FUJI ROCK FESTIVAL '04 7.31

2日目は雨まじりの空。お目当てのバンドが少ないので気侭に過ごすことにする。例によってメインステージのGreen Stageにシートをひいて本拠地を確保。
 するとアコギ弾きの女の子Kaki Kingが登場。オープンチューニングの不思議な響きと、自由な発想のリズム表現に魅きつけられた。弦を上から押さえてタッピングしたりボディを叩いたり。たった1本のギターでメロディ、ベースライン、パーカッションを表現してしまう。そのテクニックが意表をついた響きに変わり、ただ上手いだけでなくJohn Faheyを思わせる懐かしくて新しい風景に昇華されていた。MCの「ドモドモ」が妙に可愛らしいんだが、いったんギターを弾き始めると逞しく見えるのはプロ根性というものか。

続いて会場最奥のジャズステージ、Orange Courtまで移動。UAを観る。鈴木正人や菊地成孔を迎えたアルバム「Sun」の世界そのままの、フリージャズ的、民族音楽的な演奏だった。UAの声は風船のため息のように、鳥のさえずりのように変幻自在に響き渡り、川面に飛んでいってしまいそうだった。人間にはこんな声が出せるのか。はだしで歌い踊る妖精を観ていると、同じ人間であることが申し訳ない気持ちになってくる。もっとも、UAがはだしで歌うためにローディー氏は床の掃除に余念がないわけだが。
 ドラムス氏はカウベルを首から下げてお腹を叩くように演奏したり、スティックを持つ手に鈴を巻いてスネアの音にシャリシャリした質感を持たせたり。「ドレミノテレビ」の影響か、会場には子供連れの姿が多く見られた。「ううあー!」の歓声に「はーい」と答える健全さと、アヴァンギャルドな表現者としての崇高さを見事にひとつにまとめあげていた。アカペラからフリージャズに展開する奄美の島唄に感激。

同じくOrange CourtにてFermin Muguruza Kontrabanda。スカを基調としたミクスチャーバンド。彼らを特異な存在にしているのは、アコーディオンと不器用なスクラッチの異物感だ。そして非英語・フランス語圏のバンドであること。そのことが彼らをマスメディアから置き去りにして、客席をガラガラにしたんだろうが、演奏が始まったとたんにどこからともなく人が集まり始めた。彼らの歌っている言語はバスク語だそうだ。「No War!」のアジテーションが彼らの置かれている状況を伝えていた。ミクスチャーバンドは政治的になりがちなのはなんでかと思っていたんだが、政治的に微妙なスタンスにいるからこそグローバルな音楽を求めるのだろう。
 ところで彼らの演奏後、Orange Courtの草の上で世間話をしていたら、見知らぬ男性に「山下スキルさんですか」と握手を求められてしまった。このサイトの読者だという。嬉しかったです!

そして出てきた吾妻光良 & The Swinging Boppers。この日のベストアクト! ジャズ・クラシックに滅茶苦茶な日本語を乗せたジャンプバンド。「これオリジナルは野球の歌なんですけど、わたくし野球のことはよく知りませんので身近な題材で歌います。『栃東の取り組みを見たか』」とかそんなの。若者に道徳を教える歌や血圧を心配する歌など、日常の些末な出来事をスウィンギーに歌う。ビッグ・バンドを従えたギター漫談だ。
 平均年齢48歳ならではのとぼけた味わいと余裕のスタンス、お茶目なおじさんキャラで若者の心を掴んでいた。こういうの、演奏が圧倒的にかっこいいから笑えるんだよね。吾妻光良のギターもしっかり上手くて踊れるからテンションもあがるの。ハイになって笑っちゃうの。粋な歳の取り方のひとつの理想型を見た。

Green Stageに戻って毎年恒例の忌野清志郎を観る。今年はNice Middle with New Blue Day Hornsを名乗って、梅津和時や三宅伸治などの大所帯バンドを従え、マンネリから見事に脱していた。小編成のバンドでは、意外にも細やかなキヨシローのギターやサックスを楽しめるのだが、この日のステージでは唯一無比のボーカリスト、エンターテイナーに徹していた。ほら貝から王冠まで取り出して客席を沸かせる。そのひとつひとつの動きが実に優雅だ。様子見キャラで笑わせる吾妻光良の歳の取り方とは好対照の堂々たるステージで僕らを興奮させてくれた。
 「トランジスタラジオ」「ドカドカうるさいロックンロールバンド」「スローバラード」やるやる。「上を向いて歩こう」は全くオリジナルな解釈の素晴らしいメロディ。

最後は同じくGreen StageにてThe Chemical Brothersを。おととしに観た時には楽しかったんだけどな。サンプラーに仕込まれたフレーズをON/OFFする。ただそれだけなのに、じらしのテクニックが絶妙だった。やっぱり打ち込みといえどもライブはナマモノだと感じた。この日のパフォーマンスはどうも個人的にはしっくりこなかった。
 それとね、3年前からの進化が見られなかったんだ。もう古いかなー。音も映像も今の感覚ではエキセントリックというよりはヒステリックにさえ思え、ちょっと悲しい気持ちになった。翌日は観たいバンドもたくさんあることだし、帰りの道が混む前に早めに撤収。3日目に続く。