣一朗伯父はまもなくエレクトロニカモードに突入予定。竹村延和さんとのユニットに続いて、WunderことJorg Follertとのコラボレーションが待っているとか。

10月24日 今日のタナソウ

今日のタナソウ(WAV 44K)。くだらないので注意。

Macをアップグレードしてシーケンサーも買って、数年ぶりにやったるで! と思ったとたんモニターが故障。みんなに「変なもの増設したせいだ」って言われたけど違うんだよ。電源の接触不良だもの。あまりに悲しかったので「モニター壊れマンのテーマ」を作曲して歌ってたらT.N.が余ってるモニターとVRAMをくれました。
 泣き言をいうと後輩が助けてくれるような先輩はもうそろそろやめにしたいと思う。「どんとこい、見ろよ青い空」みたいなやつになりたいのだよ。あと半年で30だしな。

11月1日 ドラムを打ち鳴らせ

憧れのペダル式ゴミ箱を購入。ちょっと踏んだだけでフタが大胆に跳ね上がる。レスポンスのよさに感動した。ドラムセット! バタバタとリズムを奏でる29歳の秋です。本来の用途に戻ったら臭くなっちゃうからね、こういうことができるのも今だけです。
 この楽しさを皆様にもお裾分けしたくてヴァーチャルドラムセットを制作しました。ペダルをクリックしてください。音が嘘っぽくなっちゃったけどちゃんと本物からサンプリングしてます。このタイプのドラムがネットに乗るのは世界でも初めてじゃないかと思う。

...お楽しみ頂けましたか。3時間もかけて作るほどのもんでもなかったか。そもそもゴミ箱を買ったくらいでハイになってる場合ではない。
 お恥ずかしい話だが、最近人生が楽しいような気がしてきました。別に恋をしてるとか仕事が見つかったとかじゃないんだ。医学的には「躁転」という現象だと思います。鬱状態をやっと抜けて、たぶんしばらくは躁状態が続いてだんだん安定してくる。灰色の階段、長かったなあ。

最近の購入音源。Cornelius / POINT 地味で売れなそうだけど音像の組み立て方が絶妙。長く聴けそう。Solvent / SOLVENT CITY クラフトワーク直系のエレクトロニカ。意図的にかわいい路線。Eels / SOUL JACKER テーマはヘビーだけどポップなところはしっかりポップ。V.A. / POP IST SHERIFF! 久しぶりにハイクオリティなラウンジコンピ。Senor Coconutとか。Captain Mook & Sazan All Stars / World Hits!? of Southern All Stars サザン関口氏によるサザンカバー集。Double FamousやNoahlewis' Mahlon Taitsも参加してマニアックな仕上がり。汚れを知らないサザンファンが聴いたらどう思うだろう。問題作。

11月8日 世界征服は練馬から

岐阜県の大垣で1年おきにやっている展覧会「The Interaction」を見てきました。今回も閑散としてた。なんでかなあ。世界のメディアアートのエッセンスが一箇所で (しかもタダで) 見れちゃうんだから新幹線代払っても惜しくないと思う。少なくともICCとか行ってるよりは確実に楽しいので、みなさん再来年は行こう。
 でも4回目ともなると、さすがに面白さの質は変わってきた気がします。最初の頃は作品との対話そのものに驚いた。自分に合わせて作品が変わっていくなんて! でもここ数年の間にインターネットが爆発的な「Interaction」を育んで、そういう意味での新鮮さは薄れたのかな。そのかわり、映像や音響のクオリティや、テーマの風刺性が大切になってくる。芸術として何を問いかけられるか、という段階にようやく入ってきたようです。

せっかくなので岐阜界隈を観光。景勝地を避けて、正しい日本の田園風景を眺めてきました。スペシャルサンクス:ウメダミホさん。レンタカーを借りて樽見鉄道沿線から断層博物館へ。途中のコンビニで「ダンソウ博物館はどっちですか」と聞いたら変な顔をされた。確かにあんまりなネーミングだと思う。で、田舎道の集落にはやっぱりお婆さんが立ってました。日本中の集落で、今日もお婆さんが立っているのかなあ。
 東京に帰ってきて岸野雄一さん「ヒゲの未亡人ライブ」@和光大学。小田急線の鶴川駅に行かなきゃなのに鶴間駅で降りて迷った。鶴川だの鶴間だの鶴巻だの、笑福亭みたいな駅名ばっかりでまぎらわしい。あとでメモ帳を見たらでっかい字で「鶴光駅」と書いてありました。そんなわけでライブは最後だけ見てそのままトークショー→打ち上げへ。10個も歳下の大学生たちとホソノ周辺について語りあった。

この1週間ざっとさらっただけでそんな感じ。なんかもう半年分ぐらいの刺激を受けたと思います。コンピューターとアートの未来のこと、地に足のついた田舎暮らしのこと、断層と地球のエネルギーのこと、ボードビリアン魂でポップスをさらう岸野さんのこと、ホソノ道に迷いこんでしまった若者達のこと。ウクレレもちゃんと習うことにした。
 大垣でこれからの人生についてちょっと考えた。どう考えたかはまだ内緒ですが、何をするにしても英語の壁が立ちはだかるよなあ。中学のクラスメートのカナモリ君が「世界征服して日本語を国際語にする」って言ったのを頼もしく思ったものです。まだ期待してる。もう10年以上も会ってないけど練馬あたりは征服できたかなあ。

11月19日 あれから僕たちは何かを信じて来れたかなあ

諸般の事情で母校を訪問しました。何年ぶりかな。あの学校に通っていたことはもう甘酸っぱい想い出で、記憶の底に眠っていた風景がリアルに迫ってきた時は倒錯感でドギマギした。異様に広く感じたのは、土地の使い方が根本的に違うせいもあるけど、僕がせせこましい日常を送ってきた証しのような気もします。あれから幾つも川を渡ったね。

