FUJI ROCK FESTIVAL '16 7.21-25

このレポートを書いているのは2018年8月某日の朝、徹夜で2018年、2017年のレポートを書いて、これを書けば寝られるんである。Zimmermanに言わせるならばグロテスクな...読む順番は逆かも知れないけど、この一節は2017年のレポートにも書いた。

2016年は涼しい夏であった。これを書いている2018年は酷暑、あと2年後にはこの夏に、オリンピックが来なくていいのにやってくる。越後湯沢の駅を降りてもう涼しい。シャトルバスで苗場についたらますます涼しい。前夜祭は花火の最後をちらっと眺めて、食って飲んで飲んで食って、ビニール越しに撮った映像がこれ
 世の中ではポケモンGOのリリースで大騒ぎであった。フジロッカーはその電波と電池で仲間と連絡しなきゃなんで関係ない。

初日。朝一からGreen StageでBoredoms。金属の棒をこすったり叩いたりしてパソコンにサンプリングしてドローンを作ってるのかな。そこにEYEの雄叫びが。テープコラージュやドラムスを混ぜた音の洪水がなんとも心地良い。Yoshimiのリズムも加速していって...。やがて何事もないように収束していった。
 この頃には強い日差しが。Red Marqueeの屋根が恋しい。

Redに移ってLucky Tapes。いわゆる今で言うシティポップだ。ceroフォロワーとでも呼ぶべきか。ホーンが入って爽やかな感触だけど、こういうバンド増えすぎたよね。
 そのままRedに残ってTrashcan Sinatras。結局良質ポップが好きだ。気持ちよすぎてうとうと。最近よく来日してるし、また観る機会もあるだろう。

Greenに戻ってJake Bugg。イギリス人なのにカントリーの香りがする。と思ったけど、カントリーのルーツのひとつにアイリッシュトラッドが確かにある。本人のギターが雄弁で、バックバンドは穏やかな演奏だった。キーボードはコード感を出すために時折パッドを弾くくらい。淡々として面白かった。
 Redに移ってCourtney Barnett。グラミー新人賞にノミネートされた彼女、流石に勢いがあって堂々とかっこいい。バンドも心地いい。CDで感動した以上のものがあった。さばさばした風貌から想像以上に歪んだ音が出る驚き。ロック!!

またGreenに戻ってJames Blake。圧倒された。もっと内向的なイメージを持ってたから。なんてエモーショナルな歌声だろう。トラックは殆ど生演奏。ギター、キーボード、パーカッションにトロンボーンが効いてた。ポスト・ダブステップなんてくくりに収まらない演奏に、4万人が揺れた。
 抽象的な音楽で踊っていた観客に合わせたのか、クライマックスは4つ打ちで畳み掛けてきた。レポートを2年後に書いてるから言えることだけど、彼のワンマンではそんなことはなかったから。ところで死ぬほど寒かった。あの娘と体を温めあいたいし、あの娘も僕と温めあいたいような気がするくらいには寒かった。

そのままGreenでSigur Ros。これまで観てきたライブの中でも最高の部類だった。Jonsiの歌声は地声から遥か高らかなファルセットに登りつめて果てしないロングトーンへ、ボーイング奏法のギターと見事に絡み合っていた。リズム隊は弾けまくって、幻想的で神がかっていながらトライバルな力を感じさせた。
 そして見事にシンクロした映像の美しさ。ネットと人との関係を思わせるモチーフは、ステージ上のメンバーの動きをリアルタイムにトレースして、恍惚とした光の洪水になってた。終演後もアンコールの拍手は鳴り止まず、でも出てこないのが彼らだ。呆然とした。

White StageへDisclosureを観に行こうと思ったんだけど、入場規制がかかってところ天国から川越しにゆったり聴いた。あの道、帰りは上り坂なんでしんどかったな。

2日目。11時過ぎまで寝込んでた。起きて風呂に入って支度して、Red MarqueeでThe Album Leaf。この日は強い陽射し、ビールを飲んで涼やかな音の粒の中へ。もっとエレクトロニカ的なユニットの印象だったけど、アグレッシブなリズム隊が入ったポストロックに変貌してた。ギターと抽象的な映像が印象に残った。
 World RestaurantでゆっくりしたあとGreenでTravis。いい曲ばっかりで気持ちいい。ヒゲをたくわえたFran Healy、いい顔で歌うおじちゃんだと思ったら年下だった。この日が誕生日だそうで、客席に飛び込んで担がれてた。楽曲の力だけでもステージは成立するんだな。あたり一面が多幸感に包まれた。

そのままGreenでWilco。もうね、すごいおっさん。演奏うまいしいい曲ばっかりだけど、演る側も観る側もおっさん。上手いがゆえに好き勝手が許されるバンド。と思ったら、大バラード ”Via Chicago” の途中でドラムの乱れ打ちが。これが彼らなりのオルタナティブだ。

Greenに残ってBeck。ルーツ・ミュージックもヒップホップもポストロックもオルタナティブも、ぜんぶポップスっていうフォーマットに落とし込んだ強度、エンターテイメントとしての強度に圧倒された。前に観た時はシアトリカルなステージだったけど、もう演出抜きで聴かせるミュージシャンになってた。
 曲のところどころに、”Strawberry Fields Forever” やロックの名曲を織り込む。メンバー紹介でChic “Good Times” 、David Bowie “China Girl” 、Kraftwerk “Home Computer” 、Prince “1999” を披露、それぞれのメンバーが好きな曲だろうか。音楽愛に溢れてた。楽しさでは一番。
 後日談。BeckとJason Falknerがパイドパイパーハウスに来て、店頭で細野さんの中華街ライブに見入って、“泰安洋行” と “風街ろまん” を買っていったそうだ。

