FUJI ROCK FESTIVAL '02 7.28

ようやく最終日。ここまで丁寧に読んでくださったみなさん、感謝してます。愛してます。せっかくなのでもう少しおつきあいください。

この日最初のステージは、菊地成孔率いる変態ジャズバンド、Date Cource Pentagon Royal Garden。ちょっと寝坊してしまったのだが、森の奥から微かに聴こえてくる音だけでいいバンドだとわかった。
 演奏の構図はChemical Brothersと同じ。菊地成孔は言わばスイッチャーだ。各プレイヤーはそれぞれに自分のフレーズを持ち、菊地から指示をもらった時だけそのフレーズを演奏をする。すごく封建的な構図に見えるけれど、菊地の発想はたぶんにDJなんだろう。彼のインスピレーションは常に的確。Chemical Brothersのような「じらし」は抜きで、快楽原則に忠実に音を並べていく。演奏はたぶんにプログレッシブな要素が強くて踊りにくいのだが、それでも圧倒的なテクニックとセンスに、White Stageは大いに盛り上がった。最後はもちろん「Hey Joe」。これは踊りやすい。
 終演後、Field Of Heavenに登ってThe Sonic Youth Experimental Noise Improvisational。その名の通りSonic Youthのノイズ仕様だ。次の元ちとせの場所取りでごったがえす。僕は森の奥のケモノ道に座り、涼みながら轟音を体に通した。

さて、ワイドショー的に人気の元ちとせである。彼女が立つField Of Heavenというステージは、メインゲートから山道を30分以上も登った所にあり、普段はダウナーで瞑想系の雰囲気が漂っている。しかしこの時ばかりは下世話な熱気に満ちていた。「がんばれ元ちとせ」なんて旗を振ってる人がいて嫌げな感じ。彼女にはそういう村社会的結束に飲まれないで欲しいなあ。
 世間では奄美のこぶしばかり話題にされがちだが、高音の伸びが気持ち良くて、応用力のあるヴォーカリストだと思った。Sugar Cubesのカバー「Birthday」は完全に彼女のものになっていた。「ワダツミの木」の一発ヒットは、ひょっとしたら彼女にとっては不幸だったのかも知れない。心の中で、がんばれ元ちとせ。旗は振らないけど。

それにしても帰りの道が込み過ぎる。正月の明治神宮より悲惨な状況で、全く身動きがとれない。照りつける日射しの中を怒声が響き渡り、ここだけラブ&ピースじゃない。橋を渡って夕涼みスポットを探した。むくんだ足を清流にジュっとつける。生き返ったぁ! 渋滞の中で聴いたSupaercarは憎たらしかったのだが、小川のマイナスイオンの中で聴くSupercarは心地よく思えてしまうのだから現金なものだ。
 命の水を思いきり堪能したあと、様式美Charの前を素通りしてRed Marqueeへ。Charは確かに滅茶滅茶上手いのだが、FUJI ROCKの客はシビアだ。はっとさせる緊張感やワクワクする娯楽性がなければ、どんな大御所でも客はついてこない。Green Stageは見事にガラガラであった。

次のお目当てはLittle Creatures。公演1週間前に出演が決まり、ガイドにも載ってないせいか、Char以上にガラガラであった。開演直前に到着したにも関わらず、人をかきわけることなく4列目まで行けた。しかし演奏が始まると、隣の休憩スペースでゆっくりしていた人々が音に魅かれて続々と集まってきた。最終的に、キャパの半分くらいは埋まったのかな。
 サポートメンバーなし、3人だけの演奏だったため、近作の音響寄りのサウンドは聴けなかったが、それでもやっぱりすげえバンドだ。低くうねるベースライン、不思議なチューニングでやたらと正確なドラム、鮮やかに色を添えるアコースティックギター。それだけで充分に個性的なのだが、彼らはその位置に満足することなく、常に新しいアイデアに挑んでいる。様式美Charはこういうものを聞いたら如何が。余計なお世話ですが。

White StageでCornelius。ステージの前にかかげられたスクリーンにシルエットが写ると、観客がどっとステージに殺到した。シルエットはやがてスクリーンの一方を指差し、そこから文字が流れ出る。別の一方を指差すとまた別のメッセージ。そんなパフォーマンスの後でスクリーンが一気に落ち、怒涛のライブが始まった。
 アルバム「Point」のインドアな世界も、野外の巨大なスピーカーを通すとタイトなダンスチューンになる。最初の波は「Count Five Or Six」、そして「Star Fruits Surf Rider」。観客がどっと押し寄せ大暴れであった。

完璧にシンクロした映像には、キャプテン翼やゴレンジャーといった同世代性が刻み込まれているのだが、おそらくそこにたいした意味はない。ただその画像の動きが楽曲の構造を浮き彫りにして、広がりを与えるのだ。彼の抑制されたユーモアセンスが光る。
 やがて静けさが戻り、ロウソクに火が灯された。去年Neil Youngが使い、今年Patti Smithが使ったロウソク。ゆっくりと始まったのは彼のお気に入りのナンバー「Brand New Season」だ。間奏で彼はなんとステージを降り、客席から一人の男性を連れ出してテルミンを演奏させた。羨ましい。最後は再びダンスタイム。大変だ。やつは魔法を使いやがる。ポピュラーミュージックにはまだ無限の可能性があるよ!

余韻の中でレッチリを眺め、正しくレッチリであることを確認。ハイネケンとモチブタで語った。こういう瞬間、FUJI ROCKにいるんだなあって感じが非常にするね。しかし「ハレ」には終わりがある。「ケ」があるからこそ「ハレ」があるのだ。
 去年はそう、ただ祝祭としての音楽に呆然としていた。しかし今年は違う。もうすぐ僕は、太陽が似合わない山下スキルに戻ってしまう。だから来年もまたFUJI ROCKに行くのだろう。ケイオスとコスモスのサイクルのために。人類の末裔として、これからもハートに音楽を。と去年と同じフレーズでこのレポートもお仕舞い。長々とどうも。