DIARY 2017年12月


12月3日 続続・生きることの苦しみは誰とも共有できない

11月25日11月29日の日記の続きです。気が滅入る内容だけど、これはブログじゃなくて自分用の日記なんで、僕の中の真っ暗も記録として書き残します。
 僕だって笑っていたい。誰だって笑っていたいよ。僕は鬱病を患って、あまりにも多くを失った。幸せな人生。希望。未来。定職。人望。今までにあまりにもたくさんの人たちが、捨て台詞と共に僕を去っていった。鬱病が脳っていう臓器の疾患で、そういう意味では癌となにも変わらないことがもっと知られるといい。ただでさえ日本のコミュニケーションの仕方は、陰湿に裏を読まなくちゃいけなくて、発病前からコミュニケーション障害だった僕には難しかった。鬱病ならなおさらだ。あるいは僕の脳の疾患は、先天的なものだったのかも知れないとも思ってる。猫連れてフィンランドに移住するって人生もありかな。

僕の抱える数々の問題を巡って、ちょっとしたネット上の口論になって、花とポップスレーベルと完全に縁が切れた。彼女たちの音楽や、表現に向かう姿勢に強く共感していただけに、心の支えを失った気分だ。どれだけのめり込んでたかは...先月までの日記を読んで頂ければよくわかると思う。1年ちょっとのつきあい、楽しかった。
 僕は日本のインディーズ女性シンガーソングライターシーンの現状を気持ち悪いと感じていて、彼女たちは音楽の力でそこから抜け出そうとしていると思ってた。彼女たちの主張を聞くに、結局は同じ穴のムジナだったのかな。いまの僕はただ、生きることに恐れおののき、布団の中で丸くなっていることしかできない。唯一の救いって言えるのは、僕はそんな小さな村にいなくても、世界中に楽しんで聴くべき音楽をたくさん知ってるってことだ。

タイムラインで、オランダのマグノレール社製の小さな自転車が動く模型が話題になった。かの、ヤクザになって組の金を使い込んで、数十年逃亡してこないだ孤独死した叔父が、若い頃にこれと同じ仕組みの模型を「自分で」作ってくれたんだよ。路面の裏に磁石を走らせて、その力で動くミニチュアが細かい動きを見せてくれた。なんでもできる器用な人だった。道を一歩踏み外さなければ、あそこで掛け違いが起きなければ、いまごろ子供たちに夢を与えるクリエイターになってたかも知れない。人生ってなんだろうって思う。
 僕自身も、あの時ああしていればって間違った選択を何度も繰り返してきた。僕にも人並みに生きるチャンスが何度もあったんだ。この日記にも書いたけど、古い友人に「あなたは直感で間違った方を選ぶ」って言われた言葉が何十年も胸に突き刺さってる。

僕がなんで弟をここまで軽蔑しているのか、理由を聞かれた。ちょっとだけ書こうか。彼が明るく快活な表の顔を作り、人望と社会的な地位を得るためには、どこかで憂さ晴らしをしてバランスをとらなきゃいけなかった。その矛先が弱者に向かったってことだ。
 一番の被害者は母だったと思う。母が亡くなった時、僕はひとめもはばからずに号泣した。弟はそれを見て「自分に定職がないから泣いたの?」ってトンチンカンなことを言った。違うよ、夫に先立たれて、次男に虐め抜かれた母の人生が不憫で泣いたんだ。僕は大学進学と同時に一人暮らしを始めた。弟はいわゆる反抗期が結婚するまで続いた。そんな2人を実家に残した僕も悪かったと思う。弟が母にしたおぞましい仕打ちの数々は、書きたくないんで書かない。カウンセラーさんには話すつもり。母は弟が殺したと思っている。

とても信頼していた訪問看護師さんが、急に辞められることになったのは前にも書いた。最後の訪問を来週だと思ってたら、30日だった。生きる意味について話した。彼女は、人生にはいいことも悪いこともある、喜びも悲しみもある。喜びだけの人生を送ってる人なんて一握りしかいない。感情を揺さぶられて受け止めて、笑ったり苦しんだりするのが生きる意味なんじゃないか。だから山下さんはものすごく生きてますって仰った。彼女の不器用さは、僕ととてもよく似ていた。言うことなすこと共感できた。恋愛感情だったのかも知れないね。最後に握手をして別れた。もう会うことはない。
 ほかに心を開ける方は、カウンセラーさんしかいない。2人に対して、心を開く権利と時間をお金で買っていた訳だけれど。信頼できるかどうかはお金を出した時点じゃわからない。

その夜、The Chieftainsのライブを観に行くつもりだった。大好きなアイルランドの民族音楽のバンドだ。オーチャードホールで着席だから、大丈夫じゃないかって。少しでも心を開くべく、僕なりの努力をしなくちゃって。結局行けなかった。抑鬱と寒さと雨に負けた。8500円のチケットは紙くずになった。朗らかで柔らかいサウンドは、いまの僕にフィットしたはず。行ったら確実になにか変わったはず。あと一歩の勇気を出せなかったことに後悔してる。
 抑鬱による消化器系の疾病で、5日間なにも食べられなかった。最初はヨーグルトと野菜ジュース。ウィダーインゼリー。キンキンに冷やした缶みかん。少しづつ食べられるようになってるのが救いだ。食べるとそれが呼び水になってお腹が減る。そこでもっと食べちゃうと、また戻すことになると思う。少しづつ、少しづつだ。

猫たちは、僕の調子が悪いことを察して、横になった僕の周りにずっといる。ときどき枕元から僕の顔を覗き込む。専属看護師チームだ。メイは顔と手をペロペロ舐めてくる。猫は肉を舌でこそぎとって食べる生き物だから、毛がない生き物としては舐められると実は痛いんだ。ただ気持ちが嬉しい。チャイはむしろ俺をなでろって言う。いいよ、それが飼い猫の仕事だよ。
 夜は両側からギューって押してきて、暑いわ狭いわ。サラウンドでゴロゴロ言ってる。猫たちと寝るためにダブルサイズのお布団にしてるのに、寝台電車よりせまいの。猫たちは普段はデロンギに向かって、鼻が焦げるよってくらいくっついてあったまってるんだよ。彼らにはほんと救われた。ありがとうのかっこいいおやつをあげた。猫は優しい生き物だ。猫のために生きなくちゃ。

フィンランドに移住って書いたのは、ムーミン谷とその哲学への憧れだ。森泉岳士さん「いまの生活しか知らないでいまの生活をしているのと、違う生活をしたうえで選んでいまの生活をしているのではだいぶ心構えが違う」。人間にはもっといろんな生き方があるはずなんだ。自分で選び取らなきゃ。「選択肢が多いということは可能性が多いということ。そして可能性というのは『希望』の別の呼び名だ」。
 たけこさん「『ありがとう』『がんばって』『おはよう』『気をつけて帰って』『ちょっと助けて』こんな言葉言える日を諦めてたけど、少しずつ話せることにこっそり涙した」。僕にもそんな日が来るかな。ツイッターは「世界中のひとがひとりでやってるラジオ局」って人がいた。「短文投稿サイト」でも、「掲示板」でも、「SNS」でもない。こんな優しい言葉が流れてくるラジオだ。

ローリングストーン誌が50 Best Songs of 2017を発表した。Neil Youngが、いままでの全作品と未発表作品をハイレゾで無料ダウンロードできるアーカーイブをスタートさせた。
 Gaby Hernandezが新曲 “Messy Love” を発表した。The Go! Teamが新曲 “Mayday” を発表した。ClarkがEP “Honey Badger / Pig” を発表した。AirのJB Dunckelが新曲 “Hold On” を発表した。First Aid Kitが新曲 “Fireworks” を発表した。RostamThe Poguesの “Fairytale of New York” をカバーした。Best CoastThe Beach Boysの “Little Saint Nick” をカバーした。Graham Coxonが自殺した友人Luke Danielの “Falling” をカバーした。オリジナルとカップリングで発売されて、すべての収益は自殺防止の慈善団体に寄付される。They Might Be Giantsの新譜 “Up To Date” が無料ダウンロードできる。それに続くアルバムからの新曲 ”Last Wave” を発表した。
 Talking Headsの “Once in a Lifetime” をドナルド・トランプに置き換えたMVがスゲーよくできてる。セッションベーシスト、Robert “Pops” Popwellが亡くなったThe CrusadersThe Rascalsのメンバーとしても活躍した。

小沢健二さんが岡崎京子さんの「リバーズ・エッジ」映画版の主題歌を書き下ろした。公開された歌詞のリアルな描写にドキドキしてる。ここで描かれてる「君」は、岡崎京子さんでもあり、小山田圭吾さんでもある。TRIPLE KNOCKOUT CORPORATIONだ。遠藤賢司さんのラストライブがアルバム化される。1974年のロックフェス、ONE STEP FESTIVALの音源が発見されて、21枚組CDとしてリリースされる。はちみつぱいの10曲のためだけに買うだろうか。Sugar Babeも出演してたそうだけど、収録されていない。
 大貫妙子さんがPure Acousticライブを再開する。渋谷guestさん閉店。個人的にものすごくお世話になったけど、マスターが尋常でないヘビースモーカーで、20席くらいの小さいお店なのにステージが曇る空気、お風呂に何度入っても服を何度洗濯しても臭いが落ちなくて、行かなくなってしまった。The Folk Crusadersはしだのりひこさんが亡くなった。天国がよいとこで酒は旨いし姉ちゃんは綺麗であることを祈る ( “帰って来たヨッパライ” ははしださん加入前のレコーディングだけど、ライブでははしださんの持ち歌だった)。

aikoさん42歳が可愛すぎて胸が痛い

12月8日 僕の遅すぎて長すぎた青春の最後の夜

クアッカワラビーだって心で泣いてるかも知れないんだぜ

真っ暗な日記が続いてどうやって戻すかよ。何度書いても「ブログ読んでます」って言われる。これは公開前提のブログじゃなくて、自分のために心の動きを記録した「日記」なんです。引き出しに鍵かけて、死んだら燃やしてくれって言うような。
 それを1000人の前に曝け出してるのは、書き始めた1998年のネット文化がもっと無防備だったから。いまこんなことしてる人はいない。承認欲求でも露出趣味でもなくて、習慣がセラピーになっちゃったんです。生きてく上で必要になっちゃったの。珍しいものとして遠くから眺めててください。もし何かの役に立っちゃったらごめんなさい。別にそういう意図もないんだ。

3日は牧村憲一さん主宰のmusic is musicへ。会場にくるまで出演者は伏せて、ワンコインでいいライブを観ませんかっていう牧村さんの感性を信じてみんな集まる。好きなレコードのクレジットによく牧村憲一って名前があることに気づいたのは高校生の頃。あれから幾星霜、リスキーな企画をソールドアウトさせて、みんなを幸せにして帰す牧村憲一さんはやっぱりただ者ではなかった。もう何回目なのかな、毎回スケジュールが合わなくて、あとで出演者を聞いて悔しい思いをしてた。これからは万難を排して行こう。
 最初に登場したのは、若きインストトリオとりこJAM。このトリオとしては、なんとこれが2回目のライブだという。SaxとOrg.の熱いバトル、シャープなドラムソロ。オルガンベースはDoorsのようだった。グルーヴもハーモニーも最高だった。

