FUJI ROCK FESTIVAL '03 7.25

僕にとって3回目のFUJI ROCK。我が人生におけるサイクルのために、FUJI ROCKという存在はもはやなくてはならないものになってしまった。山の中できれいな空気と爆音を吸い込み、しばし呆然として残りの362日を生き延びるのだ。しかし今年はFUJI ROCK史上初のチケット売り切れmeans大混雑、しかも7月も末だというのに梅雨が明けていないという悪条件続き。60%の期待と40%の不安を胸に、仲間たちと新幹線に乗り込んだ。
 越後湯沢駅に降り立ったとたんに感じる涼しい風。一時間半待ちでようやくバスに乗り、流しそうめんという風習の意義や、「土産物屋 原宿」とかいうあんまりなネーミング、コーポレートアイデンティティー的に大丈夫なのか不安になるくらい大雑把にデザインされたマクドナルドなど、新興観光地らしい中途半端な風情を笑いながら苗場に向かう。宿は去年からお世話になっている某旅館。決してきれいではないのだが、おばちゃんの愛想がよく、こちらの無理な要求を嫌な顔せずに飲んでくれるところが気に入っている。どうでもいいかこんな話。しかしFUJI ROCKにおいて、本拠地をどこに設定するかは大きな問題なのだ。

後に詳述するが、この時点において我々は雨の問題をそれほど深刻に考えていなかった。「雨をみくびるな」というキリンジの名曲は、まさにこの瞬間のためにあったのかも知れない。国道を下り、見なれたゲートが視界に飛び込んでくると僕のケイオススイッチは自動的にONに切り替わる。FUJI ROCKだー!
 まずは屋台村、Oasisに向かいFUJI ROCK名物もちぶたを仲間に薦める。ロックフェスは飯が旨い。そしてビールも旨い。日本有数の米どころでもあり、新鮮な野菜の宝庫でもあり、畜産も盛んなこの地域、何を作っても旨いに決まっている。

最初のお目当ては、山奥に広がる幻想的なステージ、Field Of HeavenでのUAのライヴ。ぬかるみ、というか沼のような山道を歩きながらステージに向かう。ところが目前になって、入場規制のアナウンス。5000人のステージが埋まってしまったようだ。ここで僕らは今年のFUJI ROCKの大きな壁を実感し、翌日からの行動について反省会の開催に至った。
 Green Stageに戻るとThe Libertinesが熱演中。Syd Barrettをハードにしたような、楽しいロンドン愉快なロンドンを体現するバンド。イントロのカウントが超長くて、妙な展開のビートポップを奏で、いきなり曲が終わる。その度に同行者達と大爆笑。シャツを脱ぎ捨ててドカンと大暴れするのかと思いきやマイナーなコードをポロンと奏でたり、要するに構成力と演出力がないのだな。

一大決心の末、往復1時間かけて宿まで戻り、濡れたシャツを着替えてきた。無理せず体調管理をした者がFUJI ROCKの勇者になれるのだ。
 続いてGreen Stageで、この日 初めてちゃんとライヴを見る。Macy Gray。ソウルミュージックの様式美を守りながら、コンテンポラリーなセンスで聴く人を問わない素晴らしいパフォーマンス。バンドメンバーにDJを加えたことが大きなプラスになっている。みんなが凍える雨を、彼女はBeautiful Rainと表現した。その途端、RainがキラキラとBeautifulなものに見えてきた。過酷な状況をも味方につけてしまう様は、状況とのセッションでもありエンターテイナーとしての真摯な姿勢だった。「Come Together」や「Sukiyaki」のフレーズを巧みに組み込むあたりも憎い。アフロヘアーは実はカツラで、とってみるとドレッドが顔を出す、というオチも。

この日の締めはUnderworld。期待してたんだがなんだかなあ。シーケンサーのアウトプットをミキサーでコントロールして、ボーカルやギターでフックをつけていく。その方法論はともかく、出音に色気が感じられなかった。パフォーマンスも映像もそつなくて、閉塞したテクノという文化の行く末を眺めているようだった。「With or Without You」や「You Can't Always Get What You Want」のフレーズを組み込んでみせても、前のMacy Grayのパフォーマンスと比べると無理があった。特筆すべき点は手を交差する妙なダンスで、3日目にSun Raが真似してみせたそうだ。
 Underworldって今じゃ日本でしか集客できないんだってね。数十年後にはテクノ界のVenturesとして大宮市民会館あたりで「Born Slippy」をやってそう。というわけでいまいち乗り切れないまま、凍えながら2日目に続く。