DIARY 2002年10月


10月3日 虚実99:1

電車の車内広告を眺めていて目に止まった一枚。パール歯科医院。「千葉」で「パール」で「歯科医」ときたらやっぱりと関係があるのでしょうか (憶測) 。託児設備完備、日曜日・平日夜間も診察、院内はバリアフリーでどなたにも安心してご利用頂けるそうです。お近くの方はどうぞ。
 子供の頃から歯医者さんが嫌いだった。ドリルをもって口の中を引っ掻き回すんだからな。怖いに決まっているだろう。うんと小さい頃、歯医者さんに連れていってもらう途中に車のタイヤがパンクして、診察時間に間に合わなかったことがあります。なんと嬉しかったことよ。あの時に人生のLuckを使い切ってしまったのかも知れない。もちろん後日改めて診察に行くことになったのですが。

10月4日 Kのトランク、あの歌を連れていこう

鈴木慶一氏と僕。合成じゃないよ。ちょっとだけ立ち話をした。オフステージの慶一さんは穏やかで、なんというか「わきまえてる」方でした。
 僕のロック人生はこの人から始まっていると言ってよい。10代の頃、彼のインタビュー記事を見つけては話に出てくるミュージシャンの名前をメモして、レコード屋や図書館を探し回りました。その本人の口から「Brian Wilsonが...」とか「David Byrneが...」なんて単語が出てくるだけで感激。それ以前に、僕の思春期以降の人格形成は多分にこのおじさんに負っていて、うまく言えないけれど自分のルーツに出会ってしまった不思議な感じがした。後から震えが来た。本当に。

もう少し心に余裕があれば、そのあご髭について聞いてみたかったのですが。

10月6日 Thank You For The Music

DJイベント80s POPSICLE無事終了しました。たくさんの方に来て頂いて本当に嬉しかった。「ABBAはかけないのか」とさんざん話しかけてくる外人さんがいらしたので、ABBAの曲名を借りてまとめて御礼申し上げます。つたないイベントだったとは思いますが、皆さんが最後まで笑顔でいてくれたのが何より有難かった。
 DJするのは楽しいね。不思議なことに自分の好きな曲しかかからないのです。癖になりそう。

今日の写真を撮ってくださった方、メールに添付して送ってください。専用サイトにはりつけます。ついでにセットリストも大雑把に載せておきます。厳密には違うかも知れん。本当はFrank Zappa (財津一郎風ミックス) とかそういうネタをいっぱい用意してたんだけど、反応が見えなかったのであんまり冒険はしませんでした。詳しい話は後日また!

10月9日 Five Seconds Before

そろそろ鬱日記を書いてもいいかな。今現在ヘビーな鬱なので、以前なら普通に鬱日記を書いていたのですが、個人サイトというメディアが素直で自由で無防備で無鉄砲で混沌として面白かった時代はもう終わった。もうね、こんなことをしている場合ではないのです。本当に。
 で、やっぱり書くんですが、鬱の兆候は7日の夜から頭をもたげ、8日の午後にずっしりと伸し掛かってきた。原因は2つある。1つはもちろんイベントの反動です。少なくともあの場にいた数時間は、架空の人格「山下スキル」を演じ切ったと思う。疲れ果てた。やっぱり陽の当たらない場所の方が性に合ってる。

もう1つは、仕事もせずに音楽にうつつを抜かしている自分へのお仕置きです。こんな僕でも社会の役に立ちたいと思うんだけど、現在は療養のためにやむなく社会活動を休止している。それなのに音楽イベントだなんて身分不相応だっていう引け目があって、ついつい頼まれごとをたくさん引き受けてしまった。6日以降は体が空くからって。
 確かに体は空いたけど、それは一日4錠のメジャートランキライザーと無数の安定剤と睡眠薬を必要とする体で、例えばお金を頂くだけの価値のある仕事は出来そうにない。僕に頼みごとをしている皆さん、しっかりアウトプットを出せるかどうか、もう一度考えさせてください。ここで無理をして、皆さんとの間に亀裂を残したくない。

ずっと部屋に隠っていたら食料がなくなり、猫のエサもなくなり、どうせ外出するのならと思って久しぶりにプールに行ってきました。プールの何がいいって無心になれるのがいい。
 帰り道にBook Offで広末涼子のアルバム「ARIGATO!」を100円で買った。何やってんだ僕は。知らない世代のために説明しておくと、1997年頃の彼女はアイドル歌手として圧倒的なオーラを放っていました。竹内まりやの歌詞は緩すぎて辛いけど、音のほうは聴ける。と思ったらプロデュース:藤井丈司。ドラムス:矢部浩志。ギター:小倉博和・鈴木智文ほか。ベース:渡辺等・沖山優司ほか。キーボード:斉藤有太・河合大介ほか。パーカッション:浜口茂外也ほか。バックボーカル:鈴木祥子ほか。豪華な人選にMajiで失神5秒前。しっかり作ってる。しかし今では100円でも買い手がつかない。