そして次の出演者はなんとNeil & Iraiza!! 僕が就職した頃にEscalator Recordsにはまって、よく聴いてたバンドだ。でもライブは観たことがなかった。いつの間にかそれぞれの活動が活発になって、バンドは消滅した。堀江博久さん、松田CHABE岳二さんのその後のご活躍はみなさんご存知の通り。15年ぶりにNeil & Iraizaとしての活動を再開させて、なんともうアルバムまで作っちゃったという。
 憧れのバンドは、緩くて暖かい空気を醸し出してた。加藤和彦さんがジョークばっかり仰ってたこと、Eddi Readerが弟みたいに接してくれたこと、鈴木慶一さんカジヒデキさんの半ズボン兄弟の優しさ。偉い人はみんな緩いんだよねって話して、ご自身が大御所になったいまの緩さだ。堀江さんがかつて描かない美大生で、「楽譜と即興演奏どっちが先か」を卒論にしたって話は興味深かった。

”I Love NY” 全曲演奏から新曲まで、堀江さんの軽妙なKey.と少年みたいなVo.、CHABEさんはPer.のほかにEg.も披露して、Vo.パートもたくさん取ってた。加藤和彦さんのお話から、加藤さんの日本語詞バージョンの “With A Little Help From My Friend” のカバーへ。Eddi Readerの話から “Perfect” の日本語詞バージョンへ。これはCHABEさんの訳詞かな。いまは日本語に興味があるという。
 実は体調的が悪くて、キャンセルの電話をかけたら繋がらなかったんだ。で、やむを得ず重い腰をあげたら幸せな音楽が待っていた。牧村さんが僕を覚えてくださってたのも嬉しかった。緊張しすぎて、CDをぶちまけちゃったのかっこ悪かったな。まだ一般発売されてないNeil & Iraizaの15年ぶりのアルバム、いい意味で変わってなかった。でもいまこれをやるタイミングだったのは伝わってきた。

4日はカウンセリングへ。この日はいいセッションができた。夜はN氏が様子を見にきてくれて、鍋をつついて明け方まで語り合った。N氏は文章が苦手で会話が得意、僕は頭の回転が遅すぎて会話のペースに追いつけない。だから鍋の横でメモしながら。
 N氏の指摘は、僕は人と100%でコミットしちゃう。だからちょっとしたすれ違いに必要以上に傷ついたり傷つけたりするってこと。程よい距離で、分散してつきあったらいいよって。いままでの人生を振り返るにまさにその通り。美人女子大生カウンセラーさんは、美人で女子大生であるっていうあまりある魅力があるけど、研修中だから安いわけだし、僕を見てきた歴史があまりにも違うんで、そういうアドバイスは出てこない。そうとう飲んで酔っ払った。この日はいろんな意味で、僕の遅すぎて長すぎた青春の最後の夜だった。

5日はShiggy Jr.@恵比寿LIQUIDROOMへ。Shiggy Jr.は僕が聴くにはポップ過ぎるくらいポップなバンド。圧倒的な楽曲の良さ、圧倒的な演奏力は大前提として、観客を引っ張ってくショーマンシップに毎回圧巻される。観客を置いてけぼりにしない姿勢は、芸術家然としたミュージシャン達も見習うべきだ。
 いつもアンコールでコールアンドレスポンスで盛りあがる “Satuday Night To Sunday Morning” を1曲目に持ってきて、なかなかやらないさりげない小曲の逸品から、新機軸の新曲を2曲、後半の "僕は雨のなか" から "Listen To The Music" に至る怒涛のアップテンポ攻勢まで、全力で挑んできた。いけもこちゃんのパワフルなボーカルもいいけど、リズム隊がいいんだよな。でも音源では打ち込みだったりする。そろそろライブ盤どうかな。

特筆すべきは、Sugar Babeのカバー “Down Town” を全員持ち回りボーカルで演奏したこと。原田茂幸さんの、山下達郎さんへの想いを語るMCがよかった。彼ら80年代的って言われるけど、ひょっとしたらSunday Song Bookなんかを聴いてルーツを研究してるのかも知れない。そこが僕みたいな人間にも響くのかも知れない。アンコールは恒例のいけもこちゃんの感謝のMCから。誠実に真摯に愚直に続けていっても、ちゃんと成果がついてくることがあるって事実を確認したくて、僕はShiggy Jr.のライブに通うのかも知れない。
 終演後メンバーが物販に立ってくれて、彼らがまだそれほど有名じゃなかった頃、ツイッターのメンションで会話してたいけもこちゃんに、「あーっ!!」って気づいて貰えてすごく嬉しかった。やっぱり実写のアイコンに戻そうかな。

6日は完全オフ。体調不良でなんにもできなかった。「大人になっても生きるのは辛い?」とマチルダが問う。大人も辛いし、野生動物にはまた違った辛さがあるし、知性を持つ生物で辛くなさそうなのは飼い猫ぐらいだ。なんで生物って生まれてきたんだろうね。Mateo Stonemanの音楽は、心が疲れてる時にも寄り添ってくれる。
 チャイは寝室に来る時、入り口で鼻の頭を「ピンポン」って押してあげないと入ってこない。人間は来訪者のほうが「ピンポン」を押すんだよ。猫たちが専属看護師モードを解除したみたいだ。またデロンギに鼻をくっつけて寝るようになった。甘える時も容赦ない。全力でぶつかってくる。ツイッターに雪見だいふくに関するツイートを増やした。繰り返すことによって広告が雪見だいふくだらけになるんじゃないかっていう壮大な実験だ。しゃぶしゃぶ食べたい。履いてて欲しい。

サトウトモミさんが考えさせられるメルマガを送ってくれた。大雑把にこんな話だ。人が困ったことに遭遇した時に1次的に受ける感情は、「悲しい」「寂しい」「辛い」...つまりは自分と向き合った感情だ。そこに思い込みや妄想が加わると、困った状況を引き起こした相手に対する「怒り」って感情に変わる。「怒り」って感情はそのほかの感情を台無しにしちゃう威力があるから、「怒り」が癖になると自分の本当の感情がわからなくなっちゃうんじゃないかって。
 僕も最近「怒り」を発動させて、それについて反省したり考え込んだりプロに相談したりの日々だった。そもそもなんで「悲しい」「寂しい」「辛い」のか、ほかにもいろんな感情がごちゃまぜになって、それをひとつひとつ紐解いていく作業が必要だ。トモミちゃんも僕も、お互いに「真面目だよね」って笑いあった。

7日は久しぶりにさとこ@吉祥寺Manda-La 2。ずっと気にしてたんだけどなかなかタイミングが合わなくて。何年ぶりだろうか。Studio Ledaの名エンジニア水谷勇紀さんともお久しぶり。
 さとこさんとの想い出で印象的なのは、「音楽のルーツはどの辺ですか」って聞いた時のこと。さとこさん「お母さんの子守唄です」って応えたんだ。もううわーって。伝承芸能としての大衆音楽って、そういうことだよね。僕は好きなレコードを聴いてそのクレジットを読んだり、そのミュージシャンの好きな音楽を探ったりって「研究」で芋づるを辿っていったし、多くのミュージックフリークはそうだと思うんだ。いまならYouTubeやSpotifyのお薦めを辿っていくんだろうか。だから、さとこさんの音楽との出会いや音楽観には衝撃を受けたし、とてもかなわないなって思ったんだ。

ゆったりとステージに現れたさとこさんは、いつものomio長谷川さんのギターと、今回はMasa Gotoさんのウッドベースをバックに透明な声を聴かせてくれた。彼女は作詞にも作曲にも難しいことはなにもしない、シンプルだけど伝わる歌を書いてまっすぐに届けるんだ。その変わらなさにほっとした。
 ゲストにマリンバ奏者のK-taさん。マリンバはアフリカから南米を経てきた楽器なんで、西洋のクラシックには出てこない。まろやかな演奏で現代音楽から歌謡曲まで奏でる。師匠がなんと宅間久善さんだったという。終演後、そんなお話もできてよかった。ライブはさとこさんのソロコーナーに戻って、最後はK-taさんとセッション。“Sweet Memories” 。懐かしい痛みだ。さとこさんの音楽世界は、世界がどんなに醜く変貌しても変わらず美しく穏やかだった。

パチモン・ブランドをパリ・ファッション・ウィークで売り込む」って記事。スゲー行動力。感動した。林雄司さんによると、アメリカではパスワードを忘れたときの秘密の質問の「好きな食べ物」の項目に、半分以上の人がピザって設定してるんで、セキュリテイーホールになってるらしい。ほんとかな。
 「この世界の片隅に」が第45回アニー賞長編インディペンデント作品賞にノミネートされた。来年「デザインあ展」が開催される。本格的な美術展からこういうエンターテイメントまで、興味を持った映画なんかも含めて最近ほんとに観そびれちゃうことが多い。酒井麻衣監督の新作の主演に小川紗良さん。なんつー俺得かよ。奈良美智さんが11年前に原田知世さんと宮崎あおいさんとご飯を食べた話に嫉妬を禁じ得ない。奈良さんの展覧会は、愛知まで観に行ったのだよな。

ドナルド・トランプが、エルサレムをイスラエルの首都と定めた。エルサレムは元々国連の国際管理都市だったけど、第一次中東戦争で東西に分裂して、東エルサレムをイスラエルが占拠して、国連総会で非難決議が出されてる。最近のトランプのますますのご乱心に、ナルシシズム性人格障害じゃないかって指摘が出てる。ジャパンタイムズの記事から抜粋翻訳。トランプのツイッターでの暴言に対して、ツイッター社が対応しないのが疑問視されてる。BBCの記事。日本でも鈴木信行なる葛飾区議の見るもおぞましいヘイトスピーチに、ツイッター社が問題なしの回答を出した。国連人権理事会が、ミャンマーのロヒンギャ迫害を非難する決議をした。日本は棄権した。情けない国だな。
 福岡市がミサイル通過を想定して避難訓練をした。虚構新聞かよ。安倍が挑発しなければそんなものは飛んでこないのである。

TIME誌のThe Top 10 Songs of 2017。StereogumのThe 50 Best Albums Of 2017。The Wire誌のReleases of the year、ほかの雑誌とセレクトの傾向が違って面白い。エンターテインメント・ウィークリー誌のThe Best Albums of 2017。Ultimate Classic RockのTOP 25 CLASSIC ROCK ALBUMS OF 2017。The QuietusのThe Best Jazz Of 2017
 Tune-Yardsが新曲 “ABC 123” を発表した。Tom Rogerson with Brian Enoのアルバム “Finding Shore” が全曲公開された。Seun Kuti & Egypt 80が新曲 “Black Times feat. Carlos Santana” を発表した。前作ではRobert Glasperと組んだりで意欲的な方。Tahiti 80のXavier Boyerが新曲 “At Bay” を発表した。J. MascisのサイドプロジェクトSweet Appleが新曲 “Everybody's Leaving” を発表した。セネガルとベルギーのトリオTamalaが新曲 “Salubrite” を発表した。
 Norah Jonesのデビュー前の音源が発売される。Jaco Pastorius Big Bandの武道館ライブがアナログで発売される。Belle and SebastianのStevie Jacksonがバンドのアルバムをランキングした。Style Councilフランスのテレビ用の映像が公開された。なにもかもがダサかった80年代、Style Councilはかっこよかったな。OK Goが “Obsession” のMVのメイキングを公開した。"Weird Al" Yankovicのボックスセットが発売される。Al Yankovicは本職はポルカのミュージシャンで、パロディは余技なんだ。で、ヅラとメガネとつけ髭を取るとイケメン。って話に似てるのが、高木ブーさんは本職はハワイアンのミュージシャンで、結婚して貧窮してる時にいかりや長介さんに倍のギャラを提示されて、バンド時代のドリフターズに引き抜かれたんだ。で、その奥さんが亡くなってハワイアンの世界に戻った。kraftwerkがライブアルバムから “Music Non Stop(3-D re-edit) ” を公開した。
 Gorillazライブフルセットを公開した。別のライブにNoel GallagherGraham Coxonが参加した。Sparksがラジオで "Edith Piaf (Said It Better Than Me) " と "Missionary Position" と "This Town Ain't Big Enough For Both of Us" を演奏した。BonoThe Edgeがベルリンの地下鉄でゲリラライブをした。こういうお茶目な企画に乗れるのはかっこいい。Squeezeが来日する。

