THE BEACH BOYS BRUCE JOHNSTON

ボーカル、キーボードを担当。
 1942年6月27日うまれ。高校時代から音楽を始めて、当時はかのPhil Specterともバンドを組んだことがあるとかないとか。わずか17歳でプロデューサー・作曲家・キーボーディストとしての活動を開始、Terry Melcherと組んで数々のヒットレコードを制作。65年にはBeach Boysのツアーを離れたBrian Wilsonの代役探しを依頼され、適任者が見つからなかったために自ら立候補して加入した。

しかし72年には当時のマネージャーとそりが合わずに脱退、再びTerryと組んで裏方稼業に入り、Barry Mannのプロデュースや、Elton John、Roger McGuinn、Art Garfunkelなどのレコーディングに参加。意外なところでは、Pink Floyd最後の傑作「The Wall」にも彼の名前が。作曲家としてはBarry Manilowに提供した「I Write The Songs」が全米1位の大ヒットを記録、グラミー賞最優秀歌曲賞を受賞した。また、Terry Melcher、Curt Boetcher、Gary Usherらと伝説のソフトロックバンドCalifornia Musicを結成。何枚かのシングルをリリースするものの泣かず飛ばず。そこへ、迷走中のBeach Boysからバンドの建て直しを依頼されて、70年代後半から80年代にかけての一番しんどい時期にプロデューサーとして矢面に立つ。
 85年には、当時クスリでボロボロだったTerry Melcherをプロジェクトに招いて復帰させ、熱い男の友情を見せたが、そのTerryが「Getcha Back」やら「Kokomo」やら大ヒット曲を連発するに至り、当のBruceはすっかり影が薄くなってしまった。今ではかつての冴えはどこにいったか、曲作りもせずのんびり余生を送ってる。

Surfer's Pajama Party

 1963年6月

UCLAのクラブで行われた屋外パーティを実況録音したもの。庭にはジンとグレープジュースで一杯になった浴槽が並んでいたそうで、当時のスノッブで浮かれた若者文化が目に浮かぶ。
 いわゆるサーフィンもののナンバーが中心だが、トロピカルなラテン風味からワイルドなR&Bまで、酔っ払い相手にここまでしなくてもというくらいバラエティ豊かな演奏だ。どの曲にも丸いホーンの音色や洒落たブラシが効いていて、ほんのりと柔らかく豊潤な手触り、ジャズの素養さえ感じさせる。サーフロックにつきものの素人臭さは全くない。その中で、少年声でシャウトするBruceの瑞々しさが映え、なんとも青くて痛くて胸キュンな気持ちにさせてくれる。バラードの「Gee, But I'm Lonesome」には、いずれ花開くメロディメイカーとしての確かな萌芽が伺える。

SURFIN' 'ROUND THE WORLD

 1963年8月

初のスタジオアルバム。楽しい女性コーラスや分厚いサックスに包まれた、フレンドリーなポップスだ。
 ギターのトレモロがうなる典型的なサーフインストはもちろん、ボサノバやラテンのリズムまでも巧みに取り入れていて、アイデアの豊かさを伺わせる。Hal Blaneを中心にいわゆるWrecking Crewがバックをつとめているので、演奏もグルーヴィーで安心。時おり聴かれるエキセントリックなギターも、バンドの包容力で違和感なくまとめてしまった。
 Bruceはロック以前のポピュラー音楽への造詣が基本にあって、その上に新しいサウンドをひと降りするタイプのミュージシャンだ。甘い声とトロピカルなムードに救われてフレッシュな空気を振りまいているけれど、実は老成しているような気がする。良くも悪くも。「Surfer's Pajama Party」と比べちゃうと、角がとれて迫力が足りない。

GOING PUBLIC

 1977年5月

Barry Manilowに提供した「I Write The Songs」の大ヒットを受けて制作されたソロアルバム。メロディメイカーとしての資質を前面に出した作りだ。
 曲はほとんど提供曲のセルフカバーで、選曲も演奏も当時の彼の持ちネタをとことん聴かせるラインナップ。ピアノの弾き語りに始まり、77年テイスト丸出しの4つ打ちポップスやヨーロッパの風味のバラード、カントリーを思わせる穏やかなナンバーを経て、最後はディスコで終わる。はっきり言ってまとまりがない。
 初期のように力強いボーカルは影をひそめ、自分の声質の魅力が最大限に生きる範疇から踏み出そうとしない。どの曲にもボーカルが左右に揺れるミックスが施されていて、幻想的っていえば幻想的だがヘッドフォンで聴きたくない。ついでにフランジャーまでかけているので、甘いポップスもどこか金属的な質感になってしまった。肉体的なグルーヴや色気を否定して、あくまで淡白に仕上げるのがこの時代のやり方なのかも知れない。デレデレと糖分過剰な割には、ポップスとしての可愛さや緊張感、甘酸っぱさに欠けるアルバムだ。

