DIARY 2002年9月


9月1日 激鬱道場

激鬱の日も平然と文章が書けるようになりました、最近。

レキソタンをもりもり食べ (医者には16mg / 日までと言われている。トレドミンは75mg。ベゲタミンは1錠。これは劇薬なのでさすがに守っている) 、ベッドにうずくまって悶え苦しみ、数時間ごとに起き出しては書き込み、そして今さっきようやく最初の食事にありついた (午前1:30) 。しかもなんか寝違えてる。
 28日の日記に書いた「寂しさの吐露」の話題が色んなサイトで暴走しています。このムーブメントにおいて、僕の言動には不適切な部分があったと思う。しばらくは静観モードに入ります。

きのうの日記は実は昼間に書いた。あれから大家さんがやって来るという事件が勃発。7月に「退去のお願い」を貰った時は、ついにこのボロアパートも取り壊しかと思ったけど、よく聞いてみたら大家さんが物置きとして1階を使いたいらしい。そんなわけで近く同じアパートの2階に引越すことになりそうです。不毛だけど追い出されるよりはだいぶましだ。
 夕方には頭の中に漠然と漂っていたアイデアをメモにして送信。反応は...薄い。そして唐突に飲みのお誘い。Y.S、S子さん、Y子さんと合流。芋焼酎の旨味と素敵な仲間たちに大いに酔っ払った。帰ってきてT.N.と果てしなくくだらないメールの応酬。それら全ての反動として今日の鬱があるわけです。楽しい時間を持つのは素敵なことだけど、それに順応する精神状態じゃないのが残念。という意味での激鬱道場。

9月3日 The Medium Is The Massage

不安感とだるさが3日抜けない。
 最近よく会っている高校時代の数少ない友人と中華を食べた。みんなこの歳になると、たまには全く気を使わないでいい人間関係が恋しくなる。例によって男3人で噛み合わない会話。しかしその噛み合わなさ加減が高校時代に近づいてきた感もあり、割と楽しかった。それにしても「今日は食い」と言いながら紹興酒に手が伸びてしまう自制心のなさ。写真はアワビのなんとかいう料理。漁村の民宿ならともかく、都内でアワビを食べるなんて自分的に大事件なので撮りました。

久しぶりに街に出ると、おととい寝違えた首が本格的に痛いことを自覚。家にいたらあんまり首を動かさないからな。交差点で左右を確認するだけでイデデデデ。マッサージの得意なN氏にほぐしてもらった。
 マッサージという行為は、作業自体を取り出してみるとわりとHというか、手のひらとかほぐされてるうちに変な気になってくるね。なんてくだらない話をしていたら、N氏が近世日本の男色文化について語り出した。こいつ、なんでそんなこと知ってるんだ。手のひらを預けながら、我々の16年間の男の友情について色々と振り返ってみました。

9月5日 サナトリウム幻想

不安感とだるさがなおも抜けず。
 実は三度目のメジャートランキライザー投入前に入院療養を薦められていたのだが、猫の預かり手がいないという言い訳で逃れたのだった。メジャーが効かないとなるとやっぱりサナトリウム生活ですかねえ。海辺がいいねえ。白い帽子の薄幸の少女と砂浜を散歩したい。手はつながなくていい。彼女が足を取られた時にそっと差し出すのだ。

きのうはちょっと無理をしてウクレレ教室に行ってきました。前にも書いたが我がクラスは学級崩壊の危機にあり、いい加減メンバーを固定しないと発表会に間に合わないのです。もはやウクレレだけで聴かせることを断念し、歌モノで行くことにく決定。誰かのバックで適当にストロークしてればいいのかと思ってたら、僕より後に入ってきた青年がかっこいいカッティングパターンをマスターしてしまったため、彼のプレイをリズムの中心に置いて僕がボーカルに回されそうな予感。ボーカル! ウクレレ教室たるもの、ウクレレで醜態は見せられないが、ボーカルは管轄外なので下手っぴでも知ったことではないのであった。

ニューヨークで頑張っているSさんが東京に来て、古い仲間が久しぶりに集まったという話を聞いた。残念ながら、僕はもう彼らと会うことができない。間違えたのは僕かも知れないが、裏切ったのは僕じゃない。でも去らなくてはいけないのは弱者のほうなのです。だから僕は、あれから新しいコミュニティを開拓するためにずいぶん努力したと思う。新しい仲間たち、僕を受け入れてください。そしてSさんに届かないエールを送る。

9月8日 ハイル! ビル・ゲイツ!