終わりかと思いきやビッグバンドが登場して、ゲストボーカルを招いてGlenn Millerの楽曲を。FRF 20th SPECIAL G&G Miller Orchestraだ。Glenn Millerの曲だけやってくれればよかったかもな、企画がとっ散らかってる印象が否めなかった。曽我部恵一さんのBeatlesメドレー、中納良恵さんの “買い物ブギ” 、そこまではよかった。加藤登紀子が清志郎の “田舎へ行こう” を酷い解釈で、”Power To The People” をパワーのない声で歌う過酷なショーであった。全員で歌った “雨上がりの夜空に” とGlenn Millerの名曲の数々は素晴らしい。
 清志郎亡き後、加藤登紀子がFUJI RELOCKの女帝面をしてるのは極めて由々しき事態だ。FUJI ROCKの象徴は井上陽水さんか矢野アッコちゃんにやってほしい。

3日目はとにかく陽射しとの闘い。
 Gypsy Avalonに登ってザ・なつやすみバンド。中川理沙さんの歌声とMC.sirafuのスティールパンがとにかく涼やか。MC.sirafuはトランペットも演奏して、サポートのトロンボーンと心地いいホーン隊を組む。僕の好きな要素満載。もちろん楽曲も最高。”自転車” いい曲だ。”ハレルヤ” では手拍子も起きて、サバイバルなFUJI ROCKというより幻想の緩やかな夏のピクニックの空気がそこにあった。

Hevenに登って馴染みの東山食堂のお姉さんに「毎年来てる人や」って声かけられた。ピザも食べなきゃ。
 dCprGを観るのは10年ぶりか。ポリリズムやアドリブの要素がなくなって決め打ちの演奏。頭でっかちな印象は相変わらず。

そしてはちみつぱい。サウンドチェックからかっこいい。”こうもりが飛ぶ頃” を延々と20分、1曲だけやって帰るのもいいなと思ったけど、さすがに代表曲を一通り演奏した。サイケデリックかつ音響派以降の音で、気持ちよかった。
 楽器をとっかえひっかえ、結局ギターとキーボードは何人いたのか。”塀の上で” はもちろん慶一さんがキーボード。”タバコ路地” ではシンガロングも起きた。

Robert Glasper Experimentを観ようか迷った。っていうのはその後にBabymetalが待ち受けているからであり、ベビメタ地蔵に囲まれるってことだ。結局観た。めちゃくちゃかっこよかった。
 客入れのBGMにRobert Glasperがキーボードを重ねて、そのままショーがスタート。アルバムではゲストボーカルをたくさん招いてたけど、ライブではサックスのCasey Benjaminがボーカルを取る。楽しそうだ。Earl TravisとMark Colenburgのリズム隊は言わずもがなの安定感、それをまとめあげるコンセプトメーカーとしてのRobert Glasper。
 ベビヲタはマナー悪かった。待機中に担架で運ばれるおっさんもいた。気を悪くしてないといいけど、と思ったら、Robert Glasper自身もBebymetalを観たかったらしい。終演後バスでホテルまで連れて返されちゃって、そっちがご不満だったそうだ。

Hevenに戻ってErnest Ranglin & Friendsを観た。ジャマイカの伝説的ギタリストを中心に据えたバンド。基本にあるのはレゲエやスカなんだけど、いろんなミュージシャンが参加してダンサーも出てきて、ワールドミュージックの見本市みたいだった。横乗りで腰が動く。ちょっと降った雨もあがった。
 WhiteでExplosions In The Sky。割と期待してたインストポストロックバンド。想像を超えるものではなかった。Whiteはベビメタ地蔵がまだ陣取っていて、環境がよくなかったってこともある。打ち込みじゃなくて手弾きで演奏するスタイル、ギターを重ねた轟音のカタルシスは感じることができた。

続いてRed Hot Chili Peppers、じゃなくてその裏で苗場食堂でDJみそしるとDJごはんを観た。決して美人ではないけど愛さずにはいられない。子供番組や料理番組の需要もあるみたいで、あそこまで売れるとは思わなかったな。
 苗場食堂はギチギチで、「みんないいの? まだ間に合うよ? あのレッドホットチリペッパーズです...」って挨拶で笑わせた後、”あの素晴らしい愛をもう一度” や電気の “N.O.” までもお料理ソングにしてしまうエンターテイメントぶりを発揮した。「電気グルーヴには内緒だよ」ってここに書いちゃったよ。可愛い。可愛い。

最後はその電気グルーヴ。前半はひたすらストイックなセットリスト、ガチで踊らせにきて、”N.O.” “富士山” で締める。アンコールでは "Shangri-La" 、未知との遭遇とミックスした “虹” を。
 電気はFUJI ROCKに特別な想いがあるみたいだ。”Live At FUJI ROCK FESTIVAL” なんてDVDを出してるくらい。彼らのほかのDVDやツアータイトルからみたら、過ぎるほどにガチだろう。やばかった。

祝祭も終わって越後湯沢で恒例の蕎麦屋。飲んでキマッてたら、タイムライン上で何年も仲良くして貰ってる音楽通のお兄さんの撮った写真に僕が写り込んでた。暑すぎる時間も、雨も殆どない、涼しくて快適なFUJI ROCKであった。
 おうちに帰るまでがFUJI ROCKとは言うけど、実際用具を洗って洗濯して乾かして片付けるまでがFUJI ROCKだよな。そしてレポートを書くまでがFUJI ROCKかも知れない。僕のFUJI ROCK 2016は、2018年の8月にようやく終わった。

3年分のレポートを書き上げたぞ。人類の末裔として、いつもハートに音楽を。