FUJI ROCK FESTIVAL '06 7.28

思い返せばもう6回目のFUJI ROCK。20代後半からの僕の人生のサイクルの中に、FUJI ROCKというイベントは完全に組み込まれてしまった。森の中、太陽の下、時には雨に打たれながら爆音で音楽を浴びる行為。これがなければ普段のインドアポップスの僕は成立しない。

なんと行きの新幹線で信号トラブル発生。東京から上野へ。上野から大宮へ。一駅づつ先に進んでは様子見の停車。デッキに立たされた我々の後ろから客がつぎつぎと乗り込んでくる。確かWomadの1回目の時もイギリス国鉄のストと重なったんだよ。
 そんな訳で無理な姿勢のまま列車の接続部分にへばりつく。足元から聞こえる鉄路を叩く音が、僕らを苗場に近づけてるんだと無理矢理に気持ちを上げながら。越後湯沢駅でようやく解放、既に疲れた...。深夜バスで先に会場入りしていたメンバーから「会場はくもり」との連絡が。くもり! 微妙! 今年は梅雨が明けてなくて、雨と泥の3日間になることを予想してたんだ。ゴアテックスの雨具とトレッキングシューズを用意したからへっちゃら! と言いつつできれば降って欲しくないものだ。

宿に荷物を置き、メインステージのGreen Stageを通り過ぎる。折しも日高大将の挨拶が。これ初めて聞いた。大将のロック魂にみんな惚れてここに集まっているのだ。
 最初に見たのはWhite StageのSakerock。1万人収容のステージを眺めて「スゲースゲー」を連発。演奏はいつもの気負いのないSakerock、タムの多いドラムスが好きだ。そしてハマケンのトロンボーンがとろけるようなエキゾチックメロディを奏でて、興奮のスキャットへ。ハマケン、トロンボーン上手くならないなー。でもそこがいいの。「フジローック! ちんこ痒いかー! 俺は痒い」病院に行け! 「テポドン、テポドン、テポテポテポテポドン、怪獣が現れたー、正義の味方くるりが...Rock In Japanに行っちゃったー、こっちからはCharが...ウドーに行っちゃったー」何が言いたいんだ。鈴木慶一の「Eight Melodies」やってました。

続いてField Of Heavenに移動してSandii見る。20人くらいのフラとコーラス隊を連れて、西洋のコード感とは違う、たぶん正しくトラディショナルなハワイアンを奏でる。崇高で珍しくて面白い。内に秘めたるエネルギーみたいなものを感じた。でも曲の展開が唐突で、どこで拍手していいかわかんない。
 中盤はポップな曲をやる。毎年FUJI ROCKで見かける田村玄一が、スティールギターとスティールパンを演奏してました。売れっ子になったなあ。どんとの曲もやった。後半はパーカッションと情熱的なフラで盛り上げる。優雅だし歌うまいし、いいもんを見た。ハワイアンは深いな。

次に見るものが見つからなかったので、Heavenに残って加藤登紀子を見る。ひょっとしたら面白いかもしれないじゃん! 1曲目はイメージ通りのシャンソン。2曲目が「Power To The People」の日本語カバーで、ここから彼女の迷走が始まる。日本に輸入されたLove & Peaceの貧乏くささから抜けられない。「みんないい顔してるよ!」ってそうかなー。子供をステージに上げちゃうセンスも頂けないし、ラップでアジってる人が下手でびっくりした。ヘビーなサウンドの中で、うーん眠くなってしまった。

Gypsy Avalonに移ってTrashcan Sinatras。Avalonのアコースティックセットと翌日のOrange Courtのバンドセット、どっちを見るか迷ったんだがスケジュールの都合でアコースティックセットを見ることに。彼らも結成から20年近いのか。佇まいのかわいいおじさんになってました。アコギ2本、エレギ1本、パーカッションの編成。
 PAがよくなかったのが残念だった。ボーカルにディレイかけ過ぎだし、2本のアコギが混ざっちゃってた。でもエレキギターの泣きのフレーズやアルペジオが効いて、切ない美声、美メロを堪能した。夕方の風にとろけて気持ちいい。幸せー。ヘリコプターに手を振ったり、ハイタッチしたり、楽しそうで仲良さそうな感じが伝わってきた。