無職の分際でノートパソコンを買ってしまってすみません。いろいろやりたいことがあるんだ。自宅ではずっとMacを使ってたんだが、遥か彼方の社会復帰のためにWindowsにも慣れておこうか、とか。右クリックでゲイツに敬礼。

そのやりたいことの1つが形になってきました。10月6日に銀座のFIVE to FIVEというお店で80s POPSICLEという共催イベントをやります。ちゃんとしたお知らせは追々。メモ帳の10月6日に印をつけておいてください。今すぐです。当日は、慌てふためく山下スキルや失敗をしでかす山下スキルが見れる予定。ついでに素敵な音楽まで聴けちゃう。年末にももう1本、主催イベントを妄想しています (サナトリウムに強制収容されなければ) 。
 というわけで初めてそのお店に行ってみました。新しいお店なので店員さんが妙に初々しくて笑った。スキンヘッドの外人さんが一生懸命ジャパニーズ会釈を繰り出してくるんだけどどうも間が悪い。こういうお店でペコペコする必要はないと思うんですけど。

9月10日 No Reply

10月6日の共催イベント「80s POPSICLE」の方向性が見えて、準備にも力が入ってきました。まずはフライヤーのデザイン案を3点。これは速攻ボツになったやつ。我ながらあんまりだと思う。ほかのメンバーも演出や選曲を考え始めているみたい。
 それに比べて主催イベントのほうがさっぱり盛りあがらない。スケジュールだけでも押さえたいんで、関係者の皆さんは取りあえずリプライください。やっぱり参加したくないという方も、残念ですがその旨お知らせ頂ければ幸いです。

国家の命令により出頭。今回が3回目なのだが、毎回出頭時間が30分ずつ早まっているのが気になる。僕を試しているのか、国家。それが君の愛し方なのか、国家。
 そして夕方から病院というネガチョフなコース。最近の生活や考えについて話す。また薬が増えた。メレリルというメジャートランキライザーの代表選手。前から飲んでるベゲタミンと併せてメジャー2枚看板体制が整った。君がポールで君がジョンか。入院療養についても相談してみました。今の状態で薦められる施設は東京の郊外にあるという。「あの、海辺とかじゃないんですか」「観光に行かれる訳じゃないんですよ」「じゃあ薄幸の少女...」「いないと思いますが」。
僕のサナトリウム幻想は呆気なく崩れ去りました。萎えた。

9月11日 テロの日の朝に

勘のいい読者の皆様はお気づきのことと思いますが、旧フリップサイドはサーバー管理者の全く個人的な感情によって削除され、その跡地にはUSER/PAGE BANNED DUE TO IMPROPER EXPRESSIONというメッセージが表示されてます (11日8:00現在) 。この件について彼と話し合っても無駄だと判断しました。
 僕は今でも彼の指摘する箇所がIMPROPERだとは思ってません。今回の事件の背景には、彼のサーバーを僕が無償で借り続けていたという状況があって、彼は積年の嫉妬と鬱憤を晴らすタイミングを伺っていたわけです。こっちも意地になって一晩のうちに避難を終え、現在あなたは移転した新生フリップサイドを見ています。しかしサーバーの都合で掲示板が使えない。やっといい感じで回り始めていたのでとても残念です。近いうちになんとかするよ。

