THE BEACH BOYS 1976-1980

ヒットには恵まれなかったもののライブバンドとして充実した活動を繰り広げていたBeach Boys、なんの因果か往年の作品を集めたベストアルバムがリバイバルヒットしてしまったおかげで、完全に方向性を見失ったのがこの時代だ。ヒットにあやかって栄光よもう一度、そのためにはBrianの名前が不可欠と、ベッドに横たわるBrian Wilsonを無理矢理ひっぱりだしてプロデューサーに仕立て上げたのだ。この人事について、Beach Boysのメンバーを非難する声が中山康樹を中心に聞こえてくる。メンバーはBrianの病気を理解しようとせず、復帰工作に執着したと。でも僕はこの声には賛同できない。なぜなら、この時期からメンバーがソロ活動に精を出し始めたから。創造性のピークにあった彼らにとって、BrianのいないBeach Boysは貴重な作品発表の場だったのだ。周囲の思惑に翻弄されながら、いろいろ葛藤があったものと想像する。

たったひとりでコンソールボックスの前に座らされたBrianのサウンドは、メンバー全員の力を結集した70年代前半の作品に勝るものではなかった。そして、ほかのメンバーのバンドに対する興味も失われてしまった。その隙間を襲ったのがDennisの海難事故。演奏の核となるべきドラマーの死によって、バンドとしてのBeach Boysは終わりを告げる。

Child Of Winter 1974年12月

アルバム未収録の駄作シングル。1998年の編集盤「Ultimate Christmas」に収録。

Rock And Roll Music 1976年5月

アルバム「15 Big Ones」の先行シングル。ミックス違い。

15 Big Ones

 1976年7月

Beach Boysの次なる悲劇の始まりとも言えるアルバム。Brianをベットの中から引っぱり出して、往年の栄光を取り戻そうと躍起になって作られたのがこれだ。オリジナル曲よりカバーの方が多い構成、すっかり潰れてしまったBrianの声。「Brian Is Back」キャンペーンに胸踊らせたファンの失望も大きかったようで、Beach Boysのディスコグラフィーの中でも特に人気のない1枚。でも実際、聴くところがない訳でもない。

キュートなサウンドとユニークな構成を持った「Had To Phone Ya」は次のアルバム「Love You」の胎動を感じさせるし、カントリータッチの長閑なナンバー「Back Home」は、1999年のBrianのワールドツアーにもフィーチャーされた。ユーモラスな「That's Same Song」を聴くと、Brianは自分のしゃがれ声をむしろ楽しんでいるように思える。Alの爽快な「Susie Cincinnati」は、使い回しだがアルバムの中にすっきり収まっている。意外な聴きものはMikeの穏やかなバラード「Everyone's In Love With You」で、フルートを使ったアレンジも楽しい。
 ただし駄目な曲はほんとに駄目で、要は集中力が持たなかったようだ。派手なプロモーションのおかげで全米6位を獲得したChuck Berryのカバー「Rock And Roll Music」はもったりして、宿敵Beatlesの素晴らしい演奏と比べちゃうと謝って逃げるしかない。

It's OK 1976年8月

アルバム「15 Big Ones」からのシングルカット。

Susie Cincinnati 1976年11月

アルバム「15 Big Ones」からのシングルカット。

LOVE YOU

 1977年4月

Brian自身のフェイバリットアルバムとして、巷の評価も高い1枚。でもこれは「Pet Sounds」や「SUNFLOWER」みたいに誰にでも自信を持って薦められる作品じゃない。久しぶりにスタジオに入ったBrianは、シンセサイザーという新しい楽器が珍しくて楽しくてしかたなかった!と、早い話がそれだけのアルバムだ。無邪気な悪戯心がプロとしてのバランス感覚を隠して、いびつでキッチュな演奏を聴かせてくれる。「お仕事」ではありえない絶対無二の空気がここにはある。完璧なハーモニーなんかなくてもいっか、楽しいからと思える人にとっては、このアルバムは最高の贈り物だ。

A面はアナログシンセによる派手なロックンロール集。バスドラがなかったりベースの音が異常に高かったりで、ロックに求められる「芯」というものを端から否定したアヴァンギャルドな演奏だ。
 さらに素晴らしいのはB面のバラード集。バラードといっても「Pet Sounds」みたいに張り詰めた気品、近寄り難いオーラを放つ作品とは対極にあるリラックスした演奏だ。70年代のBrianを凝縮したような傑作メロディの数々を、キュートなサウンドと飾らない歌声で聴くことができる。穏やかでドリーミーで摩訶不思議でちょっと切ない、21世紀のメリーゴーラウンドミュージックだ。