岸田繁さんのノベルティアカペラソング “そばを食べれば” がヒットしてる。くるりが出てきた時、声の表情が薄いなって感じた。あの頃のJ-POPの基準からしたら早すぎたんだ。なんて素晴らしい歌声とアレンジかよ。AJATEがフランスでアナログを発売する。日本ではライブ会場でCDを発売してるらしい。ライブ映像 “Butakusa” 。
 のんちゃんの “スーパーヒーローになりたい” MVフルバージョンが公開された。あの期間限定版MVの必殺のウィンクが本編でも採用されてる。宇多田ヒカルさんが新曲 “あなた” を公開した。来年は活発に活動するそうで、テレビで「ユーモアって、どうにもできない状況に対して唯一できること」って話をした。「出口なしの塞がれた状況でも、『これなんも変えられないけど、ユーモアでなんとか自分のものにしよう』といったことがある。ユーモアの背後にはその意味で悲痛な叫びがあるが、他方でユーモアはそうした叫びに向けられる理性の微笑でもある」と。細野晴臣さんのインタビュー連載「仕事力 vol.2」。細野マニアには読み応えがないかもだけど、YMO騒動の疲れと心の傷が素直に書かれてて胸が痛むよ。
 日記、また長くなっちゃってごめんなさい。

12月19日 SIDE-A 命の存在意義がわからない

11日ぶりの日記だ。冬は苦しみと共にやってきた。11月25日11月29日12月3日に、僕に起きた大きなトラブルとそれについての心の動きを書いた。生きることの苦しみは誰とも共有できないってこと。その中に「僕は存在するに値しないのだ」っていういまさらの気づきを込めた。生まれてこなければよかった。
 そもそも命ってなんのために存在するんだろう。周りの同世代を見回すと、親の介護、自身の病気、子供の反抗、異常な多忙、経済的な困窮、幸せそうに生きてる人なんて誰もいない。国のせいだよと言ってしまえばそれまでなのか、よその国の人々がどんな生活をして何に喜びを感じているのか、寡聞にして僕は知らない。人に限らずとも、野生の弱肉強食の世界にどんな意味があるんだろうか。強食な生き物は幸せだろうか。神はなんで命なんてものを作ったんだろうか。

圧倒的な孤独感と虚無感。生きるのがあまりにも下手すぎること。それでも生きなくてはいけない意味を見出だせないこと。入院には家族の同意が必要で、僕には猫以外の家族がいない。つまり、最近は入院するべき体調ながら家でゴロゴロしてる。取り敢えず食事が取れない状況は脱した。その間に吐き戻してしまった抗鬱剤の補充を受けられなかったので、不安を解消する特効薬としてマヨネーズを食った。体重は5kg減り、6kg増えた。肉体的な病気でダイエットを厳命されている身としては、これもそれなりの事件と言えば事件だ。
 物心つく前から病んでいた。健康な状態というものを知らない。どういう体調でどういう心境なのかわからない。だから、環境のせいにするなとか、努力をしてないって責められても困る。戻るべき場所なんてそもそもなかった。雲をつかむような話なんだ。

昔は年末になると、今年が底で来年から人生が開けるんじゃないかと根拠なく思ってた。でも穴の中に穴が開き、穴の中の穴に穴が開いた。もう来年に期待を抱くことも難しい。あと1年、あと1年、年と共に加速する孤独の中を、這うように生き延びるだけだ。
 愛読している「夜廻り猫」、きのうはこんな話だった。泣いちゃうよ、まるでこれは僕じゃないか。今回の主人公は、誰からも嫌われると嘆く女性。知らないうちは好かれて、よく知り合うと嫌われて終わるんだと。そこで猫に救われる。読者の感想はこんな感じ。「本当のあなたを知る人がまだ現れていないだけ」。「猫は人間よりも、人間の本質を知っている」。猫は優しい生き物だ。よその飼い猫の話を聞くに、うちの猫たちはキモいくらいに僕のことが好きなんだ。でも誰に気づかれることなく僕の45歳が終わろうとしてる。

美人女子大生のカウンセラーさんは、美人で女子大生であるというあまりある魅力があるけれど、研修中だから安いのであり、僕とのつきあいも短い。そこに現れたのが30年来の友人、N氏だ。
 彼は「山下は人とコミュニケーションする時に、100%でコミットする傾向がある。でも100%噛み合う人なんていない。妥協して距離を見計らえよ。例えば知り合いがレイシストだとしたら、政治の話を避ければいい」と言った。僕は深く納得した。と同時に、なんでそれを30年前に教えてくれなかったのかとも思った。もう違う生き方を覚えるには遅すぎる。誰かに100%を求めてしまうのは、寂しさからだと思う。ほかの何%かを補ってくれるほど交友範囲がないんだ。人との違いに気づいた時に、僕の方が間違ってるんだ、僕の方がおかしいんだ、僕がここにいちゃいけないんだ、失礼しましたって反射的に逃げちゃう。

生まれた家を間違えて、生まれた時期を間違えて、憎しみに包まれて生きてきた。相手にとって自分が無価値だって感じるのは、持って生まれた性分としかいいようがない。
 マッチョイズムが苦手だった。だから男子校は地獄だった。真面目に登校して下校して、レコード屋の試聴機に齧りついた。「山下くんは生きてて楽しいの?」。クラスメートにくん付けされるくらいには浮いてた。大学に入って、女性の輪に混ぜてもらうのは心地よかった。それはあらぬ嫉妬も呼んだ。実情は、「でも君はいつも間抜けヅラをしたマッチョマンとキスしてる」。つまり男女問わず正義はマッチョイズムにあった。女友達は結婚し、母になった。数々の誤解の末に、僕と知人であることが彼女らの恥になった。これが戻るべき場所か。

何かの間違いでこの星には命があり、僕も命として存在している。どこへ向かえばいいのかまるでわからない。SIDE-Bへ続く。

12月19日 SIDE-B それでも音楽は続く

日記らしい日記を書こう。日々のできごとを。9日は酷い抑鬱状態で目覚めた。僕の専属看護師としては数日の休暇を貰ってた猫たちも、任務に戻った。夜は頑張って田中ミズホ@下北沢Waverへ。
 電車の中で、みんなが薄いカマボコ板みたいなのを指でなでる未来を誰が想像しただろうか。ビチビチで頭のとんがった服を着て交信すると思ってた。この日の最初の出演者、28歳であの音楽性と幼さはやばい。そしてこれがいわゆるJ- POPを排出する母数なんだ。ミズホちゃんはカホーンを従えて、ちょっと走り気味のカホーンとちょっと遅れ気味のミズホちゃんのギターが噛み合った絶妙なステージ。結果よかったんじゃないか。ギターを持つと窮屈そうだったミズホちゃんが、この日はのびのびと楽しそうに歌ってた。素晴らしいソングライターであり、圧倒的な表現力を持ったシンガーなのは伝わったはず。

最後に出演した男性アイドルラッパーが主催者。パフォーマンスの完成度は高かった。前に観た、学芸会みたいなイベントで歌ってたミズホちゃんを思うと、お金を取っていいイベントに出られるようになったのは喜ばしい。けどやっぱり望まれてる客層が違う。いいブッキングでちゃんとした大人に発見されて欲しい。
 精神年齢はほんと人それぞれ。10代でもとてもかなわないクレバーな人がいる。同い年 (45歳) でも果てしないバカがいる。たまたまバカなおじさんに出会ってしまった若者にはスマンと言うしかない。で、精神年齢が社会的な影響力と関係ないのも困った。幼さゆえに無謀な行動力がある方が、考え込んでなにもできなくなるよりずっといい。僕の精神年齢の如何はともかく、ミズホちゃんにしてあげられることはない。リスナーの視点でアドバイスできればいいのにな。

10日は体調的にわたしのねがいごと。のワンマンライブに行くつもりだったけど、とても行けなかった。抑鬱状態で布団から動けなかった。手売りチケットを買ってたし、予約特典のレア音源も欲しかったし、なによりライブをすごく楽しみにしてた。バンドがどんどん進化して変化してるタイミングだった。傑作アルバムをリリースして、いま何を聴かせてくれるのかって。アルバムに、「終電間際」っていままでになかった色気を感じる曲が入ってた。あの美しいろみさんも恋愛とかするんだな。僕から見たらもうSFみたいに遠い世界の話だ。
 この日の看護担当はチャイだった。体重が十倍以上も違う生き物を同じ布団で慰めるなんて偉い。猫の性格はどこまで先天的なんだろう。僕が歴代同居した猫たちはみんな優しかった。かっこいいおやつをあげた。僕はキンキンに冷やした桃の缶詰を食べた。

11日はカウンセリングのあと、オットー・ネーベル展に行きたかったけど、やっぱり体調的に難しかった。無駄に時間があいた。駅に昼寝スペースがあれば便利なのに。ラブホの閑散時間帯を1人で使わせてくれるんでもいい。睡眠障害の人しか使わないかな。
 夜は水野谷みき@下北沢mona recordsへ。水野谷さんって感性との出会いは、2017年の収穫のひとつだ。非常に大雑把に歴史を紐解いて、100年前にアメリカ南部で西洋音楽理論とアフリカのリズム、ノートが融合してできた音楽をジャズと呼ぶならば、彼女の音楽はジャズだ。歌声とピアニカの背景に、戦前のスウィングジャズやビッグバンドジャズが見えた。それは洋楽をなべて「ジャズ」と表現した時代の日本の「ジャズ」と言ってもいい。例えば三人娘が歌ったような音楽。弾きこなすサポートのギタリスト氏も素晴らしかった。

そして彼女は日本語の達人でもある。炊飯器で空を飛んで世界中のおかずを食べたいなんて飄々と歌いながら、ドッジボールでチームを決める男の子なんて微妙なスタンスの人物像を描き出したり、私はガムだから吐いて捨てられるなんてやさぐれてみたり、稼いだお金は私には多すぎるなんてヒモを養う心情を代弁してみたり。CDには詩や短編小説やエッセイが織り込まれていて、この日の物販コーナーも「好きな本の立ち読み」。ツイキャスでは、ウクレレ弾き語りの合間に素晴らしい朗読が聴ける。音・言葉・絵、美意識が一貫してるんだ。
 この日僕が着ていったシャツは、サイズが合わなくて相当みっともなかったのだよね。それ「太ってるからだよ」って笑う。そういうさばけたところも、女性シンガーソングライターシーンに疲れた僕には心地良い。彼女はこの先どんな表現を見つけるんだろうか。