ネットでつながっているふりをした僕たちは、実際は別の時空間に住んでいます。相手が自分のメッセージを受け取る時、どんなタイミングでどんな顔をしているのか察することができない。そのことをはっきり自覚した上で利用しないと、無下に人を傷つけてしまいます。僕もいくつかの間違いを犯したことがあります。
 でもその無自覚さをサーバー管理者が発揮したらどうなるのか。ユーザー同士のもめごとでさえ人を死に追いやるくらいの危険性をはらんでいるのですが、それでもサーバー管理者から見ればアリンコの喧嘩みたいなもんで、その気になれば全てを靴底で踏みにじることができるのです。僕たちは恐ろしい技術を手にしてしまった。インターネットという壮大な実験は、人を傷つけるだけで終わってしまうのかも知れないね。

10月6日の80s POPSICLE、そして年末のイベントは絶対に成功させます。踏みにじられたネット住人たちが、オフネットでピースな時空間を築けることを証明したい。いつもハートに音楽を、というわけでとりあえず寝ます。ブックマークを変更しといてね。

2015年追記 : サーバー管理者が僕のサイトを見てるわけないと思ってたら、サークルクラッシャーが裏で手を回していたようだ。メンバーはサークルがクラッシュした時に公に交際していた僕にすべてを押しつけて、かれこれ20年近くなる。人間不信にしてくれてありがとう。

9月13日 ボブ・ディランはいま何を考えているか

フリップサイド夜逃げ記念、なんてよくわからない理由をつけて、sasakidelic氏とF.T.氏が我が家に来襲。お二人とも僕の尊敬する「お兄さん」で、だから来襲は大歓迎です。彼らは確かなセンスを持っているからいい。でもそれをひけらかさないからいい。浮かれてないからいい。ユーモアがあるからいい。人に弱味を見せられるからいい。今を見つめてるからいい。音楽を愛してるからいい。どうして食べてるのかよくわからないからいい。女の子が大好きだからいい。
 そもそも僕は長男として育ち、大学ではキャンパスの一期生、職場は就職氷河期だったので、こういう関係って今までになかったのです。ちょっと前までは歳をとるのが嫌で嫌でしょうがなかったけど、最近はこういう人達と知り合う機会が増えて、早く彼らに追いつきたいと思うようになった。

ちっちゃな音でJim WhiteやBeach Boysやムッシュの音楽をかけながらお喋り。9.11テロの話、人間関係の話、音楽の話、言葉の話、そしてもちろん女の子の話。人生を語ったかと思ったら下ネタを繰り出したり、というか人生論と下ネタは限りなく近いと思うんですが、そういう行き当たりばったりな会話をぽつりぽつり。間を楽しむようなゆったりとした空間でした。猫たちもリラックスしていた (残念ながらsasakidelic氏は猫アレルギーの素質がある模様) 。お二人的にはあのテンポ感でよかったのだろうか。

F.T.氏のトークはいつも不思議な構成で「起-承-転-結-起」で終わる。例えば。
起:ニューファンドランド犬という犬がいる。承:おっきくて真っ黒で毛むくじゃらで、海難救助犬としても活躍している。転:ブルース・ウェーバーの写真集でその犬を見てすごく気に入った。結:いつか一緒に暮らしたいと思っている。と、ここで話を終わらせればきれいにまとまるじゃないですか。でもなぜか次の「起」がくっついてしまうのです。起:ニューファンドランド犬が熊と間違えられて警察に通報されたことがある。そう言われると続きが聞きたくなるのですが、別に続きはないのです。なんかそういうのも素敵だ。

9月14日 寒くない? 朝。

夏は冬に憧れて、冬は夏に帰りたい。今年の夏はいろいろありましたが、まじでいろいろありましたがもう懐かしいです。基本的に寒い季節は大好きなんだけど、土曜日の朝には次の月曜のことを考えて憂鬱になる僕は、寒くなり始めるともうこの素敵な季節の終わりを予感してしまう。

散々宣伝している10月6日の共催イベント「80s POPSICLE」の詳細が決まりました。18:00から銀座 FIVE to FIVEにて。
 最初に登場する1/2だめポロンは80年代をアメリカで過ごしたため、海外ドラマのプロムのようなポップな選曲になるでしょう。次に登場するCheap Manは80年代を秋葉原で過ごしたため、ヒット曲を店頭ラジカセでチェックしつつ、我々の知らない世界を垣間見せてくれるでしょう。最後に登場する僕山下スキルは80年代を寂しく過ごしたため、これといって思い入れがない。今の視点から80年代という現象を見直してみようと思ってます。10月6日でございます。日曜日でございます。地元からの立候補でございます。なにとぞよろしくお願いします。