10月12日 Stray Sheep

わおう。ずいぶんと日記を書いてなかった。ヘビーな鬱が続いてます。それでも頼まれごとはこなさないと。もう30だし。
 まずはウツボカズラさんが主催するイベントのフライヤー。最終的にモノクロ印刷でいくそうなので、珍しいカラー原画を公開しましょう。ついでにオンラインフライヤーもお手伝いすると言ってしまったような気がするけど、彼が覚えてない振りをしてくれているようなので、そっと胸にしまっておこう。

続いてマユコさんのウェブデザイン仕事。久しぶりに道に迷った。泣きそうになりながら電話をかけた。「周りに何が見えます? 」「うーん...東京タワー」とかいう不毛な会話の末、30分も遅刻して辿り着いた。申し訳ない。これは言い訳だが、麻布者にとって「一ノ橋」はあそこじゃないのです。迷い道すがら、おそらく戦前の物と思われる美しいアパートを発見。外はまだ明るいのに、マグリットの絵のように建物の周りだけ暗闇に包まれていた。今度デジカメを持ってまた行こう。
 マユコ氏の会社は、120人は入りそうなオフィスをたった10人で使っていた。ひとり数台の最新パソコン。お金を入れなくてもコーヒーが出てくる自動販売機。イタリアの映画のようなソファセット。僕が前に勤めていた会社は、ユニットバスのバスタブが物置きだった。

10月13日 Think too much (b)

仕事行脚はまだまだ続く。今度は9月24日の日記にも書いた秘密結社のパソコン仕事。相手のペースに巻き込まれないように、気づいたら職員になってないように。そんなことを考えてたら気持ちが悪くなり、打合せを延期してもらういきなりの失態。
 翌日おそるおそる伺ったら「おー来たか、そこの段ボール潰しといてくれー」だって。覇気のなさそうなバイトくんに「お疲れっす」とか言われながら段ボールを潰した。既に職員扱いのような。本題のパソコン仕事は丁重にお断りするつもりだった。彼は僕のことをエンジニア系だと思っているようだし、医者にも頼まれごとはできるだけ断われと、療養中であることを自覚しろと釘を刺されているのです。しかし敵は、勉強すればなんとか出来そうな微妙なラインで攻めて来た。Noと言えない僕。こんな風だから鬱病になるのだ。

夜になってフランス帰りのY.A.氏から突然の食事のお誘い。その時すでにモスバーガーの2個目に手をかけていたので、同じペースで飲み食いできないのが申し訳なかった。エジプト系ベルギー人シンガーのMDを貸してくれた。ワールドミュージックブームが去っても、世界のいたるところで素敵な音楽が奏でられています。こんど探して買おう。
 しかし知性派のY氏でさえ、CCCDについてのAVEXレコードの提灯記事を鵜呑みにしているのは驚いた。この問題についてはいつかまとめて書きたい。基本的に3月15日の日記に書いたことと考えは変わってないのですが。

10月15日 北の国から2002 - テレ東 -

北朝鮮に拉致された被害者5人が一時期国を果たしました。彼らが思いのほか自然な笑顔を浮かべていたのが印象的だった。しかし胸のうちでは「偉大なる金正日総書記の愛によって一時期国できた」と思っているかも知れず、安易な家族愛の物語にしてしまう報道姿勢はいかがなものか。要するに今日はライトな鬱で、ベッドにもぐってぼんやりテレビを眺めていたのです。

それにしても歴史的事件だというのに中継しないで西部劇を放送しているテレビ東京のテレビ東京っぷりには毎度驚かされます。Bob Dylanがちょい役で出演していたそうです。何やってんだボブ。

10月18日 中野のアパートまだあるぞ

ライトな鬱がずるずる続いています。なんとなくベッドに横になり、相変わらず拉致被害者のニュースを見るとはなしにぼんやりと。「蓮池さんのお兄さん」というのはなかなかいいキャラですね。政治的にここまで踏み込んでいいのかというギリギリのラインを飄々と攻めてくる。弟との会話の描写がすごくリアルで、傍目にもいい兄弟なんだろうと思う。果たして僕ら兄弟はいかがなものか。

10月19日 婦女子もきっとそうだろう

「80s POPSICLE」の打ち上げ。当日は男子率が高かったけれど、今日は当日来なかった人も含めて相当な女子率でした。しかも美人揃いで本来ならば喜ばしいシチュエーションなんだが、結構しんどかった。
 僕は中学・高校と男子校で過ごしました。男子が群がった時に発生するオーラが肌に合わなくて、本当に辛かった。しかし女子が群がると女子グルーヴが発生し、それはそれで肌に合わないことを学びました、30にして。