Honkin' Down The Highway 1977年5月

アルバム「LOVE YOU」からのシングルカット。

Peggy Sue 1978年8月

アルバム「M.I.U. ALBUM」の先行シングル。

M.I.U. ALBUM

 1978年9月

「Love You」が商業的に失敗した後、ストリングスを使った「Adult Child」、クリスマスもの「Merry Christmas From The Beach Boys」という2枚のアルバムを制作したものの、どっちもレコード会社から却下をくらってBrianは再びベッドの中に。「MIU ALBUM」は、Alが中心になって「Merry Christmas...」をなんとか世に出せるクオリティに録りなおしたものだ。
 「Love You」のような実験的な試みは完全に消え去り、このアルバムはいかにもAlらしい爽やかで癖のないサウンドに仕上がっている。そのせいかオールドファンにはなかなか評判がよろしい。ドゥワップ風のカバーソング「Come Go With Me」なんかもう、Alの本領って感じだ。ほかの曲は可もなく不可もなく、リズムもぺたっとしてるしメリハリがない。悪いとは思わないが敢えて聴きたいとも思わないアルバムだ。

Here Comes The Night 1979年2月

アルバム「Light Album」の先行シングル。12インチ。

Light Album

 1979年3月

このアルバムも人気のない1枚。なぜならビジュアルセンスのないBeach Boysの中でも際立ってジャケットがかっこ悪いから。オールドファンの嫌いなディスコが入っているから。そして中山康樹の嫌いなMike Loveが、よりによって怪しい日本語で歌っているから。
 ジャケットがかっこ悪いのはまあ置いといて、Curt Boetcherによるディスコ・ミックスはまずまずの出来で、今聴いてもそれほど恥ずかしくない。Mikeの日本語曲「Sumahama」だって、西洋人の考えるワビサビ・ソングなんて大体こんなもの、そんな悪い出来じゃない。日本人はこういうの、もっと素直に楽しんでいいんじゃないの。Martin Dennyや細野晴臣が取り上げたハワイの名曲「Sayonara」を思い出した。

実はほかの曲も単品で聴くとそんなに悪くない。J.S Bachの名曲を展開したAlの「Lady Lynda」、出航の仄かな期待と不安を感じさせるCarlの「Full Sail」、気品に溢れたDennisのバラード「Baby Blue」などなど。ただ、どれもアルバムの中での「影」を担当するべき曲ばかりなので、アルバム全体になんとも立体感がない。そこへ11分にも及ぶディスコがどかんと収まって、バランスを崩してしまった。
 難産を極めたレコーディングはプロデューサーを二転三転させて、けっきょく脱退していたBruceを呼び戻してなんとか形にまとめあげられた。そういう意味では「Let It Be」の集中力のなさと同じ空気を放っているような気もする。メンバーのバンドに対する関心のなさを投影した作品だ。

Good Timin' 1979年4月

アルバム「Light Album」からのシングルカット。

Lady Lynda 1979年8月

アルバム「Light Album」からのシングルカット。ミックス違い。イギリスでそれなりにヒットした。

It's A Beautyful Day 1979年10月

サントラ「Americathon」からのシングルカット。ミックス違い。オリジナルアルバム未収録。Al作の快活で爽やかなナンバー。ちょっとワンパターンかな。

Goin'On 1980年3月

アルバム「KEEPIN' THE SUMMER ALIVE」の先行シングル。

KEEPIN' THE SUMMER ALIVE

 1980年3月

「ロックバンドとしてのBeach Boys」の結末。このアルバムを発表した3年後にDennis Wilsonが海難事故で死亡したため、これがオリジナルメンバーによる最後のアルバムとなってしまった。ただ肝心のDennisはMikeと喧嘩中でほとんど参加していない。
 ジャケットはますますかっこ悪いのだが、このお寒いイラストがアルバムを端的に自虐的に象徴している。寒空の下カプセルに閉じこもって幻想のサンサンサマーを演じる空しさ。そんな中でBrianの「Oh Darlin'」は黒っぽいコーラスが気持ちいい。そしてBruceの荘厳なバラード「Endless Harmony」。この曲はBruceがバンドを離れていた時期に書いたBeach Boysへのトリビュートソングで、1998年のドキュメントビデオのテーマ曲にもなった。Carlの書いたタイトル曲「Keepin' The Summer Alive」はリフがかっこいいロックナンバー。

Livin' With A Heatache 1980年5月

アルバム「KEEPIN' THE SUMMER ALIVE」からのシングルカット。

LIVE AT KNEBWORTH

 2002年10月

2002年に入って突然発売された、1980年のライブアルバム。BrianとDennisが参加していること以外にリリースする理由が見つからない。おそらくレアコレクションアルバム「Endless Harmony」に収録されていた、この時代の「Darlin'」の演奏が評判だったためと思われる。
 殆どサポートメンバーに頼った演奏はやたらテンポが早く、その割にはリズムがよれよれ。Dennisが歌うBilly Prestonのカバー「You Are So Beutiful」は、声が全然出てなくて悲愴感さえ漂う。ただCarlは頑張っていて、「Darlin'」のラストのシャウトが妙にかっこいい。当時の新曲「Keepin' The Summer Alive」も聴きもの。

The Beach Boys Medley 1981年7月

この頃流行っていたヒット曲のメドレーレコード。

Come Go With Me 1981年11月

アルバム「M.I.U. ALBUM」収録曲。ベストアルバム「Ten Years Of Harmny」の先行シングル。小ヒットを記録。