Gotchさんが、戦後のアフロアメリカンの女性たちの詩集を読んでる。辛辣というより呪詛みたいだそうだ。こうした時代の社会に対する闘いを経て、いまのアメリカの大衆音楽がある。
 大衆音楽の魅力は、生活の中で生まれて伝承されてきたことだ。いまの日本の、代理店が会議で作ってるような大衆音楽に引かれないのもそういうことだ。もうひとつ、何度も書いてることだけど、海外の音楽を聴いてる若い音楽家がすごく少ないことも危惧してる。今の日本の大衆音楽のルーツは雅楽や民謡じゃない。明治時代から、海外の最新の大衆音楽を日本向けにアレンジしてきた歴史だ。少なくとも1990年代まではそうだった。いまは音楽的に鎖国して、近親相姦で劣化遺伝してる。という話を、自称どんな音楽でも聴く若者に話しても通じなかった。その若者はクラシック出身だった。

大雑把に大衆音楽は、無名の集合体 (≒シーン) がお互いを刺激しあって作り出すもの、芸術音楽は限られた天才が作り出すものだ。もちろん芸術音楽にも、シーンや歴史の変遷はあった。その比重と回転速度が違うんだ。大衆音楽では、半年前に流行ったスネアの音が今ではアウトだったりする。って意味でも鎖国してる場合じゃない。もちろん古い音楽を否定してるわけじゃない。温故知新から新しい音が生まれる。表現者は古今東西いろんな音楽を吸収した方が、深みが出る。
 2017年のポピュラーミュージックの焦点をあぶりだすのは、テレビやYouTubeやSpotifyのプレイリストじゃなくて、自分でしかない。1980年代まで日本に洋楽が流れてた時代の、複雑なコードやメロディーが動いていくような音楽が、日本人の好みなんだろうな。いま世界のメインストリームはそうじゃないからね。

12日は実は日記を書き始めてた。あなたが読んでるこの日記だ。別に途中でボツにしたわけじゃない。筆が遅いのものすごく!!
 そして夜はずみを@渋谷CLUB CRAWLへ。渋谷ダンジョンますます酷いな。いろんなものが2020年に完成して、それと同時に国が滅びるのかな。ずみをさんは栃木に住んで、青春18切符で全国を駆け回ってる。最初は危なっかしかった演奏が、武者修行でどんどんよくなってる。いいブッキングに組み込まれて、大人に発見されつつある。この日のブッキングもよかった。特にびっくりしたのが、この日が初ライブだっていう男女3声のコーラスグループCity ChordLeonard CohenのっていうよりJeff Buckleyのバージョンが有名な “Hallelujah” から入るのはズルい (Jeff BuckleyのバージョンはJohn Caleのバージョンが下敷きなのはもっと知られて欲しい) 。

ずみをさんは、たぶん韻の踏み方や言葉の響きから作曲してるのかな。J-POPの定石を大きくはずれた、ほかにたとえようのない才能だ。その割には聴いてる音楽は普通のJ-POPだったりする。そこがおじさんの、いろいろ聴かせてみたい欲をそそるんだ。最初に観た時は持ち曲が4曲しかなかったのに、ライブのたびに披露する新曲がいい。この日の新曲も素晴らしかった。ってところに未来が見えてくる。こういう変化を感じると、追っかけがいがあったなって思う。なんか上から目線っぽくてすみません。CLUB CRAWLは初めての箱だったけど、駅から離れてるのに集客力があって驚いた。
 帰ってきたら、猫たちが留守中の報告を (たぶん) してくれた。もにょもにょ言うんで「そう」って相槌を打つと、満足げな、得意げな顔をする。でもほんとはリスニングぜんぜんできてないの。

13日は通院の日。だけど異様な疲労状態にあって、配達を待たなきゃな都合もあって行けなかった。夜は2時間にわたりプリンターと格闘。インクが切れた、メンテナンスボックスがいっぱいになった、紙が詰まった、Wi-Fiがつかまらない、さんざん文句を言った挙句に刷り上がりがこれですかっていう。いままで自分でしてたの、外注してみた。予算1/100、時間1/100、費用1/100、完成度100倍。ほんとです。何度も書いてるけど印刷ってプロフェッショナルな仕事で、家庭用にプリンターを売りつけるのは無謀だし詐欺だ。
 N氏が来てくれてピェンロー。妹尾河童さんは舞台美術家で旅行記の人で少年Hで、でも最大の功績は日本にピェンローをもたらしたことだと思う。酷い精神状態でこの日は愚痴っぽかった。あきれつつつきあってくれてることに泣きながら感謝してる。

14日は、前日に行けなかった通院のために今度は訪問看護をごめんなさい。ますます減ってく相談相手。ついでに風邪薬も処方して貰った。マスクってものが苦手なんだ。自分がするのも苦手だけど人がするのも苦手。っていうのは僕は口元で人の顔を判別するんで、マスクされると誰だかわかんなくなっちゃう。デザイン性も著しく劣ってる。マスクして自撮りするガールの気持ちがわからない。
 ますます太ってジーンズのチャックを締めても締めても開いちゃうの、どうせ誰も気づかないからってほっといたら見知らぬ人に指摘された。太ってるのは抗鬱剤が効かないからで、マヨネーズを食べると不安感が和らぐんだ。駅ビルのふるさと物産展で、スチャダラパーがかかってた。スチャダラ聴いて遠いおっ母を思い出すだろうか。スチャダラのキャリアの長さを思えばない話じゃない。

この日はスピッツ主宰の新木場サンセット@新木場STUDIO COASTへ。風邪薬飲んだ → 5組スタンディング → 疲れる → 橋寒い → 電車あったかい → 寝過ごして川越までって未来が見えた。
 出演はスピッツ、The CollectorsレキシスカートCHAIっていう日本の美味しいところの詰め合わせ。スピッツは5人体制時代のCarnationの対バンで観て、当時のCarnationは日本のロック史でも圧倒的な演奏力だったんで、ちょっと可愛そうだった。そんな対バンが組まれたのは、 “フェイクファー” のプロデューサーがCarnationの棚谷祐一さんだったから。素晴らしいキーボーディストでプロデューサーだ。矢部浩志さんも素晴らしいドラマーでソングライター、大田譲さんはぶっとい音と圧倒的なグルーヴのベーシスト、鳥羽修さんはギターはもちろんエンジニア的センスが抜群だった。

話が逸れた。まずは物販をきょろきょろ。澤部渡さんの顔が金銀にでっかく二色刷りされたTシャツを買った。CHAIの物販コーナーは販売員さんがいなくて、お客さんどんどん帰ってたよ。
 最初に登場したのはThe Collectors。スピッツのイベントではいつも最初に出演するという。もちろん一番のベテランだ。モッズ趣味のポップソングにクラクラ、だけど歌詞と演奏のよれ具合に年齢を感じた。スピッツはライブで “ロビンソン” をやらないってことで、”ロビンソン” カバーしたのが目玉。続いてサイドステージでCHAI。大舞台でも堂々としてた。殆どのスピッツファンは知らんだろうに、最後はみんなを虜にした。演奏力と楽曲の良さと演出の巧さ。すべてが日本人離れして、すべてが新しい。惜しむらくは音質だ。冬はお客さんモコモコの服で来るから、小さいスピーカーだと音を吸ってこもっちゃう。

レキシはひたすらズルい。あのコンセプトを思いついて圧倒的な演奏力で聴かせるだけで、もうなにをやっても最強なのはわかってる。曲は4曲だけ、コール・アンド・レスポンスや笑えるMCで引き伸ばしてテンションをキープする底力はみごとだった。”Shikibu” の名曲ぶり、”狩りから稲作へ” では揺れる稲穂を観た。
 スカートは、初めましてのお客さんにもわかりやすい代表曲中心のセットリスト。大舞台で緊張してたのかな、何度か歌詞が飛んだように聴こえた。楽曲と演奏のクオリティは言わずもがな。スピッツファンには、スピッツがミュージックステーションに出演した時に、サポートで口笛を吹いてた太った人って認識があったみたいだ。ただの口笛吹きじゃない、巨大なポップスターぶりを見せつけた。ただやっぱりサイドステージで音がこもってたのが残念。

トリはもちろんスピッツ。Carnationとの対バンでかわいそうに見えたのは、Carnationがうねる横ノリのグルーヴで、パンク出身のスピッツの縦ノリを単調に感じちゃったからかもしれない。彼らもまた確かな演奏力で、決して草野マサムネさんのワンマンバンドじゃないぞっていうステージだった。でも出演した各バンドを紹介して曲を口ずさむ時の、草野さんの歌の上手さには圧倒された。
 びっくりしたのは、たくさんヒット曲があるのにぜんぜん演奏しなかったこと。アルバムの中の、痒いところに手が届く楽曲で組まれたセットリストだった。それだけ名曲を持ってるってことだ。アンコールでは、レキシのグッズの稲穂を活用して「稲穂」を、そして「さわって・変わって」で締めた。うーん満足。疲れたけど感動と興奮が勝って、帰りの電車で寝落ちることもなかった。

15日は、古賀小由実さん、Chimaさん、ヤマダサヲリさん (映像) のイベント、Our Screen@下北沢SEED SHIPへ。古賀さんを初めて見た時、すごい人見つけたって興奮して、全音源を買い占めたくらい好き。この日も古賀さん目当てだった。でも始まってみたら、ただのライブイベントじゃなくて、トータルで上質のインスタレーションを観せてくれた。このセットで全国ツアーをしたそうだ。
 最初に登場した古賀さんは、グランドピアノに白いワンピース、それをヤマダさんの淡く優しい絵のプロジェクションが見守る。ジャジーでトリッキーな演奏や、アイデアが溢れんばかりのアレンジは封印。思えば一番激しかったのは、さわひろ子さんとのユニット、ボンノーズ名義だったな。この日はあくまでOur Screenっていう世界の一員として、実直に美しい曲を歌い奏でた。その柔らかさ。透明さ。

初見のChimaさんは、甘い歌声と硬いギターの音のギャップが面白い。「サシスセソ」や「ペタペタ」といった言葉の選び方、響きを大切にする音楽家だ。やっぱり耳を引くのは楽曲の美しさ。そしてサンプラーを駆使した音そのものの面白さ。朗読の声と言葉。最後は古賀さんとChimaさんの共作曲を。そのすべてを包み込むようなヤマダさんの映像は、ときおり効果的な動画もあったけど、VJじゃなくて「投影」って呼ぶにふさわしかった。PAはわかちゃんグッジョブ。
 さて物販。古賀さんの音源はぜんぶ持ってるとして、Chimaさんの楽曲で特に気に入ったナンバーは、まだ音源化されてない新曲だそうだ。それでもお薦めのアルバムを1枚購入した。帰って聴いたらすごくよかったんで、次の機会に買い占めたい。ヤマダさんのポストカードはぜんぶ買い占めた。で、売り切れにしちゃった。ごめんなさい。

16日はあーちゃん / 岩佐亜由美さん@高円寺U-hAへ。花とポップスさんとこじれてから、所属ミュージシャンのライブに行くのは初めて。こじれた理由は僕の先天的な不器用さに尽きる。もうね、だいぶ気が重かった。札幌在住の岩佐さんの新譜が、ライブ会場で買うしかなかったんで行ったっていうのが正直なところだ。
 団地に新しい野良猫の友だちができた。ハローマイフレンド。君にもそろそろ名前が必要だな。和やかさを演出したくて、澤部渡さんのシャツで出かけた。電車で隣に変な人が座った。自分もデブなのに澤部渡Tシャツを着てるおじさん (僕) と、金髪で赤い半纏のおばさんが並んで座ってる京王線。周りの人たちはびっくりしたんじゃないかな。O.A.は荻野哲平さん。ロマンティックな楽曲と、軽妙なMCで盛りあげる。ミニドラムはふ〜みんさん。歌を引き立てる。

