FUJI ROCK FESTIVAL '19 7.25-26

ライブハウスとイヤホンで完結するインドアなミュージックフリークが、年に一度だけアウトドアになれる場所、FUJI ROCK。緑豊かだった頃のアフリカで生まれた音楽が、もう一度森へ帰る場所、FUJI ROCK。この5日間のために残りの360日を生きるほど思い入れのあるFUJI ROCK。今年もやってきた。
 相変わらず人間関係に悩んで、来る前は億劫だったんだ。同行の仲間とうまくやれるだろうか。そして甲信越地方はまだ梅雨が明けず、台風直撃のニュースも。結果として天候は過去最悪に過酷だったけれど、とても楽しいFUJI ROCKを過ごすことができた。

猫を動物病院に預けて、健康診断とワクチン接種と目の治療のお願いをして、一路越後湯沢へ。新幹線の中は、見るからにフジロッカーでいっぱい。テンションがあがる。僕の同行者はそれぞれ別の新幹線に乗ってる。シャトルバスがぜんぜん来なくて炎天下で2時間待った。消耗した。雨の中を待つよりはマシか。17時を過ぎたらバスの台数が目に見えて増えて、越後交通とそういう契約になってたのかも知れない。疲れ果てた体を椅子に預けると、隣にベリーショートの美少女が。彼女も疲れてたんだろう、僕にもたれかかって眠ってしまった。それで嬉しくなるくらいには俗物ですので。
 先に到着していたLさんは、いつもと変わらないテンションで接してくれた。ほっとした。今年の前夜祭に行くのは2人だけ、抗鬱剤を飲んで会場へ。

バスが着いた頃には始まってた苗場音頭は当然もう終わってた。こんなに人がたくさんいる前夜祭は初めて。会場は豪雨が降ったりやんだり。この日はこれが豪雨だと思ったけど、2日目に別格の豪雨を味わうことになる。苗場食堂でキリザイ飯を買って座ったら、目の前にすごく可愛い女の子2人組がご飯を食べてた。「憧れのFUJI ROCKに来てるよ、私たち!!」ってもうそれだけでめちゃくちゃ可愛いじゃん。
 「初めてなんですか?」「おめあては何ですか?」聞きやすい質問がいっぱいある。声をかける勇気をチャージしてる間に花火が始まっちゃって、ワーって駆け出してっちゃった。その花火はこちら。TikTokでお薦めに載ったみたい。

失意の中で、Red Marqueeへ。「FUJI ROCKに出る方のレッチリ」ことRed Hot Chilli Pipersを観に。司会者が煽る。平和と音楽について。イタリアのバンドがFUJI ROCKって曲を書いたらしい。そこでも平和と音楽が歌われてるそうだ。
 レッチリはイロモノじゃなかった。めちゃくちゃかっこよかった。バグパイプを中心にしたバンドがロックアンセムを奏でる。1曲目からAvicii。バクパイプはもちろん、ボーカルもすべての楽器もすごくうまくてそれぞれが主役で、みんなが知ってるリフが出てくるんだから俄然もりあがった。当たり前のようにもりあがった。最高のダンスバンドだ。"Smoke On The Water" をバクパイプで聴くところを想像してみて。Snow Patrolの曲名失念、ではシンガロン。

26日の朝一、レッチリと中村佳穂さんとポセイドン・石川さんが並ぶスタートは、ブッキングした時にはここまで売れるとは思わなかったシリーズと思われる。喧騒前のグリーステージを抜けて、最奥のField Of Hevenまで中村佳穂さんを観に。
 東山食堂の馴染みのお姉さんとウィース。毎年僕には濃いめのハイボールを作ってくれるんだけど、今年はもう勝手にカクテルを作ってくれて、「これ飲んでみ?」って。どれも美味かった。おかわりに行くと「早いわ、ゆっくり飲みい」って笑われた。

中村佳穂さんはサウンドチェックからヤバい雰囲気が漂ってた。演奏もヤバいしトーク面白すぎる。"悲しくてやりきれない" のファンキーなカバーがかっこよかった。
 本編スタート。FUJI ROCKに出られて嬉しい、朝一にこんなに集まってくれてありがとうって喜びの歌を即興で歌ってバンドがドカン!! 本人のボーカルとピアノを中心にしたサウンドは、ソリッドなリズムにホーンまで弾けた。サイコー!! 自由奔放であっけらかんとしたキャラクター、まろやかな歌声と笑い声。スタンダードなソウルミュージックのようでいて、なにか根本的に新しかった。でも彼女は最初からこうじゃなかったと思う。覚醒したんだ、人間的にも音楽的にも。そして数年後にもう一回超新星爆発があるだろう。

その盛りあがりはYouTubeを通じて、Twitterのトレンド4位にまであがったそうだ。3日間を堪能した佳穂さんは、全日程を終えてこんなツイートをした。
 「苗場からゆっくりゆっくり京都へ近づいてゆきます。全日いたフジロックは『人力の天国』って感じだなって思ったんだけど、天国って言葉自体も現世の人が作ったものだったな。全部自力で作れる幸せを噛み締めています。また天国への道を見つける日々へ!」

