THE BEACH BOYS 1962-1964

昔々あるところに3人の兄弟が住んでいた。長男はBrian、次男はDennis、三男はCarlと言った。お父さんのMurry Wilsonは自称天才作曲家、でも誰もわかってくれない。今夜も飲んだくれ、Brianを風呂に沈めて八つ当たり。ぶくぶくぶく、みんな世間が悪いんや。可哀想に、Brianは水恐怖症になってしまった。海水浴なんてもってのほか、サーフィンなんぞする奴の気が知れない。
 Brianの心の支えは音楽だった。恐怖から逃れるようにピアノに熱中し、弾き疲れて眠るまで鍵盤を叩き続けた。音楽を介してだけ、父親と親しく交わることができたのだ。やがて彼の関心は、ジャズボーカルのハーモニーと、生まれたばかりのロックンロールへと移っていった。最初に買ってもらったアルバムはFour Freshmenの「FOUR FRESHMEN and 5 trombones」、最初に鳥肌が立ったレコードはThe Ronettesの「By My Baby」。Wilson兄弟を中心とするバンド「Pendletons」は仲間に大受け、Murryの口効きもあってついにはインディーズデビューすることになった。

なんとかレコーディングを終え、家に届けられたサンプル盤を見て一同唖然。クレジットが「Pendletons」じゃなくて、「The Beach Boys」なんて名前になっているのだ。早速レコード会社に抗議するも、もうジャケ刷っちゃったんですよねーとのつれないお返事。せっかくのデビューのチャンスを逃すまいと、すごすご引き下がることにした。このなんの屈託もないバンド名が、生涯彼らを苦しめることになるとは知らず。
 やがてメジャーのキャピタルレコードに引き抜かれ、Chuck Berryのパロディ「Surfin U.S.A.」でブレークを果たして、西海岸を代表するアイドルバンドになった。サードアルバム「Surfer Girl」からは、当時としては画期的なセルフプロデュースを実現、画期的にハイクオリティなポップソングを量産した。

Surfin' 1961年11月

インディーズデビューシングル。未聴。

Surin' Safari 1962年4月

メジャーデビューシングル。アルバムとはテイクが違うらしい。未聴。

surfin' safari

 1962年10月

メジャーデビューを機にバンド名を元に戻せばよかったように思うんだが、当時はロックンロールがここまで肥大化するとも、このバンドを50年も引きずるとも思わなかったんだろう。Carl Wilson16歳。最年長のMike Loveでさえ弱冠21歳。早すぎるデビューアルバムがこれ。
 ボーカルは不安定だしリズムもよれよれで、大丈夫かと心配になるほど危なっかしいが、とらえようによってはBeach Boys好きの高校生バンドみたいで、別物として聴けば楽しいアルバム。軽いオルガンの音もキャッチーだし、ガレージっぽいと言えないこともない。超初期のデモセッションの音源も収録されていたりして、演奏のクオリティにはかなりむらがある。「Cockoo Clock」のコーラスや、ヘビーなインスト「Moon Dawg」のグルーヴ感に、これからの著しい成長の芽が微かに見て取れる。

Ten Liitle Indians 1962年11月

アルバム「surfin' safari」からのシングルカット。

Surfin'USA 1963年5月

アルバム「SURFIN' U S A」の先行シングル。

SURFIN' U S A

 1963年5月

いまだに日本では彼らの代表曲とされている「Surfin' USA」を含むセカンドアルバム。多くのレコード屋で面出しされてるのがこれだが、彼らの初期のアルバムの中では最も聴くに値しない作品のひとつ。

デビューアルバムとくらべて演奏は格段に進歩しているものの、Beach Boysに期待するレベルには遠く及ばないし、前作みたいな「若気の至り」感が希薄なだけに、別物として聴くにはかなりのイマジネーションが必要だ。当時のサーフィンバンドの慣わしに従って、インスト曲が多いのも半端な印象を与える要因のひとつ。ボーカルなしでバンド演奏だけで勝負するにはまだまだ。
 代表曲の「Surfin' USA」は、この時点では明らかに突出したナンバー。Chuck Berryの「Sweet Little Sixteen」の大胆なカバーで、ちょっと懐かしいメロディに斬新なアレンジを施すアイデアは、サンプリング的な面白さがあったのかもしれない。それから50年近くたった今となってはどっちもオールディーズなんだけれども。
 それにしても、Mikeはサックスを吹かなければよかったと思う。

