FUJI ROCK FESTIVAL '12 7.28

2日目。快晴。暴力的なまでの陽射し。ゆっくりめに宿を出て、鮎の塩焼き食う。お姉さんに「あゆでーす」って渡される。苗場ギャグか、それ苗場ギャグか。

4万人収容のGreen Stageで、Seun Kuti & Egypt 80観る。アフロビートの神様、Fela Kutiのバンドと、その後継者に抜擢された息子。偉大過ぎる父のバンドを引き継ぐのはすごく難しいスタンスだと思う。でもFelaの存命中からバンドに参加していたSeun、立派にフロントマンを務めていた。演奏は素晴らしい肉体のグルーヴ。王道のアフロビートをしっかり刻む。ベースの演奏を観たかったけど、モニターにあんまり映らなかったな。ダンサーのお姉さんのリズムの捉え方が面白かった。気高くて美しくてたまらなくセクシー。その中をSeunはもどかしそうに、のけぞるように、体をくねらせて叫び歌い、サックスを吹き鳴らす。
 4年ぶりのFUJI ROCK、僕はまだ森の中の爆音に心を開けてなかった。体調的な心配もあって、キャンプ用の椅子を持ち込んで、後ろのほうで座って観てたのだ。でも彼らの演奏で、ついに心のたがが外れた。前に出てビール飲んで、気持ちよく踊った。楽しかった。楽しめる自分が嬉しかった。政治的なメッセージは伝わらなかったけど、渦巻くグルーヴに乗っかって歌い踊る喜びは伝わった。アンコールに応えて2時間のステージ、今年のベストアクトに推したい。

ところでSeunがマリファナの話をしている時、私の前を新潟警察のおまわりさんが通った。
 いつも雨に祟られて田んぼのようになるFUJI ROCK、今年は晴天続きで埃が酷いために放水してた。わざわざ水を浴びにいくフジロッカーたち。あほすぎる。あの水しぶきの中から虹が見えただろうか。

移動の体力に自信がなかったため、そのままToots And The Maytals観た。実はなにものか知らなかった。「Do The Reggae」という曲で、初めてレゲエという言葉を提示したレジェンドだそうだ。ちょっとマンチェスターっぽいなと思ったけど、マンチェスターサウンドのルーツの一つにレゲエがあり、その本物が歌ってた訳だ。レゲエのさらにルーツでもある、ロックステディの匂いも感じた。もちろんジャマイカ、キングストン出身。
 そのTootsさん、67歳だそうだが、がっちりした体つきで声がよく出てた。キャラクターはかわいくてアジテーションにも乗りやすい。演奏はとにかくポップ、「Country Road」を歌うサービス精神もみせた。二人の黒人の太ったお姉さんがコーラスについてる光景、あれかっこいいなあ。

RovoとCaribouを観たかったけどやっぱり移動に躊躇して、どうしても観たかったRay Davis観る。オリンピックでKinksの曲がよくかかったそうだ。いまのイギリスのロックにも影響を与える、日本以外では本当に人気のあるミュージシャン。
 いざライブが始まったらよぼよぼのおじいちゃんが出てきちゃって、全然声出てないし動けないし、痛々しい、見てはいけないものを見てる気持ちだった。それが名バラード「Waterloo Sunset」でいったんテンションを落として、次の「Victoria」から突然声が出て、ジャンプするわシャウトするわ、元気な姿にびっくりした。「You Really Gat Me」はブルージーな歌い出しからパンクに展開するアレンジ、大きな声でみんなで歌った。Kinksのギターといえば当然弟のDaveの印象だけど、Rayも曲の途中にギターを持ち替えながらこだわりの演奏を見せた。アコギが圧倒的にかっこよかった。最初の数曲は...そういうドッキリだったんだろうか。

そのままGreen Stageで休んでいたら、大スクリーンにオリンピックの開会式が映った。Paul McCartneyが歌う「Hey Jude」。みんな大興奮。「Yeah!」のところで両腕を振りあげ、「Na Na Na…」の大合唱が始まった。なんだかんだいってみんなBeatles好きだよね。もちろん僕も大好き。素敵な光景だった。

The Specials。スカの大御所。ツートーンスカという言葉の意味を初めて知った。つまりSpecialsは半分がイギリス人、半分がジャマイカ人、肌の色を超えて音を奏でるバンドだった。ボーカリストもクールなイギリス人とホットなジャマイカ人のツートーン、キャラクターの違う声が絶妙に絡み合う。演奏はかっちりして、フェスに似合う踊れるバンド。観客のノリも最高だった。Ray Davisの時にも思ったんだけど、客層が若い。Ocean Colour Sceneなんかよりずっと若い。そしてこれも素敵なことだけど、FUJI ROCKはノーメークで可愛い女の子が多い。メークなんかよりロックだ!!って心意気が好き。
 で、Specialsのライブは楽しかったんだけど、スカって実は曲の区別がつかない。Madnessですよって言われたらそうかーって思いこむくらい区別がつかない。

Red Marqueeに移動して、Spiritualized観る。神がかったドローンからアップテンポなロックナンバーへ、プログレッシブなリズムへ、サイケデリックに色彩が変化して飽きないステージ。演奏も最高だけどとにかく声がよかった。
 ただ残念なことに、人気がありすぎてテントの外にしか椅子を置けなかったのだ。中で聴いたらたぶんスピリチュアルな何かを感じたと思う。今年のベストアクトだったかもしれない。でも後ろで漏れ聴こえる音を聴いてる私には、そのなにかしらが降りてこなかった。Red Marqueeの手前の幌は構造的に外せないものだろうか。ライブがいいか悪いかはたぶんに座ってる位置によることを痛感した。

Noel Gallagherは観ないで飯を貪り食う。地元の屋台は大抵旨い。Red Marqueeに戻って電気グルーヴ待機。会場の後ろで知人とお喋りしてたら、Noel Gallagherが終わって電気グルーヴに流れてきたお客さんが、さらに後ろの林の中までぎっしり詰まって動けなくなった。電気グルーヴもGreenを埋められるバンド、でもGreenとRedでは収容人数が8倍違う。毎年大雨で生命の危機を感じたけど、この時は人で生命の危機を感じた。あの斜面で一人が滑ったら、数人巻き添えくらってたと思う。
 で、電気はバスドラがブンブンうなってるだけ。もはやドンドンとすら聴こえない。屋台村のOasisに移動して漏れる音を聴く。今年敢えてRed Marqueeへの出演なんで、Redらしいクラブテイストのセットなのかと思ったら、普通にヒット曲を演奏してた。

この日はFUJI ROCK11年目にして初めて、GreenとRedで完結するタイムテーブルだった。昔、誰でも知ってるスープ屋チェーンの社長と自称音楽好きの部長に、FUJI ROCKでHeavenとかOrangeとか行く奴は変、GreenやRedをターゲットにしないと商売にならないってお説教を受けたことがある。私は本当に面白いことは、HeavenやOrangeやもっと小さなステージで起こってることを知ってる。悔しいので来年は山奥で過ごすことを決意。

3日目に続く。