少なくとも女の子とケーキの関係は男子には理解し難い次元にある。そして音楽はケーキや可愛い洋服と同列にあり、ミュージシャンは異性としての興味の対象になっている。僕にとってミュージシャンは同志のイコンで、例えば畠山美由紀さんが好きだーとは言っても、彼女の私生活なんかより彼女がいま何を見て何を面白いと感じているかに興味があるわけです。
 ここでジェンダー論とかに発展してしまうとアレなので詳述は避けますが。男女がバランス良く混在して、下心とかあんまりない状態が理想。婦女子よ、仲良くしよう。

10月21日 酔いどれダンスミュージック

Moonriders Divisionの野田さん宅にお邪魔しました。彼女は東京土着ロック界のジャンヌ・ダルクと思う。宮崎アニメのヒロインのように、おじさまミュージシャンを一喝して仕事をさせるのです。
 会の主旨をよく知らなかったのですが、どうやら彼女の新居のお披露目デーだった様子。ゆかりのあるミュージシャンが続々とやってきて、朝まで飲み明かした。しかしポツンと一般人の僕が殆ど気疲れしなかったのは、ホストである野田さんの人徳に違いない。前にも書いたが、野田さん非常にファンです。

野田さん宅にはナナちゃんというちっちゃなビーグルがいる。七月に生まれたからナナちゃん。鈴木慶一・博文兄弟は大の犬好き。僕も今は猫と暮らしているけれど、実家にはいつも犬がいたので扱いは心得ているつもり。誉め方、叱り方、その微妙なタイミングが気になってしょうがない。見兼ねた慶一さんが「1日5000円で躾けてやる」なんて冗談を言う。僕なら3000円で躾けますがいかがでしょうか?
 その後ろでひたすら自己主張をするゼニガメのカメくん (名前) 。カメに感情があるとは思わなかったけど、ナナちゃんに主役の座を奪われて俺様は不愉快である、構って欲しい、という声がひしひしと伝わってきました。

BGMが途切れると、壁一面のCDラックから慶一氏が次の一枚をセレクション。完全に上機嫌の慶一氏、Bob Dylanの歌真似をしたり、Peter GabrielとBeckの新譜のストリングスの空気感が似ていることに興奮したり。そんな会話がとても普通で、みなさん正しく音楽ファンだと思った。プロとして確固たる地位を確立している今でも、僕らと同じ次元で音楽を楽しんでいることがとても素敵に見えた。
 朝が来てお開き。仮眠をとって病院へ。日記には書いてない最近の色んな出来事や症状を相談する。2年以上も同じ病院に通ってるけど、やっぱり専門家の意見は違うなあ。

10月27日 煩悩のままに

煩悩倶楽部。それは煩悩の赴くままに温泉を楽しみ、旨い酒を飲み、語り合うSmall Circle of Friendsの名称であります。今日の目的地は群馬県の四万温泉。草津や伊香保ほどメジャーではないけど、地元の方々には人気の穴場だそう。確かに観光地としての色気は全然なくて、風呂で勝負の素敵スポットでした。正しい日本の山村だった。
 正しい山村とはすなわち、意味もなく路肩におばあちゃんが佇んでいる地方のことだ。ドライブするとわかるのですが、大抵の山村ではおばあちゃんが後ろに手を組んで、家の前などに立っています。何をしているのかおばあちゃん。空を見ているのかおばあちゃん。

巨大で快適なお風呂を楽しみ、暴力的なまでに大量の夕食を平らげ、と思ったら後から松茸と炊き込みご飯と御味噌汁が出てきて焦った。後は酒を並べて宴会。Y子さんが熱心に馬の話をしているのを、ずっと熊と勘違いして聞いてた。なんかおかしいとは思ったのだ。
 翌日は赤城山まで足を伸ばし、大沼でスワンボートに乗るか止すかでやや悩む。湖には大抵スワンボートがあるけど、あれに乗って何処へ行けというのでしょうか。ロマンティックな語らいをするには手漕ぎボートの風情に遠く及ばない。しかし2シータ−なので幸せなファミリーの想い出作りにも役立ちそうにない。そのわりに1500円とか言いやがる。

桑風庵という蕎麦屋で昼食。山間なのに1時間待ちの超人気店。しかも近所で「酪農畜産フェスティバル」開催のため、酪農で畜産な感じのお客さんが大量に流れ込んでいました。長閑な店内でお店のおばちゃんだけがてんてこまい。ちなみに「てんてこ」とは里神楽などの太鼓の音のこと。てんてこに合わせて踊るのがてんてこ舞いだ。ひとつ賢くなったでしょう。たまには音楽サイトらしいことを書かねば。
 帰りの車中ではラジオの野球中継。体育会系のアッパーな感じが駄目で、聞いていると胸が苦しくなる。最初は我慢していたんだけど耐えきれず、勇気を出して止めて貰った。申し訳なさ過ぎて緊張した。