陽も暮れかけて、Orange Courtで矢野顕子。出てきたとたんにそこここから「かわいい」のため息が。かわいい51歳。「Super Folk Song」に「春咲小紅」、「ニットキャップマン」、「Prayer」まで演る。「この曲はクラムボンの新しいアルバムに入れてもらって...郁子ちゃんかわいいです」。いやあんたもかわいいぞ。「ばらの花」は今年FUJI ROCKに呼ばれなかったフジロッカーくるりのために、「ひとつだけ」は「清志郎さん聴いてるかな?」のコメントを添えて。
 「ピアノが愛した女」っていう彼女のドキュメント映画があるけれど、本当にピアノに愛され、音楽に愛されてる人だなあと思う。無駄な音は一切鳴らさない、音楽の本質だけを伝えたい、そんな意思がひしひしと伝わってきた。「Franz Ferdinand見たいから急いで帰らなきゃ」って笑いをとってたのがちょっと意外でした。

そして今年の個人的な目玉、Harry Hosono Quintet。去年はTokyo Shyness名義でフォークロックを奏でていた細野晴臣、今度はどんな手でくるのか。徳武弘文、伊賀航、浜口茂外也のトリオが奏でるジャズのリズムに乗せて、細野さんとコシミハルが軽妙なステップで登場。「さっさとやって早く帰ろう。僕は雨男だから...徳武くんも雨男で...雨の歌を用意してきちゃった」と言って歌い出す。いい声。
 「Hong Kong Blues」に、徳武弘文をフィーチャーした「Caravan」、浜口茂外也がボーカルをとった「Save The Last Dance For Me」、コシミハル「Bonne Nuit Minouche」。去年のバンドよりジャズ寄り、ラウンジ寄りの心地いい演奏が続く。中盤からは徳武弘文の本領発揮のナッシュビルスタイルで「Good Morning, Mr.Echo」や「Pom Pom 蒸気」などを演奏。終盤はお約束通り、アッコちゃんをゲストに迎えて「終わりの季節」、そして「清水ミチコのバージョンの相合傘」。2人が並んでるだけで絵になるねー。最後は手をつないで退場してました。
 アンコールは「ろっかばいまいべいびぃ」。優しいバンドの演奏がついて、この曲の本質がジャズなんだと気づかせてくれる。なんとこの時、照明の中を大きな白い鳥がゆったりと飛んでいた! 細野さんはマジシャンだな。

しばらく余韻に浸ったのち、まだやってたのかシリーズ。まずはField of Heavenで上々颱風。「愛よりも青い海」が名曲過ぎたのが彼らの悲劇かも知れんなー。沖縄出身かと思ってたらボーカルの人は山形だって。懐かしの沖縄ブームを離れて昭和歌謡バンドとしての再評価はないのだろうか。歌上手いしハモりも独特で面白いし、ドタバタのリズムが無条件に楽しい。「Cry Baby」のめちゃめちゃな訳詞やレゲエ調の「Let It Be」も盛り上がりました。
 ただクライマックスを作りすぎて後半ダレちゃった感はある。前に出て大騒ぎすれば素直に楽しめたのかも知れない。

そしてWhite Stageまで降りてきて、もう1組のまだやってたのか、Madnessを最後の数曲だけ見る。日本では二十数年前に一世を風靡したHonda CityのCM曲で有名なバンドだ。あのCMは画期的だったし、そもそもCityって車が画期的だった。それゆえ日本では「その後」が伝わってこなかった感もある。強烈なスカのビート、ショーの見せ方を知ってるなー。2度目のアンコールでCityの歌を嫌々やってました。ホンダッホンダッホンダッホンダッ。
 若い同行者はOrange Courtのオールナイトイベント、オールナイトフジへ。おじさんは疲れたから帰って寝るよ。2日目に続く。