じゃんけんで先行は岩佐さん。伸びやかな歌声が描く日々の風景から空へ、最高の笑顔で楽しそうに歌うからますますの高みへ。確かなギターにふ〜みんのドラムスがよく似合う。ついに音源化された “山ほど” “マイミュージック” “聞こえるかい” といった最近の名曲が次々と披露された。たぶん初めて聴いた “ララリル” は、いままでの岩佐さんの素直さとはまた違った洒落たコード感が気持ちいい。
 あーちゃんもふ〜みんの好サポートを得て快適に歌った。けど正直冷静に聴けなかった。終演後は若い頃バックパッカーだったマスターと、世界の音楽の話。たまたまコンゴのミュージシャンBallou Cantaがかかってたんだ。哲平さんお薦めの、珍しい美味いお酒を飲みすぎた。何年ぶりかで記憶を飛ばした。大失敗はしてないと思う。花とポップスさんのライブに通えるようになるには時間がかかりそうだ。

17日の猫は完全に看護モード。泥酔に対してじゃなくて、胸の痛みに対して。体のメンテナンスを受けて休息。18日は意地でカウンセリングに行った。何を話したかは...覚えてない。そしてなんだかんだで次のカウンセリングが1月15日だという...。サトウトモミさんのメルマガが届いた。いつもそんなに心の中身を見せて大丈夫なのかなってくらい内容が深い。今回の記事は、どんなに突き落とされることがあっても、そこには何か大切なメッセージが隠れてるよってこと。突き落とされるばっかりで、メッセージを汲み取れない人生だった。
 今日19日は内科の検診。数値を診て首を捻る先生に、心が傷ついて食べ物を受け付けなかった日々から、抗鬱剤変わりにマヨネーズを飲んだ日々の話を告白した。超高齢化都市、多摩では看護師のおばちゃんに「45歳!! 若いねえ」って驚かれるんだよ。SIDE-Cへ続く。

12月19日 SIDE-C ダウンタウンは昔は面白かったと言っても若い人は信じないだろう

中国人が日本人には絶対言わない日本旅行の意外な本音」って記事がバズった。日本は時間が止まってて懐かしいって。新宿ベルクの店長が笑って「街が更新されるのは歓迎だが、古いものを一掃し流行一色にすれば観光客は喜ぶのか? 思い出横丁やゴールデン街やうちも外国人観光客で賑わっているが...」と。1967年の渋谷。僕が生まれる5年前。見覚えのある景色やいまも残ってる建物がある。25年前、胡同が広がって石炭を炊く北京や、租界の気配と馬車の走る上海を見たよ。
 細田守監督の新作「未来のミライ」のティーザーが公開された。羽生善治さんに国民栄誉賞をって声がある。勝敗がある世界はわかりやすい。表現者で受賞した人はあまりにも少ない。美少女中嶋春陽さんが変顔アプリでどうでもいい話する動画が大好き。クレバーなのに嫌味なくユーモアを発揮してる。Instagramで観れるよ。

トランプは病気だって意見。奇行が第三次世界大戦を起こしかねないって。ノーベル平和賞を受賞したICANサーロー節子さんのスピーチがようやく報道された。「核兵器は必要悪ではなく絶対悪」。
 沖縄に米軍ヘリの部品が落ちて子供が怪我したり、その保育園に中傷が相次いだり9兆円の談合は安倍政権のバラまきと比べると桁が違ってかわいいもんだったり。その一方でユニセフが日本の子供の貧困を重大懸念したり。個人税を大幅増税して法人税は増税しなかったり松本人志や東野幸治や指原莉乃や古市憲寿が安倍晋三に飼い慣らされたり。72年前の先人たちの過ちを認めず、その後72年かけて先人たちが築き上げてきた信頼を、無に返そうとする人たちばっかり。ウーマンラッシュアワーが漫才番組で政治を鋭く切って大騒ぎになった。決めゼリフは「コレはアンタの事だ!」。これくらいの風刺あっていい。

Rolling Stone誌の20 Best Pop Albums of 201720 Best EDM and Electronic Albums of 2017。Pitchfork誌のThe 100 Best Songs of 2017The 50 Best Albums of 2017The 20 Best Rock Albums of 2017The 20 Best Electronic Albums of 2017The 20 Best Experimental Albums of 2017。NPR局のThe 50 Best Albums Of 2017The 100 Best Songs Of 2017とリスナーが選ぶAll Songs Considered Listeners' 100 Favorite Albums Of 2017。評論家が選ぶBillboard誌のBillboard's 50 Best Albums of 2017: Critics' Picks。SPIN誌の50 Best Albums of 2017。FACT Magazine誌のThe 20 best house and techno tracks of 2017。StereogumのThe Best Jazz Albums Of 2017。PopMattersのThe Best Shoegaze and Dream Pop of 2017
 Paul WellerのBest Of 2017。Ben WattのMy 50 Favourite Songs of 2017。Tracey ThornのMy Top 20 of 2017。オリコン誌の音楽ファン2万人が選ぶ 好きなアーティストランキング 2017。えっそもそも日本に2万人も音楽愛してる人いないよ。

AppleがShazamを買収した。
 Animal CollectiveAvey Tareが新曲 “Ms. Secret” を公開した。Bon IverS.Careyがクリスマスソング “Still, Still, Still” を公開した。この曲はソロアルバムに入らない。GoGo Penguinが新作 “A Humdrum Star” のティーザーを公開した。来日ライブチケット買っちゃった。Steve Reichが新曲 “Quartet: III. Fast” を公開した。D.R.A.M. & Neil Youngがコラボ曲 “Campfire” を公開した。Johnny Marr and Maxine Peakeがコラボ曲 “The Priest” を公開した。Belle and Sebastianが新曲 “I'll Be Your Pilot” を公開した。The Pains of Being Pure at Heartが新曲 “Anymore” を公開した。
 U2が “What’s Going On” をカバーした。First Aid KitLordeの “Perfect Places” とクリスマスソング “Have Yourself A Merry Little Christmas” をカバーした。G. Love & Special Sauceが配信でクリスマスアルバムをリリースした。Peter GallwayLaura Nyroへのトリビュートアルバムをリリースした。Ovallがベスト / リミックスアルバムをリリースした。Thundercatが “Drunk” の Chopnotslop Remixバージョンをリリースする。不気味と言われたジャケットが紫になってさらに不気味に。Beach Boysが1967年の膨大な未発表音源を配信でリリースする。誰が買うんだって僕か。

FUJI ROCK FESTIVAL 2018の開催が決定した。遠藤賢司さんの追悼イベント生誕71年エンケン祭りが開催される。THE BEATNIKSが7年ぶりにアルバムをリリースする。星野源さんの書籍 “YELLOW MAGAZINE 2017-2018” で星野さん、細野晴臣さん、山下達郎さんが鼎談する。80年代に日本で大活躍したセッションサックスプレイヤーJake H. Concepcionが亡くなった。
 政教分離の観点から、公共施設でクリスマスソングをかけない地域があるそうだ。クリスマスソングって本来はそういうもんだ。日本のクリスマスソングと呼ばれるもので、宗教を歌ってる曲は殆どないけど。信心が背景にあるクリスマスソングの崇高さが好き。クリスマスにクリスチャンが各家庭を回って歌を歌うキャロリングって習慣がある。来てくれないかな? いろいろおもてなしするよ。

12月26日 SIDE-A 切ない愛のうたを聞かせて

 心ない人に傷つけられて
 疲れ果てた君は心を閉じた
 あれからいくつもの季節が流れた
 君は歌わない...

 人は誰でも捨てきれぬ愛と
 尽きることのない悩みの中を
 明日を見つめながら歩いていること
 君は歌った...

 すべてが時代に流されていても
 同じ道を走り続けた君は
 ただそこにいるだけでひとり輝いてた
 僕等は見てた...

19日の日記「命の存在意義がわからない」は、年末に襲い掛かってきた絶望的な出来事の総括のつもりで書いた。諸般の事情で書いてないものを含めると、パンチの利いた厄災が7つ降ってきた。

それに対する極めて心ないLINEが届いた。まさか8つ目が待ち構えているとは思わなかった。LINEの主は、かつて音楽を通じて交流した知人であり、僕の主宰したライブイベントにも出演した人物だ。彼はある音楽家を病的なまでに信奉していて、僕がその発言と論理のあまりの異様さを指摘したために、怒り狂って去っていった。
 長いLINEは、「 (貴殿の) グロテスクさ」「怪人枠」といった言葉が淀みなく並んでいた。「希死念慮を度々表明しながら実行には移さない」ことへの非難は、自殺教唆罪に相当すると考える。

僕は受け取って、当然深いショックを受けた。それと同時に、ここまで品のない言葉をチョイスした彼の心情を思った。彼は僕に対する不満を晴らすと同時に、彼自身に深い鬱屈とストレスを抱えており、その溜飲を下げるためにこのLINEを書いたのだ。
 彼の引用した喩えの1つは、9日も前に私がツイッターで別の方に対して送ったメンションにあった (そしてその喩えはまったくのピントはずれだった) 。誰かの言葉にあったように、僕はツイッターをSNSではなくて、個人のラジオ局みたいに使っている。つまり、僕のツイートは非常に多い。タイムラインに流した言葉を9日分たどるだけでも相当に面倒なはずだ。それと同時に会話も楽しんでいるので、メンションも非常に多い。執拗に辿って罵倒の素材を探した彼の執念は、昔と同じく病的で「グロテスク」な「怪人」と言うほかにない。

そうやって人を傷つけて踏み躙って (溜飲を下げる) 人物に限って、表の顔は善人面だったりする。僕の弟もそうだし、一族もまたそうだ。ますます人間という生き物の醜さを思う。つまり善人面をするためには、それなりのストレスと解消するべき鬱屈という代償が必要なのか。そういう人たくさんいるよ。本当にたくさんいる。見つけ次第距離を取ってる。取っても取ってもGのように湧いてくる。
 いつぞやN氏に指摘された、山下は人とコミットする時に100%でぶつかっちゃうって言葉を思い出した。それだけ本物の善人ってレアだから、この人いい人だって感じたらもう懐いちゃう。僕は表も裏もこのまんまです。書いた日記をプリントアウトしてカウンセリングに行ったり、カウンセリングのメモを元に日記を書いたりするくらい。フィクションに生きる才能が致命的にないんだ。SIDE-Bへ続く。

12月26日 SIDE-B 猫と暮らす

そんな訳で、もともと少なかった年末の予定もキャンセルして、猫の看護を受けながらパジャマのままでゴロゴロ過ごす日々だ。抑鬱症状はますます酷くなり、自己治癒のためにたくさんの睡眠が必要になった。そしていまは年末年始の不定期なタイミング。精神科の診察もカウンセリングも、来月の中旬まで待たなくちゃいけない。この間の悪さも運命と受け入れるしかないのか。
 チャイはいつももにょもにょなんか言ってる。たぶん僕が思うよりいろんなことを考えてる。今年のメイの冬毛は特別ふかふかに仕上がった。紅葉みたいに気温の変化で育ち方が変わったりするんだろうか。右に寝返りを打つと猫たちも右に、左に寝返りを打つと猫たちも左に移動してくれるのが申し訳ない。でも頭ん中もじゃもじゃしてる時って、無意識に寝返り打っちゃうんだよね。