すぐ隣りのOrange Cafeでポセイドン・石川さん。本業はジャズピアニストだけど、山下達郎さんのボーカル・コーラス・サウンドを真似て、逹瑯さんが絶対に歌わない曲をカバーする芸がじわじわと人気だ。その達郎ネタを期待するリスナーと、オリジナル曲を聴かせたい本人の間に乖離があったと思う。YouTubeにあがってないネタは "なんでだろう" 達郎さんバージョン。ピアノ弾き語りでも似てる。リハーモナイズのセンスだな。笑った。
 なんでだろうな対バン清純派SSW南壽あさ子さんは、"生活の柄" や "ひこうき雲" をカバーして頑張ってたけど、石川さんの後ではなにしろキャラが薄い。

Hevenに戻ってNST & The Soul Sauce meets Kim Yulheeへ。韓国の、レゲエ系ごった煮バンドだ。演奏はレゲエだったりジャズファンクだったりするんだけど、ゲストシンガーのKim Yulheeの歌うメロディも発声もコブシも韓国民謡で、そのマッチとミスマッチが面白かった。恨み節的な歌いまわしは韓国ならではのものだろうか。細野晴臣さんがトロピカル音楽をやってた頃のような、民謡クルセイダーズのような、新しいステージだった。
 ここんとこ関係が悪化している日本と韓国、音楽では繋がってるし、会場にピースマークの旗が振られていた光景に感動した。

Red Marqueeまで降りて、なんと初出演のOriginal Love。すげえ。圧倒された。音源で大進化をしてるのは知ってたけど、ライブを観るのは四半世紀ぶり。圧倒的な声量、ギターのキレ、バンドのグルーヴ、全てが日本のレベルじゃなかった。30年のキャリアでジャズギターのレッスンを受け始めるチャレンジ精神が、見事に結実してた。そして客にも16ビートの手拍子を求める!!
 "Million Secrets of Jazz" や "月の裏で会いましょう" といった初期の名曲、大ヒット曲 "接吻" も披露しつつ、最近の曲への自信を伺わせた。若いファンがちゃんとついてるのもいい。ゲストにPunpeeを迎えて贈るグルーヴの洪水には、"接吻" がヒットした頃には生まれてなかったかも知れない層や、Toro Y Moi待ちをしてた外国人たちも立ちあがって踊り狂ってた。

終演後の田島貴男さんのツイート。「Original Love、フジロック初出演終了! いやあ夢の中にいた感じ。もう言葉にならんというか。なんて日だ! 音楽やり続けてて良かった。素晴らしいお客さんに本当に感謝しかない! そしてフジロックに感謝! YouTube見てくれた方たちもありがとう! 音楽はやっぱさいこうだ!」。

やっぱり3日間を堪能した田島貴男さんの、全日程を終えてのツイート。「フジロックから帰ってきてまだぼうっとしてるけど、やらなければならないことが押し寄せてきてる。夢の国から現実に戻ってきたみたいな。でも僕の現実に今回のフジロックは何かしらの変化を加えた気がする。ここまで来るのに長かったような気もするし、一瞬のことだったような気もする」。
 いろんなステージを満喫しながら、彼が「新潟の素敵なお嬢さん」と呼ぶNegiccoちゃんのInstagramやツイートにいいねをつけるのを忘れないロマンティストぶりにもシンパシーを感じた。

同じRed MarqueeでToro Y Moi。始まる前にうとうとしちゃって、気づいたら人がぎゅうぎゅうで編成がよく見えなかった。たぶんベースとドラムパッドが生、キーボードが2台あって1台は専属のキーボーディストが、もう1台は本人やベーシストが弾いてたと思う。
 オートチューンをかけたボーカルがクールだった。いつも生々しいジャケットと無機的な音楽性のギャップが面白い彼、変態性もありつつ透明感があって、とにかく美しいステージだった。チルな音楽かと思ってたら、みんな踊ってた。こういう楽しみ方をするんだって驚きがあった。途中ですごい雨が降ってきて、屋根のあるRedはぎゅうぎゅう。

終わって外に出てみたら小雨になってた。すごく並んでもち豚丼を食べて、White Stageへ。その途中のGreen Stageの喧騒がこちら。寒くなってきた。

TYCHO。ずっとティコと読むものだと思ってたけど、「We are タイコ」って自己紹介してた。徹底的にそぎ落とされた乾いた音を鳴らす、インストポストロックバンド。エレクトロユニットだった頃からの浮遊感は、バンド編成になっても変わらない。打ち込みに生のリズム隊を乗せて、グルーヴまでも削ぎ落としたジャストなリズムが心地良い。ギターが活躍しても熱すぎず寒すぎずのバランス感覚。白人の音楽だね。一方で、VJは液体をモチーフにしたアナログな表現だった。
 4曲に参加した女性ボーカリストも、コブシのまるでないハイトーンボイスだった。調教してないボカロみたいで、その真っ直ぐさが気持ち良かった。

Whiteに残ってThom Yorke Tomorrow’s Modern Boxes。会場は入場規制がかかってぎゅうぎゅう。僕はRadioheadの熱心なリスナーじゃないんで、彼やNigel Godrichの美意識がいまどこにあるのかわからなかった。打ち込みのビートと切ない声の力、時にギターやベースを持って、そのベースが異様に上手かった。VJは無機的な演出で、TYCHOとはまた違った丁寧に削ぎ落とされた表現を聴かせてくれた。
 後半はビートに乗れる曲もあった。ハンドクラップを求めたり、手を大きく左右に振って盛りあげたり。Thom Yorkeってこんなこともする人だったんだ。ダブルアンコール体制で、2回目のアンコールはキーボードの弾き語りでカームダウンして終わった。小雨の中、ハートフルに1日目を終了。

2日目に続く。