Surfer Girl 1963年7月

アルバム「SURFER GIRL」の先行シングル。カップリングは「Little Deuce Coupe」のミックス違い。

SURFER GIRL

 1963年9月

当時としては画期的なセルフプロデュースアルバム。2枚の助走を経て、ようやくここからお馴染みのBeach Boysサウンドが始まる。

セッションミュージシャンを多用した演奏は、以前と比べるのが申し訳ないほどしっかりしている。ハープやストリングスを使うなど、どの曲にもキャッチーなアイデアが施されていて、インストだけで充分楽しめるクオリティ。特にBrianのピアノが炸裂する「Boogie Woodie」は、Ben Foldsを思わせるグルーヴィーな演奏になった。コーラスも別人のように安定して、特にリードシンガーのMikeの声に張りと輝きが出てきた。Brianも「Surfer's Rule」で力強いファルセットを聴かせてくれる。バラードが4曲も収められているのも大きな特徴。この頃のBrianは3連バラードを大量生産していて、Beach Boysならではの影や儚さといった側面がこのアルバムで初めて前面に出てきた。
 このアルバムからステレオミックスになった。音の分離が極端なのはご愛嬌。

LITTLE DEUCE COUPE

 1963年10月

「Surger Girl」からわずか1ヶ月後にリリースされた、車をテーマにした楽曲を集めたアルバム。キャピタルレコードが車をテーマにしたオムニバス「Shut Down」を勝手にコンパイルしたことに反発してこのアルバムを作ったと言われている。ミュージシャンに無断でオムニバスを作るなんてよくある話だと思うんだけど彼らの怒りは相当だったようで、この次のアルバムには「Shut Down Vol.2」なんてタイトルをつけてしまった。彼らの方も大人げない。

収録曲のうち4曲はまるまる使い回しで残りが新録。新曲はどれもRighteous Brothersに似たブルーアイドなソウルを感じさせる演奏だ。コーラスの力強さやアイデアに一瞬耳を奪われるけれど、よく聴くと単調で構成が練れていない曲が多い。「Cherry Cherry Coupe」がそのいい(悪い)例だ。逆にアカペラの「A Young Man Is Gone」を聴くと、当時の彼らは身ひとつでこれくらいの音が作り出せたことがわかる。要は、準備期間もなく持ち合わせの基礎体力だけでねじ伏せてしまったアルバムなんだと思う。

Be True Your School 1963年10月

アルバム「LITTLE DEUCE COUPE」からのシングルカット。チアガールの歓声を入れた楽しい仕上がり。

Liitle Saint Nick 1963年12月

クリスマスシングル。翌年の「CHRISTMAS ALBUM」収録バージョンより鈴の音が大きくてクリスマしい。

Fun Fun Fun 1964年2月

アルバム「SHUT DOWN VOLUME 2」の先行シングル。少し長いらしい。

SHUT DOWN VOLUME 2

 1964年3月

名曲・名演が入ったお薦めポップアルバム。といいたいところだが、屈指の名曲と屈指の駄作が混在していてまとまりのない作品だ。特にアルバム後半のダレ具合が辛い。

アルバム「Surfer Girl」でついに覚醒したBeach Boys、この作品では特にコーラスの面で大きな飛躍を見せている。「Fun Fun Fun」の楽しい掛け合い、「Don't Worry Baby」や「The Warmth Of The Sun」での分厚いハーモニーが聴きもの。「Why Do Fools Fall In Love」は前作での試みの成果と言えるかも。深いエコーに包まれたボーカルは、情念よりも「音像」としての快感を追求していて、コーラスのベッドと表現される彼らならではの音のテクスチャを生み出している。演奏もさらに充実して、ついにティンパニが登場した。不思議なパーカッションの使い方に「Pet Sounds」の予兆が見られるようになった。
 ただ、しょうもない曲はほんっとしょうもなくて、特に「Cassius Love Vs. Sonny Wilson」のバカバカしさには憤りさえ覚える。早い話がメンバーの雑談なんだが、どう振ってもひたすら「Mikeは鼻声」というオチに帰結する展開は、酔っ払いのギャグを素面で聴いてるようなうすら寒さだ。

I Get Around 1964年5月

アルバム「ALL SUMMER LONG」の先行シングル。初の全米No.1を記録。カップリングは「Don't Warry Baby」でこれもアルバムバージョンより少し長いらしい。