THE BEST OF BRUCE & TERRY

Bruce & Terry    1998年

Beach Boys加入前、Terry Melcherと組んで活動していた頃の作品集。ちょっとヨーロッパの香りのするサーフィン〜ソフトロックといったところ。ただ、ソフトロックらしい子供のような楽しさはほとんどなくて、やっぱりどこか熟れて職人芸的な印象。山下達郎や大滝詠一を思い出してしまう。BruceもTerryも器用すぎるが故に、ユニットとしてのカラーが見えてこないのが残念だ。
 Terryの太いファルセットはBrianとはまた違った魅力を振りまいていて、Bruceの少年声との相性もばっちり、深みはないものの分厚いコーラスが楽しめる。Bruceのメロディはますます力強くなり、印象的で覚えやすくなっている。特に聴きものなのは、ハープシコードが印象的な可愛いバラード「Thank You Baby」や、「A面で恋をして」の元ネタとして有名なBuddy Hollyのカバー「Every Day」などなど。

この時代の音源は、かつて「RARE MASTERS」というCDにまとめられていたが、版権の関係で現在は入手困難。このCDには、珍しい変名名義の作品や2人のプロデュース作品がたくさん収められていた。それなりに佳曲揃いだったけど飛び抜けた1曲はない。ラウンジっぽいブルースのインスト「Makaha At Midnight」は好きだった。

TOUGH THEMES
THE DEL-FI / DONNA YEARS OF

 1998年

Bruce & Terry結成前、再初期のBruceの活動を伝えるコンピレーションだ。2枚組になっていて、1枚目はデビューアルバム「Surfer's Pajama Party」を中心にした選曲、2枚目はプロデュース作品や未発表バージョンを収録。この頃のBruceは評価が低いけど、ソウルフルでワイルドで僕は大好き。少なくとも同時期のBeach Boysより遥かにクオリティの高いレコードを作っていたことがわかる。
 手管が3つくらいしかなかった当時のBeach Boysと比べ、裏方出身のBruceはこの頃からバラエティに富んだ演奏を聴かせてくれる。R&Bからフレンチからジャズに至るまで、どの曲にもしっかりと個性がある。特に2枚目あたまに収録されたジャジーでグルーヴィーなピアノのインスト「Untitled Instrumental」がかっこいい。ただ歌ものはオールディーズ臭くて、さすがにコーラスはBeach Boysの方がずっと洗練されていたようだ。

California Music & Disney Girls

Various Artists   2000年7月

Beach Boysを一時脱退していた時期の作品集。旧友Terry Melcherと共に設立したEquinox Labelの音源を集めたコンピレーションアルバムだ。どの曲にもBruceの才気溢れるプロデュースワークが光っているが、なんといってもCalifornia Music名義の作品がオフィシャルに手に入ってしまうのが嬉しい。
 California Musicは、Bruce & Terryのコンビを軸に、Milleniumの中心メンバーだったCurt BoetcherやGary Usher達と結成したユニット。ソフトロックファンなら狂喜しそうな豪華メンバーだが、何枚かシングルを出しても実にならず、結局1枚のアルバムも残すことなくそれぞれの活動に散っていった。最高なのは「Don't Worry Baby」のカバーバージョン。サビのメロディをすっかり書き換えて、コーラスの掛け合いも楽しい歯切れのいい仕上がりだ。セルフカバーの「Disney Girl」は、噛み締めるような、自分に言いきかせるような弾き語りで、こんな感じもいいかな。
 Bruceは76年頃にユニットを脱退するが、残りのメンバーはCurt Boetcherを中心にさらに数枚のシングルをリリースしている。彼らの全貌はかつて「THE COMPLETE COLLECTION」というCDにまとめられていたが、このアルバムも現在は入手困難。Bruce脱退後の作品はポップスからディスコへの橋渡し的なサウンド、無機的で湿気がなくて面白くない。お薦めはしない。