建物の中に入ると、絨毯の匂いやら掃除のおばちゃんがゴミ箱をかたす音やら、当時は気にも止めてなかった些細な刺激がいちいちノスタルジーを爆発させます。廊下の向こうから今にも友達が声をかけてきそう。でも近頃の若者はみんな携帯電話を手にして、あの頃の僕たちとは違う学生生活を送っている。僕が大学生の時はまだ携帯が普及してなかったんです。実家に住んでる女の子に電話する時は緊張した (おかげで敬語が使える最後の世代になったと思う) 。

ところで同窓生の日記を集めたアンテナに登録したんだけど、人が流れてくる気配がない。卒業生の日記 (しかも男の) なんて興味ないのはわかる。もし読んでる現役生がいたら、掲示板に必ずメッセージを残すよう。
 いきなり話は変わりますが、ある人に「右肩があがってる」と指摘された。絶対マウスを使ってるせい。職業病です。デザインとかやってる人はみんな右肩があがってると思う (プログラマーや物書きの人は違うかも) 。きみの肩は大丈夫かい。

最近の入手音源。Raymond Scott / Manhattan Research ヤン富田さんの元ネタってこれだったのか。Rei Harakami / trace of red curb リミックス集。Wechsel GarlandやAtom Heartが参加。悪いはずがない。Oh! Penelope / Oh! Penelope 辻睦司さんと渡辺善太郎さんの幻のユニット。Fishmans meets Phil Spector。なんで売れなかったんだろう。表記不能 ギリシャのおみやげ。哀愁の地中海。たぶん「あの人は船に乗って行ってしまった、でも私はグラスを片手にいつまでも待つわ」とか歌っている。

11月23日 コノボタンオセバオンガクカナデル

細々と音楽活動を再開しました。10年くらい前にいわゆる「デスクトップミュージック」をかじったことはあるんですが、当時はシンセだのサンプラーだのいろいろ必要で、よっぽど巨大なデスクトップを持ってないと出来なかった。で、しばらく遠ざかってる間にソフトシンセが進化して、パソコン1台でもそれなりの音が出せるようになった。
 久しぶりにシーケンサーを触ってみたら機能が多すぎてさっぱりわかりません。きっとPhotoshop 2とか使ってた人がいきなり今のPhotoshopをさわったらこんなかも。レイヤーって何? みたいなところから始めないと。

とりあえずマニュアル通りに設定してみる。音が出ない。試行錯誤を重ねるうち、Quick Timeのバージョンの問題のような気がして、古いやつを延々ダウンロードしてとりあえず音だけは出るようになりました。ところが今度はMIDIインターフェースがモデムポートをがっちり掴んで離さなくなっちゃった。これじゃネットに接続できない。というわけで環境設定をいじってるうちにパソコンが立ち上がらなくなったりしてもう大変 (かいつまんでいうと、散々な一日だったってことですよ) 。。
 でも最低限の設定はできた。これからゆるゆる動き出すよ。ウクレレエレクトロニカ。まってて。

11月25日 音楽とわたくし

下北沢のノアルイズレコードに行ってきました。扉を開けて目があったのは、なんと鈴木惣一朗さん。レジで談笑しているのは鈴木望さんと阿部広野さん。奥でレコードを漁っているのは桜井芳樹さん。試聴しているのは高田蓮さん。後から入ってきたのは福岡史朗さん。つまり店内にいる人間は僕以外全員ミュージシャンでした。東京ってそういうところです。嘘です。初めての経験です。緊張したわ。
 そういう時に限って欲しかったB級アルバムを発見してしまう。Gidea Park。買った。こいつしょうもなって思われたかな。

みんなの目的は、元Kingston Trioのリーダーで「Daydream Believer」を書いたJohn Stewartの36年ぶりの来日公演。50人も入ればいっぱいの小さなライブハウスは大盛況で、たぶん70人くらい詰めこまれたと思う。
 まわりはいかにもマニアなおじさまばかり。開演前からステージ上の楽器について熱い議論をかわしています。でもJohnの音楽は、ほんとは家族で聴くもんじゃないかと思った。普段はMarilyn Mansonを聴いてる次男のマイケル君も、ケッとかいいながら最後は一緒に口ずさんじゃうような。

Johnの声やギターのピッキングには、ディープな味わいがありました。でもそのテクニックは決してマニアのためにあるわけじゃない。アメリカという国には綿々と流れるポピュラーミュージックの歴史があって、昔に遡っていくと例えば移民の歴史があったり、今に辿っていくとJim O'roukeみたいな人がいるわけです。Good Time Musicから音響派まで、世代の断絶がない。そういう中に彼はしっかり立っていました。

僕はたぶん同世代の日本人とは違った音楽体験をしていて、いわゆるミュージックフリークだと思われている節があります。なんで人と違う音楽を聴くかといえば、別にマニアックな知識を仕入れて音楽通を気取ってみたいとかそういうんじゃないの。もっと生理的なレベルで、「あるべくしてある娯楽」を欲してるんです。「広告代理店の会議室が生産する」大衆音楽や「民謡保存会が保存する」民謡じゃないやつを。それが技巧的に上手い必要は全然ないし、Pro Toolsとかで作られててもいいの。Johnのステージを見ながらそんなことを思った。

ぎゅうぎゅう詰めの会場で、演奏を終えたJohnが僕の足につまづいてしまったのが申し訳なかった。しかも本編とアンコールで2度もつまづいた。日本公演の想い出があれじゃないといいなあ。申し訳ないので今度ウクレレで「Daydream Believer」をカバーします。