9月16日 Babylon 80s

日曜日の夜。急なお誘いで高橋健太郎氏主催、sasakidelic氏出演のイベントを見に渋谷SOUPへ。思えば9.11事件から初めての外出で、しかも店についた頃にはクスリが切れかけていた。お喋りがしどろもどろになってしまって、平静を装うのに精一杯でした。お会いした皆さん、無愛想に見えたらごめんなさい。特にY.Aさん!
 イベントはDJ3セット・ライブ2セット。Phonesという和製ソウルバンドのボーカルの絡みがよかった。対するLovadelicは腕をカマキリみたいに振りかざす典型的なラップバンドで、そのカマでアンプのプラグを引っこ抜いちゃったりしてトラブル続きだったけど、場繋ぎのアドリブに底力を見た。ウームしかしクスリが...! という訳で途中で失礼してしまいました。

月曜日は「80s POPSICLE」の打ち合わせ。3人の方向性が違うことはわかっていたけれど、ここまで違うと不安になってきた。80年代と言えば、オケヒットを身に纏った裸の王様たちがチャートを闊歩しては消費されていった。その影でインディーズシーンの慎ましい抵抗があって、彼らがその後のポップスの道を切り開いてくれた。el、Crepuscule、Rough Trade、Post Card、Creation…。
 1986年に始まった小西康陽氏のコラム「The Best of The Greatest Hits」には、当時のヒットチャートに対する憤りが感じられます。あれは彼なりの革命への参加表明だった。95年に「使命を終えて」連載終了。今では「これは恋ではない」という単行本の中に、その残骸を見ることができます。

要するに、80s POPSICLEの前半はサニーサイドメドレーになりそう。僕はその裏側で起こっていたこと、まさにフリップサイドを伝えたい。前半はノリノリだったお客さんが、僕のDJが始まったとたんに怪訝な顔をして帰っていくような気がしています。それじゃ寂しすぎるんで、せめてこのサイトをご覧の皆さんには是非とも最後までご辛抱頂ければと。頼む。
 打ち合わせを途中で抜けて、母方の親族の敬老イベントへ。弟のトークが妙にオヤジっぽくなっててびっくりした。子供だと思っていた従兄弟たちが、最近の僕の友達よりも年上であることも。祖母が住む古いマンションのエレベーターはコンクリートとゴムの匂いがして、僕ら孫たちは子供の頃からその匂いが大好きだった。この日もエレベーターに乗ったとたんに全員でスーハースーハー。

9月18日 ルララ宇宙の風になる。

終電間際の日比谷線で泥酔したおじさんがスピッツを歌っていた。ええっひょっとして同世代ですか!?

9月19日 ハブ酒の夜

いまだに右クリックができなくてつまづいているノートパソコンをなんとか有効活用するため、せめてネット環境でも整えようかと友人に相談。I氏とN氏がやってきてハブのセッティングをしてくれた。ついでにお酒を飲んで終電まで世間話 (別にこういうものを飲んだとかではない→) 。おかげで家庭もないのに家庭内LANを持つ身分となりました。サンキュー!

若者文化に徹底的に対抗するN氏は、鉄拳の本をパラパラめくって「近頃の若いもんはよくわからない」と言う。N氏は僕と同い年ですよ。鉄拳もたぶん同い年。しかし5ページくらいめくってようやく笑ってくれた。それは頑固親父がずっと反対してきた娘の結婚をようやく認めたような、あるいはクララが立ったような、わりと感動的な瞬間だった。

