THE BEACH BOYS
DENNIS & CARL WILSON

Dennis Wilson

ボーカル、ドラムスを担当。
 1944年12月4日生まれ。Wilson兄弟の次男。Beach Boysなのにグッドルッキンで、Beach Boysなのにワイルドで、Beach Boysなのにハスキーヴォイスで、Beach Boysなのにサーフィンをした。
 少年時代は音楽活動に興味を示さなかった彼だが、ある日Brianに「サーフィンの歌つくって」とおねだりしたことから、Beach Boysの成功と悲劇への扉を開いてしまった。デビュー後は女子の人気を一身に集め、ライブでは悲鳴のような歓声を浴びて、火事でも起きたかとあたりを見回すぼけっぷり。彼がレコードの上でも大きな存在感を示すのは、Brianが一線を退いた68年頃のこと。アルバム「Friends」から作曲を始めて、70年のアルバム「SUNFLOWER」には奇跡の名曲「Forever」を提供。ドラマーとしても個性を発揮して、タイトでワイルドな演奏はBeach Boysをロックバンドにした。
 私生活ではCharles Mansonとの交流やドラッグへの依存など、清潔なBeach Boysのイメージにダーティーな影をおとした。 この辺りのエピソードは、Brianとはまた違った意味での彼の繊細さのあらわれのように思う。77年にはステージ上でMike Loveと喧嘩してバンドを除名。その後もバンドとはつかず離れずの状態が続いていたが、1983年12月28日に「無くした何かを探しに」海に入って水死した。

Sound Of Free Dennis Wilson & Rumbo 1970年12月

Captain & Tennilleのキーボーディスト、CaptainことDaryl Dragonとの共演によるソロデビューシングル。「Sound Of Free」はキャッチーなミドルテンポではじまり、サビで突然メランコリックに展開する。 C/Wの「Lady」はヨーロッパ風味なバラードで、のちにAmerican Springsがカバーした。両曲ともアルバムには未収録だが、「PACIFIC OCEAN BLUE」のボーナストラックなどで聴くことができる。

PACIFIC OCEAN BLUE

 1977年9月

ファーストソロアルバム。Brianの一時復帰で作品を発表する場をなくした時期の作品。Beach Boysのイメージとは違ったDennisのヘビーな作風、ワイルドなボーカルが楽しめる。
 スローなバラードが中心で、ソウルフルなミドルテンポの楽曲がアクセントになっている。Peter Gabrielを泥臭くした感じか。壮大な「River Song」や、ホーンが効いた「Friday Night」、パーカッションが気持ちいい穏やかな「You And I」、ファンキーな「Pacific Ocean Blue」、リフレインが印象的な「Rainbows」などなど、早い話が全曲名曲だ。演奏にもボーカルにも不安な部分がまったくない。クレジットを見てびっくりしたんだが、ピアノ・キーボード類は全部自分で演奏してるのだ。ただ、ところどころにやり過ぎ感があり、暑苦しく重苦しい。特に名曲「River Song」はオーバープロデュース気味。オープニングの大袈裟なコーラスには引いてしまう。でも彼の「ウー」の声が入ってくるだけで全て許せちゃうんだから、お得な声質の持ち主だ。

You And I 1977年10月

アルバム「PACIFIC OCEAN BLUE」からのシングルカット。

BAMBOO

 未発表

セカンドソロアルバム。ほぼ完成していたのにお蔵入りになってしまった。98年に非常に音のいいブートが出ている。また、2008年に再発された「PACIFIC OCEAN BLUE」の限定バージョンに代表曲が収録されている。
 基本的には「PACIFIC OCEAN BLUE」と同じ路線だが、もうちょっとソリッドな印象。楽曲もバラードよりミドルテンポの作品が中心になった。力強いロックンロールの「Moon Light」、ポップな「School Girl」、「River Song」路線の「Wild Situation」などなど。そんな中で幻想的なスローバラード「Baby Blue Eyes」や「Holy Evening」が光る。もう空に溶けちゃいそうだ。レコード会社はコマーシャル性に欠けると判断したらしいが、確かに「PACIFIC OCEAN BLUE」とくらべると曲のレベルが数段おちているように思う。「Baby Blue Eyes」と「Love Sorrounds Me」は、当時製作中だったBeach Boysの駄作「Light Album」に収録されて、ただでさえ不可解なアルバムをさらに不気味に演出した。名曲「Baby Blue」もあのアルバムの中では所在なし。

