FUJI ROCK FESTIVAL '17 7.27-31

2017年のライブレポートを書こうとしているいま、2018年の8月なのであった。体調とスケジュールの管理がなってなくて、もう次のFUJI ROCKを終えて2週間が過ぎた。さらに恐ろしいことに、2016年のレポートもこれから書くんである。義務感以外の何者でもない、Zimmermanに言わせるならば、グロテスクな旅の記録だ。

木曜日。起きた時から体調的に不安しかない。猫たちを預けてもうホームでビールを開けた。苗場に着いたらウグイスが鳴いていた。季節が違うんだな。部屋に集合して前夜祭に出かける前にもう飲んで、会場に着いた頃には苗場音頭も抽選会も終わってた。
 だみ声の女性ボーカルが轟くブルースバンドT字路sを観たけど、ほんとはその前のスペインのDoctor PratsやジャズトリオH ZETTRIOを観たかった。宿に帰った頃には疲れ果てて同行者1名飲みつぶれた。何しにきたんだよ!!

初日。雨がポツポツ降ってる。
 あがれと祈れども。White Stageに登って前夜祭で観れなかったスペイン、テラッサのDoctor Pratsを。バルセロナのManu Chaoあたりと比べてすごくポップ、世界中を踊らせてきた自信に満ちていた。三度のコーラスがきれいでぜんぶの楽器に見せ場があって、振り付けもきまってた。金曜日の朝なのにモッシュが起きる勢い。

さらにOrange Cafeに登って伊藤多喜雄さんを。民謡をポップにするのは難しい。コンテンポラリーな音楽を理解してる伊藤さんならではのアレンジ能力とステージング、仙波清彦さんもゲストに入ったバンドの演奏力が相まって、みんな踊りまくってた。終演後は一緒に写真お願いします、サインくださいって女の子が集まってた。
 タイムテーブルにないマキタスポーツを観れたのはラッキー。長渕やサザンのネタ、加山雄三さんがシモネタを歌ったらなんてとても放送できない芸に抱腹絶倒。

Field Of Heavenでかなりの雨の中、馴染みの東山食堂のお姉さんに挨拶。濃いめのハイボールを作って貰った。後ろで流れる原子心母、プログレはやっぱりバイオレンスで苦手だな。彼らの演奏が終わったら雨もあがった。
 続くサニーデイ・サービス、デビューした頃からスキルさん好きでしょって言われてたんだけど、どうも声に馴染めないでいた。再結成サニーデイは声が太くなって聴ける感じになってた。

Red Marqueeに降りてスチャダラパーを。”サマージャム ’95” 来るわー。大混雑だったのに、「オザケンは出ません」ってMCしたとたんにみんな出ていった。
 Green StageでThe XXを。男女ボーカルをあんなにうまく使うのは素敵だ。4つ打ちと幻想的な音の世界に酔った。青と白のシンプルで繊細な照明もよかった。Romy Madley Croftのギターは音色を選びぬいた丁寧なプレイで、Oliver Simのベースはまろやかだった。でもすべてをコントロールするのはJamie XXのサウンドであった。

この日のヘッドライナーはGorillaz、もっと匿名性が高くてヒップホップ色の強いユニットだと思ってた。生バンドでボーカルのエフェクトも薄くて、Damon Albarnのオルタナティブな路線を、わかりやすく示してくれた。

2日目。朝食の味噌汁がしみたー。
 Gypsy Avalonに登って、sugar meさんを結婚を前提とした鑑賞。ショートカットが好みだけどロングもいいな。緊張しながらも初めてのFUJI ROCKを楽しんでる風だった。いろんなステージを見て回ってるって話してた。軽妙なトークはラジオのレギュラーを持ったからかな。風に乗るような歌声にホクホクした。

木道亭で平賀さち枝とホームカミングス。雨は降ってるけど快適な環境。肝心のさち枝さんは、木の陰で殆ど見えなかった。弾き語りから始まって、2曲めの “江ノ島” のサビからドカンと入ったバンドは意外とタフだった。1曲終わるたびにありがとうの声も凛々しい。独特な節回しで、カバーを歌っても彼女の曲になってた。
 Heavenに登ってWestern Caravan。ロックのルーツとして確かにある、カントリーやホンキートンクやスウィングを奏でる。さらに遡れば民族音楽へ、先に進めばクラブミュージックへ、気持ちよければ踊ればいいじゃん。ボーカル曲の合間に挟まるインスト曲のフィドルの熱さに燃えた。

そのままHevenに残ってThe Golden Cups。「俺たち70なんだけどみんな楽しんでる?」って心配そう。ぜんぜん楽しい!! GSはレコードでは歌謡曲を、ライブでは好きなことを演ってたってほんとなんだな。ドラムが富岡Grico義広さんなのはちょっと狡いとしても、タイトでかっこいい演奏だった。CreamやPaul Butterfieldのカバーも披露、年を取るのは悪くないね。そして。