20日はN氏が来てくれた。ほんとは外に食べに行くつもりだったけどおめあての店がお休みで。N氏の、見返りを求めない奉仕の姿勢にはいつも感服する。僕だけじゃなくて、ある時は電気工事士として、ある時は引越屋として、いいように使われている。彼の喜びはなんなんだろうか。僕の喜びはなんなんだろうか。一時の楽しみを感じることはあっても、人生に幸せを感じたことはないなあ。
 お鍋をつつきながら、封をしたままだったBen Watt & Robert Wyattのアルバムを聴いた。無駄な音がひとつもないリラックスしたセッションが気持ちいい。Kendrick Lamarの ”DAMN.” はブラックミュージックのマイルストーンだ。Fu...kばっかり言ってParental Advisoryかけられても、サウンドは非常にソフィスティケートされて、黒人の怒りの歴史と優れた音楽性が高い次元で融合してる。

翌21日は訪問看護。代理で来てくださってる看護ステーションの所長さんは、山口冨士夫さんの長い友人で、ロック音楽を含む表現文化に理解がある方なんだけど、本業の看護にはときどきあれ? ってことがある。この日は僕の、やるべきことがこなせない状態について、「珍しい悩みですね」って言葉が出てきて唸った。鬱病ならば日常的に起こりうることだから。もうひとつ、僕は生まれた環境に不服だったけれども、学校を無遅刻無欠席するほど真面目に通った。所長さんは不服から家を飛び出したそうだ。もしその行動力が自分にあれば、こんなに惨めな人生を送ることはなかっただろうと思った。
 つくづく先月辞められた看護師さんが、どれだけ僕という人間に対して、鬱病という病気に対して、深い理解を示してくれてたかを思う。それは僕にとって恋愛感情に近かった。

ところで45歳にして初めて、ファンレターなるものを書いた。いままで、僕の価値観と美意識を作り上げた細野晴臣さんや鈴木慶一さん、神と崇めるBrian WilsonDavid ByrneAndy PartridgePaddy McAloonにも書いたことない。はっ書いてみようか!? Brian WilsonとPaddy McAloonには書ける気がする。で、実際に書いたのはのんちゃん、Negiccoの皆さん、Shiggy Jr.の皆さん。なにやってんだ俺。でも彼女たちの存在に本当に救われたし、素晴らしい表現者だと思ってるので。あなたは素晴らしいですって話、筆が疾風のように走った。投函する時はドギマギした。読んでくれるかな。
 その足で天野花@四谷天窓へ。郵便局の閉まる時間とライブハウスの開く時間はだいぶ違う。東京は座って休む場所がないってほんとだよな。結局カフェに入るんだけど、お腹がタポタポになるよ。

花ちゃんはやっぱり面白い。エッジーでアイデアに溢れたギタープレイ、透明で伸びやかな声。楽曲は音楽的な裏づけがあって耳に心地よくて、巧みな心理描写に胸をえぐられた。
 ただ...ほかの出演者は惨憺たるものであった。この界隈によく見られる地下アイドル状態、ただの情念吐露になりさがった歌唱。音楽についてこう思ってる。みんなもがき苦しみながら生きてるわけじゃん。それをユーモアで包み込んで赦すのが、音楽のひとつの役目じゃないだろうか。情念を増幅してぶつけるのは音楽への冒涜だ。終演後、花ちゃんと話をした。ジャンルが違う場所に行くほど、自分が拡散されるって考えてるんだって。それは素敵な発想だ。花ちゃんの音楽がいろんな人に届いて欲しい。ただいまの段階では、もっと耳の肥えたリスナーに届いて、いい大人に発見されて欲しいかなあ。

22日はわたしのねがいごと。@下北沢LIVEHOLICへ。こないだのワンマンライブ、チケット取っておきながら体調不良で行けなかったの、すごい悔しかったんだ。
 この日はO.A.から素晴らしかった。iloliはトリオ編成。エレクトロニカな出囃子から期待させた。ハスキーなハイトーンボイスは蔡忠浩さんを連想した。もしbonobosが、アメリカンルーツロックじゃなくてカンタベリーに憧れたら? みたいなバンドだった。音色や奏法を巧みに変えていくギターが特によかった。もっとギター爆音でも面白かったかもね。Omoinotakeは大きな箱でも充分に通用する、確かな演奏力のピアノトリオ。ソウルを中心に、ファンク、ディスコ、ジャズまでも取り入れた、ブラックなグルーヴが気持ち良かった。いろんな音楽を聴き込んでるなって感じた。アルバムを買った。

そしてわたしのねがいごと。サポートのリズム隊が入って半年、ますます見事なアンサンブルの地平へ登りつめていた。アコースティックトリオだった頃には、わたねがで汗をかいて踊るなんてまったく想像できなかった。でも彼女たちの本質は変わることなく、根底にあるのは楽曲の美しさ、ろみさんのエモーショナルなボーカル、ひかるさんの痛快なギターストローク、ちほこさんの遊び心溢れるキーボードだ。ひかるさんのテレキャスが聴けたのも収穫。
 トリのとけた電球は、キーボードの入った4人編成。ボーカルがクリーントーンでいいギターを弾くんだけど、カラフルに光るのはキーボード。リズム隊はファンキー。ベースがドラムを見つめて、でもドラマーは中空を見つめて。J-POP的なわかりやすさを持ちながら、予期せぬアンコールで披露したファンクナンバーが彼らの本質かも。

23日はぜんぜん違うライブを観に行くつもりでチケットも買ってたんだけど...日記のSIDE-Aに書いた出来事でメンタルつぶれて寝込んでた。タイムラインを開いたら、水野谷みきさんがやっぱりメンタルつぶれて、でも今日ステージに立つ、誰か来て元気づけてって。これは本気のヘルプだし、辛い気持ちは辛い気持ちの人にしかわからないって痛感してんだ。僕はこんなおじさんだけどさ、これは僕が行かなきゃって。ほんとにすごい頑張って行ったの。
 新宿KARL MORLは場末のパブで、昭和も僕が生まれるずっと前の香りがして、最初は怖かった。たまたま演奏してたのが、昔の色っぽい歌謡曲を歌うデュオだったってこともある。人生経験ディープそうなお姉さんが大人のエロスを歌い、それをドス声で応援してるおじさんもカタギじゃなさそう。でもたぶん同世代で、いろんな人生がある。

昼間からやってるっていうこの長いライブイベントの、水野谷さんはトリ前のいい位置だった。「ここが私のホームなんだ」ってええっ!! mona recordsとかで観てたからそれにもびっくりだよ。辛い出来事も聞かせて貰った。うーんとても書けない。
 それでも水野谷みきは歌いきった。”炊飯器に乗って” みたいな可愛いナンバーはなし、心持ち大人なセットリストで。「愛してる人が血みどろで死んで行く姿を...」なんて歌もあった。”9月30日” だ。耳に残るメロディー、あどけなさと大人っぽさが入り交じる歌声、ピアニカ。日常と非日常がすれ違う光景を描ききった。ほんとはちょっと泣いてた。泣かないって決めてたのにって。この日の水野谷みきを観れてよかった。お酒いっぱい飲んだ。焼きそば美味しかった。トリのバンドがかっこよかった。名前聞き損ねちゃったな。

24日クリスマスイヴ。やっぱり寝込んでた。ふと思い立って、ピザとチキンとケーキのデリバリーを頼んだ。猫たちに特別なちゃおちゅーるをあげた。ファミリーサイズのピザセット、声をあげて泣きながら食べた。で、胸焼けして胃腸薬を飲んだ。なにやってんだ。
 我が家がまだ荒んでなかった幼年時代には、クリスマスにケーキが出てきた。ケーキを食べるときの曲を選曲してたなってとふと思い出した。つまり僕にとってずっと、クリスマスってクリスマスソングの日なんだ。今年もクリスマスソングのMix-CDをいろんな人に配った。大好きなクリスマスソング、同じクオリティであと10枚Mix-CD作れるくらいレパートリーがある。サンタクロースも信じてた。一族を崩壊させた人格障害の祖父が、よく見ろそれ近所のおもちゃ屋の包み紙だぞって嘲笑ったけど、ああサンタさんあそこで仕入れてるのかって。

25日クリスマス。やっぱり寝込んでた。予約してたライブをキャンセルして、すぐにやっぱ行きますの連絡を入れた。迷惑な客だ。anone@下北沢mona records。トイトロニカのデュオだ。
 この日ちゃんと出掛けた偉大さは、同病者にしかわからないだろう。鬱病の人権が認められるには、ハンセン病くらい時間がかかるだろうなって痛感するよ。最近は鬱病のことを、心の風邪じゃなくて心の癌って呼ぶんだ。「お母さんを癌で亡くした山下に軽々しく癌って言って欲しくなかった」って言われた。軽々しい病気じゃないってわかり始めたから癌って呼ばれるようになったんだよ。僕の母は鬱病で癌だった。辛かったのは鬱病の方だ。行きの電車でしんどかったのは、低温火傷を起こしそうな椅子暖房。駅前に座ってアイス齧りながら冷やした。暴力的な暖房については、誰かが声を挙げなきゃいけない。

最初に登場したのは谷本早也歌さん。MacBookとキーボードとおもちゃの鉄琴を使って、可愛いトイトロニカを奏でた。続いてaqubi。ボーカルとキーボードの、ちょっと影のあるポップデュオ。この2組、体調的にほとんど聴こえなかった。ごめんなさい。
 トリにanoneが登場。MacBookとキーボードラックを組み上げて、想像してたより低音の利いたサウンドだ。ショーアップされたステージに目が覚めた。楽曲にも圧倒的に力があった。ボーカルの掛け合いや、サンプラーを使った遊びもアイデアたっぷり。「山下達郎さんのカバーで...」って “クリスマスイヴ” を想像させて ”ドーナツソング” 、Bo Diddleyビートの可愛いナンバーだ。歌に合わせてドーナツを投げた。受け取って嬉しい!! いつもライブが終わったら長居するんだけど、この日は風のように去った。帰りのタクシー代は言いたくない。

26日。うなされて肩ポンポンって叩かれた (猫に) (ほんとう) 。で、やっぱり寝込んでた。夕方にやっと起き出して書き始めたこの日記が、いつ書きあがるかまだわからない。
 いまさっきコーヒーを淹れた。大学時代に、教授の研究室の食器棚にあったインスタントコーヒーが、毛玉状になってるのを発見したことをふと思い出した。教授を研究室から追い出して、ゼミ生みんなで大掃除をした。1990年開設のキャンパスなのに、1980年代で賞味期限が切れた食品が出てきた。ポカリスエットは5年放置するとゼリー状になることがわかった。坂根巌夫先生。僕の価値観と芸術観を築いた方。「動物のお医者さん」の漆原教授にそっくりだった。お元気かな。

来週は来年らしいよ、やんなっちゃうね。

我が国の首相が、「インスタ映えが地方活性化の鍵」って言い出した。きっとこの間の飲み会で、アイドルに「インスタ映え」って言葉を教えて貰ったんだろうな。韓国の議員との面談で、相手よりも一段高いソファーに座った。その数時間後、国連事務総長との面談では相手と同じ高さのソファーに座った。チャップリンの「独裁者」って映画に、椅子の高さを競うシーンがあるよ。
 シュールって言葉が履き違えられてるのむずむずする。シュルレアリスム=超現実主義。現実を超越した現実なので、非現実っぽいことをシュールって呼ぶのは正反対だ。「自販機のサンプルが動き回っていたので調査したら頭がおかしくなりそうになった」ってブログが面白かった。筆者の観察力や行動力もさることながら、オチに持っていく流れは一遍の映画みたいだ。ぜひ読んでください。

