FUJI ROCK FESTIVAL '04 8.1

この日は朝から穏やかに晴れ、絶好のFUJI ROCK日和。聴こえてきたのはJammie Cullum。ピアノを前にジャジーなポップスを繰り広げるハスキーヴォイスのシンガー。演奏も上々でニッコリ。「受けるか心配だったけどみんなサンキュー」みたいなMCの後で唐突に「スキスキダイスキ!」と絶叫。スタッフに「日本語でI love youってなんて言うのか」と質問して、そう吹き込まれたんだろう。
 ライブも後半になると、持ち込みの高そうなピアノの鍵盤にご丁寧に靴を脱いで飛び乗ってみせる。Jeff Buckleyのカバーなんかもやって、敷居の低いバランスの取れたジャズシンガーだ。最後にもう一度「スキスキダイスキ!」と手を振って、丁寧におじぎをして帰って行った。

続いてGypsy Avalonで、FUJI ROCK初のコミックバンド、ポカスカジャンを観る。まずはお馴染みのネタ「長渕剛が歌うドラえもん絵描き歌」や「郷ひろみが歌うエキゾチックほにゃらら」で観客の心をがっちり掴んで、アコギだけでベンチャーズサウンドを再現する「笑点ベンチャーズ」や吉幾三の怪作をムーディーに仕上げた「おらは東京さ行くだボサ」、築地の情熱をフラメンコに乗せた「魚市場フラメンコ」で圧倒的な演奏力をアピール。お笑いのお客さんってこういうネタわかんないんだよね。むしろロックフェスや音楽よりのイベントで受ける人たちだと思う。
 その後も矢継ぎ早に「津軽ボサ」「韓国ロック」を披露。どういう内容なのか、このサイトの品位にかけて詳述は避けておこうか。「後半はWow Wowで放送できません。どうせ世捨て人の集まりなんだからこういうネタもオッケーでしょう?」と挑発してかかる。でも全ては彼らの手のひらの上だ。

NRBQは相変わらずのポップス馬鹿っぷりで脳天気に怪演。Terryのキーボードは打楽器のようだった! 僕の大好きなバラード「I Love Her, She Loves Me」をやってくれたが、それ以外はアップテンポなナンバーで疾走する。誰が聴いても楽しいステージだ。いかつい体格にメロメロの笑顔を添えてお届けするキュートなデザートだ。Terryの口は人間の限界にまで広がり、その表情は「Back To The Future」におけるChristopher Lloydにそっくりだ。JoeyとJohnnyのSpampinato兄弟は、歳とともに顔が似てきた気がする。最後はTomが前に出てきて、Joeyのドラムス、TerryとJohnnyのホーンでリードボーカルを担当。これで全員が歌ったね、と確認するかのようなしぐさでTerryが撤収の合図を送った。
 Zazen Boysに叱られにいくのもなんだねってことで、Orange Courtに残って前日にGreen Stageに立ったKaki Kingちゃんの演奏を聴く。相変わらず上手いわ声が可愛いわ。すっかり和む。

Green Stageに戻って渋さ知らズに向けて体力を温存。ここで今年のFUJI ROCK最大の事件について、オーガナイザーの日高氏からアナウンス。「あわただしい人生の中で、この3日間はほんの一瞬に過ぎないよね。でも大きな想い出を持ち帰ってくれることを願っている。ところでMorrisseyが出演をキャンセルしてきた。どうしてだか俺にはわかんない。これから紹介するバンドを観てみんなは喜ぶかも知れない、怒るかも知れない。でもギリギリの状況で俺たちに出来た最高の答えなんだ」と言って紹介されたのは、なんとThe Smithsのコピーバンド。
 演奏が始まり、多くの客が去って行くのが残念だった。僕は楽しめたよ、曲がいいからな。ステージ前に残って声援を送る観客に対して、ひたすら「You're so kind, Thank you」を繰り返す様は泣けてきた。

最後は当然渋さ知らズオーケストラ! 去年のパフォーマンスで僕の中の何かを覚醒させた彼らは、現代の日本における清濁含めた「祭る心」なるものの可能性をさらに押し広げていた。現代舞踏、炎、風船の化け物、チャイナドレス、そしてフンドシ。ファンク、フリージャズ、スカ、ポエトリーリーディング、そして音頭。それぞれが最高のパフォーマーでありながら、そこにとどまることなく「楽しい事」を懸命に追求した上て、ダンドリスト不破大輔の指揮に全権を預けているのだ。どれもが最高に下世話で最高に美しい。
 「さっき会場を歩いてたら、明日から東京の現実に戻るのね、なんて会話が聴こえたぁ。明日から現実に戻るだぁ? 今ここで叫んでいるのがお前たちの現実だー!」。最後に女性が出てきて叫ぶ。「あなたの魂に!あなたの魂に!」それを片耳にしながら、腕を高く掲げて僕は僕の歌を歌っていた。全ての日本人の祭りの魂に、そして世界中に知らせたい、FUJI ROCKの夜。来年のこの日にまた会おう。長文御免。