追記:実はこの日、N氏の誕生日だったという。早く言えよそういうことは。

9月22日 今日も冷たい雨が

彼の嫌いな雨が降っています。たぶんどこかの軒下で震えていると思います。なんでこうなってしまったのかを思い返しています。

そもそもきのうは我が家でオフ会なのでした。全員が初対面、だけど無類の音楽好き。とにかく自分が持ってるレコードを人に聴かせたいし、人が持ってるレコードを聴いてみたくてしょうがない。たったそれだけのことでわかりあえるような気がしたのです。
 The Bandの「Cahoots」は高音を絞ればセカンドラインに聴こえる、なんて笑い話から始まり、だんだん話題はディープにマニアックに。戦後の世界のポピュラー音楽ならなんにでも首を突っ込む僕としては、アメリカンルーツに偏ったお喋りは楽しくもあり退屈でもあり。細野派と大滝派の違いをしみじみと実感しました。それはまあおいといて。

タバコを吸う方が気を使って外に出てくださるのはいいんですが、その度に部屋の扉が開けっ放しになるんですよ。「猫がいるんで閉めてください」って何度か言ったんだけど。で、案の定ネモ (写真の子) がいなくなってしまった。彼がいないことに気づいた時の僕の顔は、Todd Rundgrenのブートが見つからなかった時の顔とは明らかに違ったと思います。
 この部屋は僕1人の部屋じゃなく、僕と2匹の猫がシェアする空間です。最近は僕の友達を部屋に呼び過ぎた。体調的に電車に乗るのが億劫なので、ついついみんなを部屋に招いてしまう。そんなことが続いていた時期に、いきなり9人ものお客さんがやって来て、猫も動揺したんだろう。僕は同居人として不適切だったと思う。

オフ会のメンバーには、地方から出てきた方もいれば仕事の都合をつけて来てくれた方もいます。ひょっとしたら朝までレコード鑑賞会をするつもりだったのかも知れない。しかしなんとなく場の空気がしらけて、終電でお開きになってしまった。後味の悪い解散だった。僕はオフ会のホストとしても不適切だったと思う。
 布団にうずくまっては凹み、空耳を聴いては懐中電灯を持って軒下を彷徨い歩いてます。全てうまくいかない。

9月23日 Good Sleep

「ぐっすり」の語源がGood Sleepであることは周知の事実であるが...これは別のサイトのネタだった。きのうの日記に書いた猫の失踪事件、無事解決しました。今は飯をたらふく食ってぐっすり眠っています。疲れたんだろう。バカ過ぎる。
 小道に止めた車の下でうずくまっているところを発見した時は、空腹と恐怖で呆然という感じでしたが、こっちも這いつくばって30分ほど交渉した結果、なんとか帰宅する気になってくれたようです。関係各位にはご迷惑ご心配おかけしました。「猫見つかった。」というサブジェクトのメールを大量に打って、速攻で「よかったね」というリプライを大量に貰える状況をありがたく思う。ご報告まで。

9月24日 むかしチャイナの偉いお坊さんが

弟夫妻と一緒に、子供の頃にお世話になった方に会いにいきました。場所は30年前からこんな夜景が見えていたという超高級中華料理店。そうとは知らず、いつもの癖でサンダルで来ちゃった。入口で「お客様...」って言われるかと思ったら、予約の名前を言ったとたんにニコニコと案内されました。最奥にある絶景の個室には見たこともない専用お品書きが並んでいた。

僕たち兄弟がお世話になっていた頃の彼は、今の僕たちよりちょっと若いくらいのはずなんだけど、絶対の説得力があった。20年たってもその関係は変わらず、密度の濃いお説教を受けました。
 突っ走ることなく堕ちることなく柔軟に中道を生きる難しさのこと。学校教育は実務に役立たないけど、自分のモノサシを手に入れるために必要なプロセスであること。僕たち兄弟の父親が死んだ時の年齢を数えて、自分にあと何年残されているか考えたほうがいいこと。などなど。何ごとも中国の故事に例えると立派に聞こえるというレトリックはさておき、どんな話題を振っても核心を掴んでくる彼の眼力には、いつまでたってもかなわないなあと思った。