この年はかつてThe Flipper’s Guitarとして、劇的な解散の末にソロとして一時代を築いた、Corneliusと小沢健二さんがかぶるというずるいタイムテーブルなのだった。Corneliusは東京で何度も観れると思って、White Stageで小沢健二さんを観た。”今夜はブギー・バック” に始まって、新曲意外はみんな知ってるんで大合唱、オザケンの声はあんまり聴こえなかったけど、彼はやっぱり何かを成し遂げた人、みんなの心を動かした人だ。新曲 “フクロウの声が聞こえる” は彼の哲学の集大成みたいな曲で、直前にリリースされた “流動体について” よりもヒット性があると思った。
 ブギーバックのゲストはもちろんスチャダラパー、メンバーは森俊之さんやスカパラホーンズや一十三十一さん。入場規制のかかる中を上げて上げて王子様は去っていった。夜のステージは “天使たちのシーン” や “いちょう並木のセレナーデ” “天気読み” といったしみじみとしたセットだったみたい。カオスな会場の中で、抗鬱剤を入れたバックを紛失。渋滞と雨に魂を抜かれ、パフォーマンスにも魂を抜かれ。

伝説1 : 曽我部恵一さんが “Groove Tube” を歌ったらしい。伝説2 : サンボマスター山口隆さんが「小沢健二さんのTシャツ並んで買いたい」と言って自分の曲にブギーバックを織り込んだらしい。

この日のヘッドライナーはAphex Twin。Green Stageに着いた頃には雨は小降りになってたものの、魂を抜かれたまま心地いいダンスミュージックのビートに体を揺らしていた。ところがだんだんビートが崩壊していって、音の洪水へ!! カオス状態でも気持ちいいのはさすが。狂人といわれてるけど、録音芸術史の中で最も信頼を勝ち得てる1人。極めて知的で上品。
 この日、会場限定45曲入りカセットテープが販売されると聞いてショップに飛び込んだものの、「いまさら来たの」ってくらい一瞬で売り切れたみたい。

3日目。青空。かと思いきや雲がわき起こり、小雨交じりに。これくらいの涼しさが続くのがベスト。
 Green StageでRon Sexsmith。華やかさはないものの、いい声といい歌が響き渡った。バンドはキーボードが鍵になって、サウンドを穏やかにまとめてた。メンバーはみんなにこやか、Ronだけはいつものしかめっ面で、でもMCでお茶目さをのぞかせた。

White StageでReal Estate。すごい人気でびっくり。爽やかなサウンドと人の良さそうなメンバーは、出身は違えどTrashcan Sinatras的な人気を得てる。ギターの深いエフェクトとストラップの短さが気になった。最後はシンガロング。もっとゆったり聴きたいな。
 ふらふらしてWhiteに戻ってきてレキシ。入場規制がかかってた。稲穂を持ってる人がいっぱい。コールアンドレスポンスが難しい曲にみんなついてきてることに感激してる風だった。”キラキラ武士” や “狩りから稲作へ” ではシンガロング。「申し遅れましたThundercatです」って “Drunk” のジャケのモノマネをして、「5年前に出演交渉してコミカル過ぎるって断られたの!!」ってセルフ突っ込み。かっこいいバンドはいくらでもいる。面白いバンドもいくらでもいる。でもかっこよくて面白いバンドは極めてレア。

そのままWhiteに残ってBonobo。Redで観たかった気もするな。ポストロックはリズム隊がしっかりしていれば様になるものだ。ギターやサックスの生音、Szjedeneのボーカルが、ハウス寄りのサウンドの中で存在感を示していた。
 いろいろ見て回るつもりがどこも入場規制がかかって、Asgeirを見逃したのは痛い。HeavenでThundercat。その前のファンクバンドTrombone Shorty & Orleans Avenueがすごいだみ声で、あの発声で音楽人生何年持つのか心配になった。そういえば若い頃のMick Jaggerが、「40になっても “Satisfaction” 歌うくらいなら死んだほうがマシだ」って言ってたな、なんて思ってたら、Trombone...が “Satisfaction” 歌いだしてびっくりした。

Thundercatはアルバムで聴く美しいメロディの後に変拍子のアドリブが入って、トリオ編成であんなサウンドを作りあげることにびっくり。その音で踊ってる子供たちにもびっくり。僕にはリズムが取れなかったよ。エフェクトをかけたベースのプレイに感服。というかベースを聴かせるセットだったように思う。
 裏のBjorkは花火をあげて凄かったらしいけど、Thundercatで締めてよかった。同行者が酔いつぶれてもう大変、そのぶん東山食堂のお姉さんといっぱいお喋りできた。別の同行者が帰ってきたのは翌朝であった。「俺は帰れる、俺は帰れる」って自己暗示かけてた。みんな疲れ果ててシャトルバスの行列に並んだ。蕎麦と天ぷらプリプリ、猫の健康診断もばっちりで、注射も上手に受けましたと。

さっきも書いたけど例年のフレーズで締めよう。人類の末裔として、いつもハートに音楽を。