Carl Wilson

ボーカル、リードギター担当。
 1946年12月21日生まれ。Wilson兄弟の三男。パラノイアのBrian、素行不良のDennisというふたりのダメな兄を暖かく見守ってフォローする出来のいい弟。ギターを始めたのは12歳の頃で、デビュー当時はまだ16歳だった。バンドがBrianを中心に活動していた60年代前半から、ただひとりプレイヤーとして大きくフィーチャーされていたのが彼。70年代には、60年代ポップスから抜け出せない他のメンバーを叱咤激励してコンテンポラリーなサウンドを追求、ソウルやファンクへの興味を爆発させた。そして80年代、Beach Boysがバンドであることをやめて人まかせのコーラスグループになってからも、ただひとりギターを高らかに鳴らして演奏をリードした。
 作曲・プロデュース活動を始めたのは、やっぱりBrianが一線を退いてからのこと。初プロデュース作の「I Can Hear Music」はPete Townshendも絶賛する名演。作曲家としてはブラック風味のポップでわかりやすい作風で、日本の歌謡R&Bのような手触り。ただ、80年代後半からはMike主導の路線に押されて自作を発表する場を失ってしまった。Chicago(バンド名)のRobert Lamm、America(バンド名)のGerry Beckleyとのユニットでもレコーディングをしていたが、アルバムの発表を待たず1998年2月6日にガンのために死去。アルバムは残り2人のメンバーによって2000年に陽の目を見た。

Hold Me 1981年5月

アルバム「Carl Wilson」からの先行シングル。

Carl Wilson

 1981年5月

ファーストソロアルバム。ボロボロのBeach Boysに愛想をつかして一時脱退していた頃の作品。一般に評価低いらしいけど、日本人受けしそうな似非スウィート・ソウルがつまってて僕は好きなアルバムだ。
 もちろん全曲でギターを弾きまくっているが、ギタリストというよりボーカリストとして、ソングライターとしてのCarlの魅力に溢れている。作詞はSweet InspirationsのMyma Smith。ほとんどの曲が彼女とのデュエットで、全編にわたってソウルフルな掛け合いを楽しむことができる。A面はアップテンポで力強いポップソング集。「Keepin' The Summer Alive」を発展させたようなロックナンバーの「Hold Me」をはじめ、「What You Gonna Do About Me」などサビのリフレインが気持ちいい作品が並ぶ。そしてB面は甘いバラード集。歌いだしから耳をひく「Hurry Love」、愚直なほどオーソドックスなバラードの名曲「Heaven」が聴きもの。ただしCarlの両面性をそのままA面・B面に振り分けてみましたってアイデア、じっくり聴きこもうとすると飽きてきちゃう。軽く流してちょうどいいアルバムだ。

Heaven 1981年6月

アルバム「Carl Wilson」からのシングルカット。

LONG PROMISED ROAD 2015年

限りなくブートと思われる、Carlのソロコンサートのライブ盤。1981年のニューヨーク公演をFMラジオで放送した音源らしい。音質は悪いものの演奏のクオリティはなかなか。

Youngblood

 1983年2月

セカンドアルバム。前作が売れなかったせいか、焦りがオーバープロデュースを呼んで泥沼にはまった。結局Carlはこのアルバムのリリースと前後してBeach Boysに戻ることになる。
 1曲目の大袈裟なイントロからやってもうた感が漂うのだが、気を取りなおして2曲目で玉砕。アメリカ人でも無駄に下世話なフレーズを詰め込めば歌謡曲になるのだ。アルバムは3曲目のバラード「Givin' You Up」で持ち直したかのように見えて、B面ではさらにがっかりさせられる。楽曲のクオリティの低さ。元Doobie BrothersのJeff Baxterによる無駄だらけのプロデュース。それ以前にCarl自身の焦りを感じてしまう。カメラ量販店の店頭みたいに、いちいち目をひこう目をひこうと躍起になって全体として飽和状態を呼んでいる。一歩引いてあたりを見渡す余裕のなさが、「Youngblood」ってことなのか。

What You Do To Me 1983年5月

「Youngblood」からのシングルカット。OrleansのJohn Hallのソロプロジェクト、John Hall Bandの穏やかなカバーで、小ヒットしたらしい。

Givin' You Up 1983年7月

「Youngblood」からのセカンドシングル。

For The Love Of Harry Various Artists 1995年5月

Brianも参加したHarry NilssonへのトリビュートアルバムにBechley / Lamm / Wilsonとして参加、「Without Her」を演奏した。

Like A Brother

Beckley-Lamm-Wilson    2000年9月

晩年はバンド内でのソングライターの座をMike / Terryに奪われていたCarl。創造性発揮の場として選んだのが、旧友のRobert Lamm、Gerry Beckleyと結成したこのユニットだ。Carlの死から1年、お蔵入りしていた音源をまとめて、執念でのアルバムリリースとなった。立派な遺作ができた。
 LammとBeckleyがリードを取った楽曲は、これまでにも様々な形で発表済み。初出曲の主役は我らがCarlだ。70年代から80年代にかけて、Beach Boysの実質的な牽引役だったCarl。90年代に入ってからも、コンポーザーとしてボーカリストとして、相変わらず好調だったことがわかる。残念なのはCarlのギターがほとんど聴けないところ。全体的なサウンドメイキングもかなりお粗末だ。スネアの深みのなさにはがっくりした。時代が悪かったのか予算がなかったのか。音に対するこだわりは枯れてたのかも知れない。