FUJI ROCK FESTIVAL '03 7.26

2日目はフルメンバーが揃い、薄曇りの空に怯えつつも最初の目的地、Orange Courtに向かう。このステージはジャズやアヴァンギャルドを盛り込むべく今年になって新しく作られた。最初はなかなかコンセプトが掴めなかったものだが、最終日の渋さ知らズオーケストラに向かって、だんだんとその存在感を高めていくことになる。
 我々の目的はもちろんDate Course Pentagon Royal Gardenであったが、ステージではその前のSinskeなるマリンバプレイヤーが演奏中。日本のフュージョンのレベルを超越した洗練されたパフォーマンスで、特にDJとの絡みやソウルのフレーバーは楽しかった。ただどうして日本のフュージョンってこう、人として垢抜けないのかなーとも思った。

DCPRGは、例によって人をなめたポーズで笑かしてくれる。「これはサウンドチェックだからヒュー!とか言わないようにね」と前置きして、本番と同じ曲をリラックスした雰囲気で演奏。
 菊地成孔はコンダクターというよりキーボーディスト、CD-Jとしてのパフォーマンスに力を入れて、変貌し続けるDCPRGを印象づけた。特にホーン隊が増強されて、ロック的なカタルシスにも対応。相変わらずのポリリズムぶりに、みんな好き勝手な解釈をつけて気持ちよさそうに踊っていた。本編最後は定番の「Circle Line」、そしてアンコールで「構造と力」シリーズから一曲。「構造と力」シリーズも新編成になって熟れた印象。最後には言葉を選びながら「勝負ごととか興味ないんだけど...もし勝ち負けがあるとしたら...勝ったのは君たちだね」と呟いてみせた。これ、皮肉屋の彼の本当の気持ちと思う。

そのままOrange Courtの奥の土手で寝そべっていたら、Bob Log IIIというバンドの演奏が始まった。僕らの位置からはステージが見えず、なんてへたくそなのかと思ってわざわざ見に行ったら、なんと全部の楽器を一人で演奏していた。大道芸としては面白いが、ライヴとして見せるには全てが等しく非常にへたくそで笑えた。
 続いてAsa-Chang&巡礼を見にGypsy Avalonへと向かう。暖かいスープを飲みながら開始時間を待つと、機材のトラブルで遅れます、とのアナウンス。本番に弱い機材と言えばMacがさあ、なんて話をしてたら本当にMacの再起動音が聴こえてきて大笑い。Power Bookとパーカッションとギターという編成で、フォークトロニカ的な可愛い曲からスタート。ギターは時にシタールのように響き、気弱なラッパと合わせてエスニックで緩い風情を醸し出していた。真骨頂は、サンプリングされた喋り声に合わせてタブラを叩く作品群。音楽という表現の原始の姿を、幻想的に無邪気に再現してみせた。

メインステージのGreen Stageに戻って大御所二連発。まずはPrimal Screem。アルバムごとにスタイルを変えて最新のモードを取り入れてきた彼ら。とはいえ彼ら自身が変貌したと言うよりは、旬のプロデューサーにおんぶしてきたようにも見える。生身の彼らにどれだけの力があるのか興味を持って眺めたのだが...結果はいま一つであった。
 ドラムはひたすらシンプルな8ビートを奏で、ベースにキーボードにギター3本!という構成。GSかよ! 8ビートから外れる曲は打ち込みで代用。この音がまた古臭い。そんな中で1曲目からマイクスタンドを叩きつけるロック大好きモラトリアムのボビー。アンコールのラストは「Loaded」。そう、この頃のプライマル(のレコード)が一番好きだったな。

そして今年のFUJI ROCK最大の目玉、Bjorkの登場である。やっぱり前の方で見ようかと、なんとなく流れに乗っていくうちにモッシュピットまで案内され、ほんの目の前に彼女が見えるポイントに辿り着いてしまった。もうその時点で僕の興奮と緊張はピーク。早く始まれ! という願いも空しく、ローディーがのんびりとセッティングを続ける。このルーズさがアイスランドの国民性なのかも知れないが、開演時間を20分も過ぎてハープの弦を張り替えるのはさすがにプロとしてどうか。
 極限まで引っ張って、ついに円らな瞳の妖精が我々の目の前に現れた。その瞬間、空気が凛と引き締まるのを感じた。冷たくて透明な雨の粒の向こうにゆるやかに立つBjork。霧と一緒に、天賦の音楽家としての強いオーラがじんわりと漂ってきた。

メンバーはコンピューターとハープと弦楽8重奏。前半はエレクトロニカ系の静かな曲が中心で、肩幅に広げた足をしっかりと踏み締めて、時に拳を握ったり腕を蝶のようにはためかせたり、唯一無二の「声」をもってしても伝えきれないことがあると、もどかしげに全身でヴァイブレーションを送りつける。内なる感情はついにステップに変わり、不思議なダンスでリズムの骨格を浮き彫りにした。
 炎と同期をとり、「Hyper Balad」では花火までが豪快に打ちならされる。それがトゥーマッチに思えないのは、Bjorkという圧倒的なオーラが自分の才能に固執することなく、常に新しい発想を追い求める強い魂だからなのだろう。後半は4つ打ちダンス仕様で攻めまくる。それでも気高さを失わず、音楽の喜び、表現の喜び、感謝の喜びを放出する。2時間たっぷりのステージの一瞬も飽きさせることなく、全身から繰り出されるエネルギーに、僕はただ呆然としていた。間違いないのは、彼女は音楽に選ばれた人であること。もしくは彼女のような存在を、「音楽」と呼ぶのかも知れない。やや興奮しつつ3日目に続く。