さて、それら全ては前フリに過ぎず。要は彼が所属する秘密結社のネットワーク構築を手伝ってくれという話なのでありました。自宅のパソコンも繋げない人間にシステムなど組めるはずもなく、丁重にお断りしたのだが無駄な抵抗だった。今から慌てて「簡単! お父さんのためのネット構築」的な本を探そうと思う。本当におそろしいのは、それを足掛かりに彼が僕を秘密結社に引きずり込もうとしていることなんですが。
 帰りは支配人まで出て来てお見送り、そして運転手付き高級車で家まで送ってくれました。運転手氏は品のいい初老の紳士で、たとえ僕が秘密結社で成功したとしても彼をアゴで使うのは絶対ムリ。

9月26日 がちょーん

なんとはなしにテレビをつけたらジャズフェスの中継をやってました。谷啓氏の素晴らしいトロンボーンを聴きながら、ガチョーンの右手のスライドはトロンボーンからきてるのだとふと思った。周知の事実なら申し訳ない。僕は画面を揺らしてみたくなった。

9月27日 イカアシジュポーン

フランスで3年ほど研究生活をしていた友人が帰国。男3人で銀座のメキシカンバーに行ってきました。周りのヤングエグゼクティブの様子を観察しながらゆっくりお喋り。
 ここ数年の生活のこと、恋愛のこと、南欧の「セレナーデ」という風習のこと、トラブル処理における国民性の違い、東京の過ごし難さ、イベントの集客が悪かった時の対処法。そうか、もしものときはニョロニョロやマイキーを並べることにしよう。それにしても隣の席は女性1人・男性2人連れで、男性の1人がかなり長いあいだ席を外していたんだけどどういう意図があったんだろうか、とか。

フランス帰りのY.A.氏は、基本的に謙虚でありながらスタイリッシュなポーズを忘れない。「僕ももう少し馬鹿に生まれてくればよかったよ」だって、彼なりのジョークだと思ってつい笑ってしまったけど、ひょっとしたらいつでも頭の中でプロットを組み立ててしまう彼の自戒の言葉だったのかも知れない。
 ところで帰り道の交差点で横断歩行旗を発見しました。こんなものを使ったのは小学生以来じゃないだろうか。さすが銀座だ。

9月30日 Walking In The Rhythm

Evianのペットボトルを買うと「オリジナルナチュラルストーン」がついてくるのはご存じでしょうか。一種のお守りですね。たまたま手に取ったのが「アメジスト」。裏を読むと「隠れた魅力を引き出し開花」させて「異性を引き寄せる石」です、とある。!!って中を開けたらからっぽだった。ショック。

追記:販促グッズぐらいでがたがた言うつもりはなかったんだけど、問い合わせ番号があったのでおそるおそる電話してみたところ「速達でお送りします」とのこと。いえいえ普通便で結構です。みなさんEvianはいい会社だ。Evianをどんどん飲もう。

さらに追記:Evianにグッズを卸していたのは小田急百貨店だったらしく、そちらから速達で送ってくださった。みなさん小田急百貨店はいい会社だ。小田急百貨店でどんどん買い物をしよう。そして僕はアメジストの力で隠れた魅力を開花して異性を引き寄せる予定。

「80s POPSICLE」の準備が全く出来てません。やめにできることはやめにして、最低限やらなきゃいけないことを考える。大雑把な流れの決定、サンプラーの使い方をマスターしてネタ仕込み、CDJプレイヤーを借りてきてコソ練。これをあと5日でこなさなくちゃいけない。
 夢を見ました。どこかの地方都市のロフトに合宿してメディアアートのセミナーを受けるの。ノルマは一切ないんだけど、周りの人達は少しづつ作品を形にしている。漠然とした焦りに息苦しくなる。やっぱり僕も何か作りたいし、社会の片隅でほんの僅かでも誰かの役に立っている実感が欲しい。切実に。80s POPSICLEはお遊びだけど、それでもやるからには来てくれたみんなにリラックスして欲しいし、楽しんでもらえるとよいと思う。

9月はたくさんの、実に馬鹿馬鹿しいトラブルに追われていました。日記に書いてないこともいっぱいある。知られて困ることじゃないけど読んでもつまんないでしょう。楽しいことだけ知りたいね。自分のリズムで歩きたい。