FUJI ROCK FESTIVAL '01 7.29

最終日はひたすら暑かった。会場内を流れる河原は大盛況で、指先が麻痺するほどに冷たい川の水に足を浸すと、むくんだ足がじわっと縮むのがわかる。ああやっぱり山、なんだよなあ。森の中を渡る風は青く、内山理名的には、マイナスイオンでほえ〜といった感じである。
 早起きしてGreen Stageを横目で眺める。Brahman。バンドブーム時代を彷佛とさせるドカドカバンド。軽くかわして山の上のField Of Heaven、キセルのステージへ。ボーカル・ギターを担当する兄と、ベースを持った弟がとぼとぼと現れる。客足もしょんぼり、本人達は緊張気味のご様子。「僕らイェーとか言われたことないんで...嬉しいです」とか情けないことを言うと客席から「頑張れー」の声。初々しくていい。
 ステージ上にはメンバーの2人だけ、曲によってはヒスノイズだらけのテープ演奏が入る。彼らにはもう少しキャッチーなイメージを持っていたものだが、イルカのような声でゆったりゆったりとした時間が流れた。凝ったコードワークが気持ちいい。疲れ果てた頭をリセットするには丁度いいパフォーマンスだった。

この日一番期待していたLittle Tempoは、急病でキャンセルになった砂原良徳の穴を埋めるためか20分押しでスタート。炎天下の待ち時間はかなり辛いものがあった。しかしステージ最前列にずらりと並ぶスティールドラムを眺めるにつけ、スティールドラム好きの僕としてはテンションも高まる。
 ようやく登場した彼ら、まずは「Norwegian Wood」のフレーズを借用した「無能の人」で緩やかにスタート。前半はポップなナンバー中心でほのぼのと進行、レゲエ風のリズム隊や切れのいいカッティングギターが曲にほどよいエッジを与える。やがて田村玄一がスティールギターに移動すると、フリーキーなインプロビゼーションへと突入する。麗しの大野由美子様にばかり目がいきがちだが、サウンドの鍵はあくまで田村玄一であった。
 PA陣もダビーなミックスでこれに応戦。カーンと抜けるスネアの音が木々の間にこだまする。生ダブはハウリングとの闘いで、かなり辛そうではあったが、野外向けのゆる気持ちいいサウンドを繰り広げた。終盤はまたポップに立ち返って盛り上がる。大はしゃぎって程でもないが、みんな心の中で喜びを噛み締めるような、そんなステージだった。

再び山奥まで遠征して、Moonridersのステージ。僕は彼らの長年のファンであり、そのいけてる時も病める時も見届けてきたわけだが、久しぶりのハレの舞台を無事こなせるのか心配だった。鈴木慶一のボーカルは大丈夫だろうか、集客はどうだろうか。本人や関係者より心配していたと思う。結果はオーライである。
 インストの「Acid Moonlight」から初期の名曲「月夜のドライヴ」へ。かしぶち哲郎のドラムの音がよく抜けて、鈴木博文の低いベースといいコンビネーションを見せる。リズム隊の音のよさは、ライダーズ史上特筆ものであった。白井良明はプラ板で作ったような中途半端なサングラスをかけ、ギターに得体の知れないアタッチメントをつけて、とんぼを捕まえたりして遊んでいる。そのぶん鈴木慶一が見事なスライドギターを見せてくれた。ギタリストとしては良明の影に隠れがちだったけど、やっぱり上手い。

だたボーカルは、歌い込んじゃうと辛い。「黒いシェパード」、彼はこの曲が大好きなようだが、今のボーカルスタイルには合ってない。今の彼の声は、むしろSE的にアジアンなコブシを効かせたほうがしっくりくると思う。最後は「夢が見れる機械が欲しい」、Neil Youngなみのインプロで盛り上げたあと、定番の「くれない埠頭」で締め。鈴木博文はこの代表作の歌詞を間違えていた。緊張してたんだろうか。
 最近はごく一部のマニアを対照に、内輪受け的な予定調和ライブを繰り広げて来たライダーズだが、今回はマニアの期待にも応えつつFUJI ROCKの客層を意識したヘビーな一面を見せてくれた。おそらくライダーズを知らないであろう若者たちが乗ってくれてたのは嬉しかった。最近の若い子は「センチメンタル通り」や「火の玉ボーイ」といった初期のアルバムから入ってるから、そういう需要は汲み取っていたと思う。

そのまま山奥でまったり、Orbitalをパスして忌野清志郎。FUJI ROCK定番の彼のステージは、想い出として押さえておきたかった。1曲目は「Magical Mystery Tour」のカバー「間近で見るスターツアー」。続いていきなり「トランジスタラジオ」で大合唱。
 「オーイェイ、フィールドオブヘヴンベイビィ。今日は参院選だぜベイビィ。小泉純一郎は音楽のことが何にもわかっちゃいねぇぜ!! X-Japanだとぉ? センスなさすぎだぜベイビィ。ロックが好きなら靖国神社なんか行かないでFUJI ROCKに来やがれベイビィ」。いやはやほんとX-Japanはないだろう、FUJI ROCKに来いよ。

その後もヒット曲を中心にポップなステージを展開。ラフなイメージの強い彼だが、小技の効いたギターのうまさやコードワークの細やかさを再確認した。ドメスティックなエンターテイメントとして、非常に完成度が高い。でも下世話になりすぎず、あくまでロックファンのものなのだ。わかりやすい言葉で、この島国でロック人生を送るやるせなさを訴えかけてくる。切ない。切ない。
 オーラスは「君が代」。君がよ、君がよ、俺はよ、大好きだぜベイビィ。苔のムースムースムースムース!頭にムースをぶっかけて、それをローディーさんが拭いてまわる。生で見る「君が代」はさすがの迫力だったが、やっぱりこの曲を歌う清志郎は好きになれないなあ。彼の政治的パフォーマンスは嫌いじゃないけど、まずは大前提として音楽がかっこよくないとついていけない。いっそ「雨上がりの夜空に」で締めてくれた方が、僕の中のパンクスピリットに火がついたかも知れない。

Green Stageに戻って、Eminemを頭だけ見る。冗長なビデオが始まって、本人が登場する演出。ビデオがだせえ。曲が始まると目の前の女の子がいきなり倒れこむ。失神、とかじゃなく単に疲れたみたい。最後にFUJI ROCKらしい光景を見せてもらった。同行者が救護室に運び込み、そろそろ帰ろってことで帰ってきたわけだ。

この3日間を振り返るに、僕の人生観を微妙に左右する貴重な体験ができたと思う。音楽という表現活動のルーツを辿れば、それは呪術だったり解放だったり、そんな類いの儀式だったわけだ。FUJI ROCKにはそういうプリミティブな快感があった。山奥に集まって爆音を浴びるのはとても自然な行為だし、通り抜ける音波が物理的に体にいい。人類の末裔として、これからもハートに音楽を。といったところでこのレポートもお仕舞い。長々とどうも。