FUJI ROCK FESTIVAL '03 7.27

3日目は待ちに待った青空!気持ちいいねー。まず向かったのはクラムボン。美味しいシチューの朝飯を済ませ、川沿いのWhite Stageでその時を待つ。シャボン玉の飛び交う会場に、彼らは気負いなく現れた。
 「クラムボン大好きー!」「私もみんなが大好きー!」。いつものように和やかなムードで始まったライヴも、いい演奏をすれば熱いオヴェーションで答える苗場のクラウドを前に、だんだん気分が乗ってきた様子。「みんなサイコー!」「イェイ!」。いつもよりタイトなクラムボンサウンドだ。シャボン玉が映える「ハレルヤ」に続いて究極のポップチューン「サラウンド」、そして全てのダメダメな僕や君に捧げる「便箋歌」。あらゆることが私たちを待っていると告げるその歌は、今の僕に果てしなくリアルに響く。

続いてRovoを見るかVincent Galloを見るか迷う。普通はRovoを選ぶだろうが、Galloがヴィンテージシンセのコレクターだって話を聴いて、興味をそそられてしまった。さてそんなGallo氏、日本に持ってくる機材はひとつと決めていたようだ。それはメロトロンだー!初めて本物を見た。
 メロトロンとギターを使い分け、時折ボーカルも入れて、ドローンと趣味趣味ミュージックを繰り広げる。ようやく晴れた青空の下、シートに寝転がって聴くには実に心地よい。高原の風、そしてトンボたち...。とは言えGreen Stageのアッパーなノリに合っているかと言われればいかんともし難く、やっぱり顔がいいからこんな地味なステージが許されるんだろうなーという卑屈な結論に至った。

再び山奥のField Of Heavenに登る。お目当てはNick Lowe。なんとアコースティックギター1本でステージに望む。最初は手探りで様子見、という感じだったが反応のよさに気をよくして、なんとも楽しげなライヴを繰り広げた。ファンに愛されてるアーティストだし、愛される価値のあるアーティストだ。親指を使ったストロークと切れ味のいいカッティングで、泣けるバラードからアップテンポなナンバーまで見事に演じきった。洗練された美しいメロディ、完璧なポップソング達。「Cruel To Be Kind」「Bring The Family」「Peace, Love & Understanding」もちろんやる。
 パブロックに始まった彼の音楽遍歴は、ある意味ルーツ回帰の運動だったパンクを経由し、今は「円熟」という言葉で片付けられている。しかしイギリスのパブが今も活気に満ちているように、彼の音楽も円熟と言う言葉では語りきれない、まさに生きているポップミュージックだった。

続いて同じステージでG.Love & Spacial Sauceを途中まで見る。アコギ1本による弾き語りに始まり、エレキに持ち替えて3ピースのバンドスタイルへ。基本的に椅子に座って演奏している辺りはブルースルーツの側面を感じさせる。ゲストにLeyonaを迎えてからはラップスタイルに移行して、観客のテンションもあがる。でも僕はG.Loveはブルースシンガーだと思っているので、その辺の認識はほかのお客さんと違ったのかな。
 やや後ろ髪をひかれながら、メインステージに戻りCostelloを待つ。なんだか知らないが1.5列目くらいの位置にすんなり入り込んでしまった。前に立っていたのはいかにもおばさんパーマのおばさん。水面下では僕が手を挙げる度に彼女が足を踏む、という地味な確執があった。ステージの上のCostelloは前髪が随分後退したが、いい歳の取り方をしているよ。おばさん、あんたはどうだい?そして僕は、ロックな気持ちのまま歳をとれるだろうか。

メンバーはElvis Costello、Steve Nieve、Pete Thomas、そして新入りのベース氏という去年の来日公演と同じ布陣。去年はCostello独特の揺らぎにベース氏が乗り切れず、危うい瞬間もあったが、今年はバンドとしてそつなくまとまった感じ。Steve Nieveの変態キーボードの音量がちょっと低くて聴きやすくなっているが、ファンとしてはもっと毒を振りまいて欲しかったかな。
 冒頭からアップテンポなナンバーをこれでもかと叩き付ける。中盤にアコギに持ち替えてからが真骨頂。ギタリストとしても一流の彼だが、ボーカリストとしての圧倒的な表現力には唸らされる。本編はエモーショナルな「Deep Dark Truthful Mirror」で締め。アンコールは「Pump It Up」の大合唱、そして盟友Nick Loweの「Peace, Love & Understanding」。短い持ち時間の中盛り上げたかったのか、アップテンポに偏り過ぎたのがちょっと残念だった。軍配は圧倒的にNick Loweのステージ。

川沿いのWhite Stageに戻り、The Orbを途中から見る。学生時代にアンビエントハウスが流行って、The Orbといえば時代の寵児。宇宙と交信するイルカやカモメたち、そんなカリスマのストイックなステージを想像していたのだが、実際に繰り広げられたのはルーズで馬鹿馬鹿しいパフォーマンスだった。曲間ごとに驚かせなくちゃ気が済まないのだ。DJプレイヤーから唐突に「Beer! Beer! Beer!」なんて歌が流れてビールの一気飲みをしてみせたり、「天国と地獄」をかけてフレンチカンカンのダンサーを呼び出したり、John Lennonの「Love」をかけて観客に歌わせたり。
 その合間に「Little Fluffy Clouds」など懐かしい名曲を演奏するのだが、適当なMixで笑いながら踊りまくった。低音の迫力はさすがで、スピーカーから風が吹き、ふくらはぎから背中を通って脳天までブルブルに震えた。その振動を、僕は体中に取り込もうとしていた。

締めは迷ったあげく渋さ知らズオーケストラへ。名うてのジャズミュージシャンから舞踏家、大道芸人に至るまで総勢40名という超ビッグバンド。FUJI ROCK中で各メンバーが活躍していたようで、全員が揃うまでの間、遠藤ミチロウや知久寿焼をゲストに迎えて間をつなぐ。知久は たま で見せる癖を押えて、優れたシンガーソングライターぶりを披露していた。ミチロウは「Knockin' On Heaven's Door」に彼らしい日本語を乗せて絶唱。誰もが声を合わせる感動の瞬間だった。
 「ダンドリスト」不破大輔の「祭りだー!」のかけ声と共に本編はスタート。この「祭り」とは単なるお祭り騒ぎではなく、清濁ひっくるめて祭る心、人類の血に流れる「祭り」という儀式の正しい姿を体現していることにすぐに気づかされた。普段はインドアライフを好み、ここFUJI ROCKにおいても「自分」を捨てきれてなかった僕。ここへきて何かが開発された。

ジャズ、ファンク、チンドン、スカ、ポエトリーリーディング、そしてフリージャズに変貌した「天城越え」まで。白塗りの舞踏家、金粉の宇宙人、チアリーダー、スクール水着、芸者ガールズから火吹き芸人まで。右手に巨大な軟体動物の風船が登場したかと思えば左手に大きな櫓が神輿のように揺れ動く。その全てが下世話でいかがわしく、その一方で星空にまで届く感謝の気持ちに満ちていて、僕は両手を挙げ、この祝祭に参加している喜びを噛み締めた。
 最後になって不破大輔が叫んだ。「なんかうまく言えないけど...最高!」。僕もなんかうまく言えないけど...最高!不破は40名の出演者、スタッフ、事務方にまで感謝の言葉を述べた。そしてマイクを通さずに360°に手を合わせ、くちびるがありがとうと動いているのを僕は遠くから見ていた。ありがとう渋さ知らズ。ありがとうFUJI ROCK。来年もまた来るよ。長文御免!