ガーディアン誌がBest music of 2017を発表した。FACT MagazineがFACT BEST ALBUMS OF 2017を発表した。ローリングストーン誌が20 Best R&B Albums of 2017と、あなたが聴いてないかもしれない15 Great Albums You Probably Didn't Hear in 2017を発表した。NPR局がThe 2017 NPR Music Jazz Critics Pollを発表した。日本のonly in dreamsが2017年ベストアルバムを発表してまだまだ更新される。Ultimate-Guitar.Comが、宇宙についての名曲Friday Top: 25 Greatest Songs About Outer Spaceを発表した。
 年末になると各誌が年間ベストを発表して、それを紹介するのリンクとか果てしなくめんどくさいんだけどさ、やっぱり好きなんだよね。で、とどめ。100以上の音楽メディアの年間ベストを集計した、2017 Music Year End List Aggregateが発表された。こういうリストに挙がりにくいアルバムだと、David Crosbyの “Sky Trails” は名盤だと思う。”She's Got to Be Somewhere” のライブ。彼がいまでもこんなにイカしてることはもっと知られてもいい。

クリスマスソングの企画もたくさんあった。WilcoのJeff Tweedyがテレビで “Fairytale of New York” を演奏した。Belle and Sebastianがラジオで “Christmas Wrapping” を演奏した。Robert Glasper and Laura Mvulaが “Bread” を公開した。KT Tunstall and Christopher Lennertzが共作した “Hey, Mr. Santa” を公開した。Sondre Lercheが “Bad Liar” を公開した。Ron Sexsmithが自宅で賛美歌 “Hark! The Herald Angels Sing” を演奏した。
 Vashti Bunyanのレアなクリスマスソング “Coldest Night Of The Year” 。デモバージョンは10年くらい前にリリースされたけど、この完成バージョンは14枚しかプレスされなかったらしい。その原曲Nino Tempo & April StevensのバージョンはこちらBarry Mann / Cynthia Weil作品だね。街中にPhil Spectorの手掛けたクリスマスソングが流れて、岸野雄一さんがSpectorのエコールームと、いま彼がいる塀の中を交えたツイートをした。今日26日が誕生日だそうだ。

Animal Collectiveライブアルバムを発表した。価格はユーザーが決めて、すべての収益は貧困や緊急事態に苦しむ人々に寄付される。Tony Viscontiが、Damon AlbarnのプロジェクトThe Good, the Bad and the Queenを始め、何枚かのアルバムのプロデュースをしていると語った。Robert Glasper & Bilalライブ映像が公開された。来日するThe xxFUJI ROCKでのライブ映像が公開された。素晴らしいライブだったな。Noel Gallagherがスポーツイベントで “All You Need Is Love” を演奏した。Erykah Baduがテレビで “On & On” とFela Kutiの “Sorrow Tears and Blood” を演奏した。
 Velvet Undergroundが、未発表アルバムを含むボックスセットを発売する。Procol Harumが、ボックスセットを発売する。Rolling Stonesが、“'67 Sessions” なる音源集を発売する。

小沢健二さんが36人編成ファンク交響楽ライブツアーをする。ミュージックステーションに出演してる映像を観た。最高だな。年上がまだまだイケてるっていうのはすごく励みになる。小沢健二さんの言葉の凄さと言えば、「左へカーブを曲がると...」が挙げられることが多いけど、「神様を信じる強さを僕に、生きることを諦めてしまわぬように」、この平凡な表現の力にここ数日救われた。
 TVアニメ「おそ松さん」の新しい主題歌は鈴木慶一さん作詞、高橋幸宏さん作曲。歌は慶一さん、幸宏さん、大貫妙子さん、矢野顕子さん、奥田民生さん、柴咲コウさん、Smooth Aceの重住ひろこさん。鈴木博文さんの “どう?” が年間ベストでいい位置にいる。売れて欲しい。ついでに1stアルバム再現ライブの音源化を。小田和正さんのテレビ番組「クリスマスの約束」で、ムッシュかまやつさんの追悼メドレーが演奏された。ムッシュは最後まで粋な人だった。遺作のLIFE IS GROOVE名義のアルバムが一番かっこいい。好きな曲は「二十歳の頃」。絵描きの女性と縁の深い半生だったから。「クリスマスの約束」と言えば、小田さんとさだまさしさんが共作した「たとえば」って曲が脅威の名作で、音源化されないかなってずっと思ってる。大貫妙子さんのロングインタビュー。非常に興味深い。普段はベースボーカル+iPodで活動してるサトウトモミさんが、3月10日サトウの日にバンド編成でライブするために、ピアニストを募集してる。

今年はこれが最後の日記になるのかな。もう厄災は勘弁してくれ。みんな来年2018年を生き抜いて、2019年を迎えようぜ。

12月31日 SIDE-A 音楽があれば会話が出来る!! のんちゃんはちょっととぼけたジャンヌ・ダルク

今年も無数のライブに行ったけど、ライブ納めは28日ののんちゃん主催「KAIWAフェスVol.1 -音楽があれば会話が出来る!」@恵比寿ガーデンホール。猛烈に楽しかった!! このフェスが締めでよかった!!
 出演は、ラジオDJとしてののんちゃん、のんちゃんのバンドのんシガレッツ、堀込泰行さん、銀杏BOYZサンボマスター。この顔ぶれからして相当なカオスが予想された。のんちゃんが初めて好きになって観に行ったライブは矢野顕子さん、そもそも音楽的感性が豊かなんだ。その矢野顕子さんものんちゃんをいたく可愛がってる。奈良美智さんは、今年開催された大規模な個展「for better or worse」の最初の観客にのんちゃんを選んだ。いろんな表現者に愛されてる。伝わる人にはちゃんと伝わってる。たとえ本名を奪われても民放に出られなくても、やくざな芸能界を瓦解させる実力と人望がある。

フェス直前に公開された新曲 “RUN!!!” は、Sachiko Mさん作詞・作曲、大友良英さん編曲。これが実にいい。なにがいいってのんちゃんの歌声がますます力強い。
 Sachiko Mさんは、普段はサンプラーでサイン波を響かせてる方で、「あまちゃん」までポップソングが書けるなんて誰も思わなかった。大友さんもびっくりしたそうだ。大友良英さんは、ギターでノイズミュージックを奏でる方で、20年前までまともにギター弾けるなんて誰も思わなかった。劇伴のお仕事を始めた時は心底びっくりした。彼を劇伴の世界に引き込んだのは梅津和時さん。僕みたいな凡人にはノイズにしか聴こえなくても、彼はジャズの理論に則って演奏していた訳で、彼が作曲能力を持ち合わせてたのはいまではわかる。そして、「あまちゃん」で彼らは邂逅する。

行きの電車で #のんフェス ハッシュタグを眺めてテンション上げた。こんなにも愛に溢れたハッシュタグは珍しいな。会場には開場前からたくさんの人が集まってた。客層は、朝ドラファンと思われる層、「この世界の片隅に」でファンになったと思われる層、そして普段からフェス慣れしてそうな層、老若男女揃ってる。若手女優さんのイベントにしては、女の子が多いのが目についた。
 2階にはあまちゃんファミリーや「音楽仲間」がたくさん集まってたみたい。片渕須直監督だけは、なぜか普通に1階でご覧になってた。ラジオブースを模した一角にのんちゃん登場。言葉がうまく出なかったり原稿をなくしたり、いつもツイキャスで見せるグダグダぶりの進行を、みんなあったかい目で見守った。最初のゲスト、堀込泰行さんとぎこちないトークのあとステージへ。

Kirinjiマニアは熱狂的なので言葉を選ぶけど...堀込泰行さんはライブではボーカルもギターも...だな。まずは “Day Dream Believer” をThe Timersの日本語詞でデュエット。これは清志郎さん好きののんちゃんに向けた選曲。泰行さんは一応ジャパニーズソウル枠なんだけど、あんまり清志郎さん聴いてないな。
 続いて “エイリアンズ” 。これが不思議なアレンジだった。AメロBメロを泰行さんが歌って、サビ4小節前からのんちゃんがユニゾンで入って、サビはのんちゃんメイン、泰行さんは急にオクターブ下げてしばらくユニゾンして後半ハモリ。正直不自然に聴こえた。原曲の “エイリアンズ” はみんな知ってて、それをのんちゃんが歌ったから話題になったんだし、そもそものんフェスなんだし、リードボーカルをのんちゃんに任せて泰行さんはハモリに回ればよかったんじゃないの。

ラジオタイムを挟んで銀杏BOYZ。峯田和伸さんがアコギ1本で歌い出す “” の圧倒的なパワーに引き込まれた。2曲目でモッシュ起きちゃって演奏中止して「ゆっくり、ゆっくり下がって頂けますか、俺たちのライブで人が死んでも仕方ないけどのんちゃんのイベントで死んでほしくないんで」って。朝ドラファン層や「この世界の片隅に」ファン層は呆然。”No Future No Cry” の最後では、お気に入りのリッケンバッカーを破壊して、冷静に落ち込んでる姿に笑った。よく見えなかったけど、高く放り上げて取り損なっちゃったみたいね。
 そして “BABY BABY” シンガロン。素晴らしかった。僕はぜんぜんわかってなかったな、銀杏の本質は圧倒的にライブだ。また観に行く。ラジオコーナーに登場した峯田さん「俺の汗臭さがのんちゃんに届いてないか心配で...」。のんちゃん「キラキラしてます!!」。

サンボはFUJI ROCKで何度も観てきたけど、久しぶりに観た山口隆さんが、ライブ慣れしてないオーディエンスに「ビビってんじゃねえぞ」って繰り返すのが気になった。昔はもっと腰が低かった。徐々に盛りあがってきたところで「君とミラクルを起こしたいんです」って言葉で火がついた。「ここで起きた奇跡が本当なんだよ!!」。
 盛りあがるナンバーから “ラブソング” を挟んで、”世界はそれを愛と呼ぶんだぜ” 、”YES” とたたみかけて大団円。”YES” は初めて聴いたけど、充分ヒットするに値するキャッチーなナンバー。進化したサンボマスターを感じた。ラジオコーナーに3人が登場、相変わらず噛み合わない会話に笑いが起きた。のんちゃん「武道館行きました」。山口さん「銀杏の武道館には行ったの」。のんちゃん「行ってない」。さっき峯田さんにいじられた山口さんの勝ち誇った顔。

ここまでを総括する素晴らしいツイートがあった。「銀杏BOYZ『生きてればいいんですよ! 俺らも汚いことばっかして20年やってきましたよ! でも、生きていればまた会えるんですよ!』。サンボマスター『あんたに生きて欲しいんですよ! 笑って欲しいんですよ! 孤独から救いたいんですよ!』。泰行さん『カイワレ大根はカニカマとマヨネーズであえるとおいしいですよー』」。大雑把にそんなライブだったよ。銀杏とサンボの熱いメッセージと演奏力には深く感動した。百戦錬磨のバンドが続いたあとで、のんちゃんはなにを見せてくれるのか。
 “スーパーヒーローになりたい” の衣装でのんちゃん登場。のんシガレッツはガールズバンドって触れ込みだったんで、楽器の弾ける若いタレントさん集めたのかと思いきや、Ba.岩崎なおみさんじゃないの。Gt.ヒグチケイさんもDr.若森さちこさんも手練れのプレイヤー。