ALL SUMMER LONG

 1964年7月

Beatlesの大ブレークとそれに続くブリティッシュ・インヴェイジョンの波の中で、激動するヒットチャートに危機感を覚えたBrian。丁寧に作られたヒット曲の隙間をボツ曲で埋める今までのやりかたをやめて、初めてアルバムとしてトータルに楽しめるように作ったのがこの作品だ。極端な話、アイドル時代のBeach Boysはこれだけ持ってればオッケー。あとはベスト盤で。

初の全米No.1ヒット「I Get Around」のキャッチーなグルーヴ感とユニークな構成、「Little Honda」の唸るギターとコーラスの疾走感に興奮し、ファルセットも切ない「Hushabye」や「Wendy」に胸ときめかせる。インストの「Carl's Big Chance」は、これただのカラオケじゃねえのかって感じだけど、あと例によってくだらないお喋りも入っているんだけど、それ以外の曲はハイクオリティでバラエティ豊かでなにより楽しい。
 表面的な耳触りだけじゃなく、曲の構造にも異様な拘りが伺える。「Girls On The Beach」なんて、いったい何回転調してるんだか。この熱中ぶりが少しずつBrianの精神を蝕んでいくことになる。

When I Grow Up 1964年8月

アルバム「TODAY!」の先行シングル。

4-By The Beach Boys 1964年9月

当時のいわゆるEP盤(Maxi Singleみたいなもんです)。「Wendy」「Don't Back Down」「Little Honda」「Hushabye」を収録。

CHRISTMAS ALBUM

 1964年10月

冬の売り上げを促進すべく企画されたのか、前の年に発売されたPhil Spectorのクリスマスアルバムに影響されたのか。Beach Boys初の企画ものは、オーケストラを導入した素晴らしいクリスマスアルバムだ。A面の5曲目までがBeach Boysのオリジナルソング、A面の6曲目からB面にかけてがオーケストラをバックに歌うスタンダードナンバー。

前半のオリジナル曲は、この時期のBeach Boysにしては音が薄くて凡庸な仕上がり。「Little Saint Nick」は前年にリリースされたシングルバージョンの方が楽しい出来。「Christmas Day」だけはちょっとした佳作だ。
 素晴らしいのはオーケストラによるスタンダードナンバー。とてもアイドルバンド向けのお仕事とは思えない豊かな響きの中で、Beach Boysのコーラスが映える映える。ディズニー映画みたいな「Frosty The Snowman」、重厚なコーラスが楽しめる「We Three Kings Of Prient Are」、Brianのファルセットも崇高な「Blue Christmas」が最高。コミカルな「Santa Claus Is Comin' To Town」も楽しいんだがMikeのパートで膝くだけ、どうやら彼は体調が悪かったらしい。これをそのまま収録しちゃうあたり、彼らの苛酷なスケジュールが伺える。

CONCERT

 1964年10月

聴くに耐えないアルバム。バンドの演奏は過ぎるほどに充実しているんだが、ただ絶叫するだけの観客にうんざりされられる。彼女らは音楽とは全く無関係に、発情するとスイッチが入る仕掛けになっているらしく、じっくり聴き込みたいバラードの最中でもかまわず絶叫する。これじゃBeatlesやBrianがライブ嫌いになるのも無理はない。だって誰も音楽を聴いてくれないんだもの。当時と比べると、ロックはリスナーと一緒に育っていったことが伺える。創造に燃えるBrianがこのアニマル達とどう折り合いをつけるのか、Beach Boysの悲劇の縮図がここにある。

客席が比較的おちついているアルバム中盤はそれなりに楽しめる。レコーディングではセッションミュージシャンを多用しているので、彼ら自身は演奏力がないと思われがちだが、グルーヴ感あふれる「Let's Go Trippin'」や美しいアカペラ「Graduation Day」などは、この苛酷な環境の中では驚くほど素晴らしい演奏だ。ただこの時期のBeach Boysは、オリジナルバージョンが充分に躍動的なので、生でもここまで出来ることを確認する以外にこのアルバムの価値はない。

Dance Dance Dance 1964年10月

アルバム「TODAY!」の先行シングル。

The Man With All The Toys 1964年12月

アルバム「CHRISTMAS ALBUM」からのシングルカット。