のんちゃんはギターの上達はもちろん、ボーカルがすごく強く安定してびっくりした。ギターも音がでかくて、コードも歌詞も豪快に間違えてたんでガチ生演奏。”スーパーヒーローになりたい” から “I Like You” を挟んで “RUN” まで、それ以外の4曲は未発表曲を含むのんちゃんのオリジナル曲。ポップスとしてちゃんと成立してて、でも捻りの利いたセンスのある楽曲だった。
 “I Like You” のレコーディングの時、CHABOさんが「清志郎に伝えとくよ」って言ったんだって。清志郎さん生きてたら喜んでステージにあげて一緒に歌ったはず。のんちゃんの弾き語りで1番を、そしてバンドがドカンと入った時の高揚感たらなかった。なんでだかのんシガレッツで踊ってるのは僕だけで、1人で汗だくになった。アンコールはゲストを招いて “タイムマシンにおねがい” 。

いちばん大切なことを書き忘れた。生のんちゃん、神々しいほどに可愛かったです!! のんちゃんのパンクスピリット炸裂だった。残念だったのは最前列でタオル掲げてた方々。手作りの旗かなにかだったのかな? あれは後ろのお客さんの視界を遮って迷惑なんで、今後はご遠慮願いたいです。っていうミュージックフリークたちも、少しづつそういうマナーを学んでいったので。
 のんちゃんファンが音楽にも興味持ってくれると嬉しいな。銀杏、サンボ、ヤス、高野さん、大友さん、清志郎、あっこちゃん。その先にある世界のロックや、果てしなく深く広い大衆音楽史。女の子ってこんなにキラキラ輝くんだってくらい可愛い女の子と、ロックってやっぱすげー心動かすよなってくらいかっこいいロックバンドに遭遇して、興奮して眠れそうにない。

ところで2日後の30日の、大友良英さんのラジオ番組「音楽とコトバ」に、のんちゃんがサプライズ出演した。来年の春にアルバムを発売すること。相思相愛のあっこちゃんがついにのんちゃんに楽曲提供すること。ツアーもやりたいな、なんて。好きなミュージシャンにRamonesCyndi Lauperを挙げてたのも聞き逃せない。のんフェスのラインナップ、そしてのんシガレッツの目指すところがますますはっきりわかるキーワードだね。
 音楽活動、そして芸術活動を活発にしてるのんちゃん。でも彼女は「演技がしたい」って叫んでたのも忘れない。「あまちゃん」の天野アキが、「この世界の片隅に」のすずさんが、まるでのんちゃんそのものみたいに自然に見える素晴らしい役者さんだ。そっちも期待してます。Love & Peace. SIDE-Bに続く。

12月31日 SIDE-B 大晦日に正月ボケ

他の日は何をしてたかって、ひたすらボケッとしてた。年賀状は出したし (ネットでボタン1発のやつだけど) 、掃除もした (ゴミの収集日に間に合わなかったけど) 。年賀状、今年は一人一人にメッセージを書くつもりだったのに、年末に数々の厄災が降ってきて精神的に無理だった。再来年に期待してください。
 30代の頃は独りでいることにも慣れて、特になんの感慨もなくなってたんだけど、こんなツイートがあった。「40歳過ぎたあたりで麻酔が切れてまた痛みを感じるようになるよ」。これほんとなんだよね。かのZimmerman氏の暴言も、ここんとこの無理解が背景のひとつにあると思う。ところでプロに相談したところ、Zimmerman氏に対していくつかの法的措置を取れることがわかった。びっくりした。人格形成期から心ない言葉を浴びせ続けられてきた人生だから。

27日は体のメンテナンス。可愛いくて和む施術師さんと、おばちゃんで上手い施術師さんがいる。指名はできない。この日は可愛い方だった。辛いことが続いて寝込んでたから、久しぶりにゆっくり人とお喋りした。和んだ。音楽や美術やのんちゃんの話をしてたはずなのに、いつのまにか心の話になっちゃった。猫と喋るのも楽しいけどさ、やっぱり人は人とお喋りしなきゃダメだー!! 次に誰かとゆっくりお喋り出来るのは今日の深夜。近頃懇意にしていた野良猫のおうちが工事だ。どこ行っちゃったかな。寒くしてないかな。
 28日は訪問看護 (おじいちゃん) 。善人面をした人物の本性 (Zimmerman氏やうちの弟や遠戚やいろいろだ) について。世の中には悪意が存在して、どう折り合いをつけるかについて。命という現象になんの意味もないことについて。夜はのんフェス!!

29日はmixcloudにアカウント作った。最近Mix-CDを差しあげてもCDプレイヤー持ってないって若い子が多いんで。僕の選曲にはネットにない曲も多いし、曲間や音質もいじってるからプレイリストを公開するだけじゃダメなんだ。けど著作権クリアしてるわけじゃないんだな。まだ無名だから消されにくいだけなんだな。エクスペリメンタルな音楽をかけたら猫が隣の部屋に行っちゃった。寒い。Blossom Dearieかけたら戻ってきた。僕の音楽趣味と猫の音楽趣味はかぶるところとかぶらないところがある。同じ部屋を共有する者としてマナーをちゃんとしなくちゃいかんな。うるさい音楽はヘッドフォンで聴きます。
 考えたくないけど喉痛い。風邪ひいたぽい。Amazonで風邪薬を注文したら、担当薬剤師のお名前が「原田郁子」さんだった。これからは「原田郁子ちゃんに看病して貰った」って言おう。

30日は掃除も終わって布団を干して、のんびり過ぎる。隣の人がこの寒い中、網戸を外しちゃって苦戦してる音が聞こえた。新しく組み立てたレコードラックにレコードぜんぜん入り切らなかった。もうレコードラック置く場所ない...。よく、レコード何枚持ってるんですかって聞かれるんだけど、たぶん2000枚くらい。CDはたぶん20000枚くらい。音楽はシーケンシャルにしか楽しめないから、収録時間と余命を比較する。僕はコレクターじゃなくて聴くために買ってるんで、聴けないほど買ったら意味がない。来年は少し控えよう。
 レコード大賞の結果をいちおう確認した。聴いたのは優秀アルバム賞の高田漣さん “ナイトライダーズ・ブルース” だけ。特別功労賞のムッシュは、スパイダースから遺作までだいたい聴いてる。そして大晦日になってもトレンドの2位に「サンタさん」がいる。

アップル、『iPhone』旧モデルの性能抑制で謝罪」「iPhone処理遅くした変更 説明不足をアップル謝罪」って記事で賑わった。見出しの印象操作はなんなの。「当社はどのApple製品についても、意図的に耐用期間を短くしたり、ユーザー体験を悪化させたりして、アップグレードを促そうとしたことはない」。「稼働がピークに達したときに電源が突然落ちるのを防ぐため、処理速度を遅くするなどの対応をした」。SFみたいな機械使ってるんだから、多くを求めすぎてもな。
 誤解と言えば、「宮城や福島で炊き出し100回、なぜならそれがジハードだから。被災地でカレーをふるまい続けたムスリムたちの話」って記事。モスクに武器を隠してるんじゃないかとか、賃貸を断られたりとか、ムスリムに対する差別が酷い。「ジハードは聖戦と訳されているけれど、本当は『努力』という意味なんです」。

病は毛から...髪で健康診断」。髪の毛の成分は体調に応じて微妙に変わる。つまり体調の記録になるそうだ。「クワイ河に虹をかけた男」ってドキュメンタリー映画が面白いらしい。観たい。
 「猫と7か月間漂流、ポーランド人男性をインド洋で救助」。これ猫がいたから生き延びる気力が続いたと思うよ。釣り上げた魚をわけあってたってのがいいね。「文字を持たなかったインカ帝国で記録用に使われた結び目つきのひも『キープ』の解読に大学生が成功」。キープの話題は前にも紹介した。まさか大学生に解読されちゃったのか。奈良美智さんが1997年に篠原ともえさんから貰った筆をまだ持ってる。いまでは誰でも知ってる奈良美智さん。97年に交流があったともえちゃんは早い。偉人のどうでもいい言葉を知った。「私は雨傘を忘れた ich habe meinen Regenschirm vergessen (ニーチェ) 」。

炉心溶融認めず 官邸ではなく当時の東電社長判断」この嘘を最大限に利用したのが自民党だ。そのくせいま原発売ろうとしてんだよな。民主党政権の名誉回復を祈ります。震災と世界的金融危機の中で健闘した。「『核のゴミ』説明会 機構が東電社員にも参加要請」。社員を動員したり学生にサクラさせたり。
 「ソ連の北方四島占領、米が援助」。「米国はソ連の対日参戦に備え、大量の艦船の提供だけでなく、ソ連兵の訓練も行っており、米国の強力な軍事援助が四島占領の背景にあったことが浮かび上がった」。これもっと話題になっていい。「朝日新聞・高橋純子氏 『安倍政権の気持ち悪さ伝えたい』」。ひとつひとつの悪事を叩いてたらきりがない、平然としてる現状が気持ち悪いよと。安倍晋三は26年ぶりの好景気っていってるけど実質賃金の推移はこちら

前にちょっと書いた、木を殺して神戸復興のシンボルにして分解して売る行事は実行された。勝手に「落ちこぼれの木」と呼ばれた立派なヒノキアスナロは世界一になることもなく、材木になって運ばれていった。企画したイベンターとテレビ局、プラントハンターなる植民地主義の職業と西畠清順氏、炎上して逃げた糸井重里氏。
 糸井重里氏は徳川埋蔵金を掘ろうとしたり、もうダメかと思ったら手帳で大儲けしたり、昔からちょっとわからない方ではあるけど、ここまでやらかしたのは初めてではないか。ゲームMOTHERシリーズや、作詞家としての素晴らしい仕事の数々に心動かされた者としては、裏切られた気持ちだ。その糸井ファミリーがみんなだんまりなのも気持ち悪い。つまり年の瀬に至るまでうんざりするニュースが続いた。やっぱりこの国は大きな選び間違いを繰り返してる。

楽しい音楽の話題で締めましょう。Amoeba MusicがThe Best Albums of 2017を発表した。この手のランキングは最後かな。いろんなジャンルを取り扱ってる。diskunionのワールドミュージック年間ベストアルバム大賞2017。ワールド系のランキングは少ないんで参考になる。
 Rideスタジオセッション43分が公開された。ここでmp3ファイルを無料DLできる。Sigur Rosクリスマスミックスを提供した。Youssou N’dour最新ライブがフル公開された。Television Personalitiesの1990年の未発表アルバムが発売される。Hermeto Pascoalが来日する。ヤッター!! 前回の来日のチケット取ってたのに行けなかったの。2004年に日本で発売された8cmアナログプレイヤーのレビュー動画。レビュアーの手際の良さ。かわいい!! 欲しい!! と思ったけどAmazonで22000円は、おもちゃにしては高すぎるね。盤もすごいプレミアついてる。

小沢健二さんと満島ひかりさんの “ラブリー” 。「いつか、悲しみで胸がいっぱいでも」。やくしまるえつこさんがEテレ「カガクノミカタ」のテーマ曲を手がける。連載「細野晴臣が語る仕事」の3回めと4回めが更新されて完結した。今回も深い。エレクトリックリボンericaが9月で卒業する。駆け抜けたな。
 かねこきわのさん「昨日受付のバイトで、お姉さんの恋ばなを聞いていたのだけど、その時大切にためてたネリケシがどこかに落としちゃって、それ以降そわそわしすぎて全然話聞けなくてわたしの集中力の無さと優先順位にドン引きされた」。水中、それは苦しいに「てじな」って名曲があるけど、「ネリケシ」もそれに匹敵するパワーワードだ。な行がいい仕事してる。ネリケシはその後見つかったそうだ。今年最後の話題がこれでよかったのか。

皆さんよいお年を。来年こそは俺にもよいお年を。