FUJI ROCK FESTIVAL '15 7.26

最終日はカンカン照り。日焼け止めを厚く塗っていそいそ出かけた。ウグイスの声が聴こえてきて、高原は東京とは季節がひとつ違うんだなって実感する。森の奥から音楽が流れてくると、FUJI ROCKに来たなあって感慨に包まれる。

White StageでスペインのミクスチャーバンドTxarangoを観た。賑やかなダンスバンドは、フェスではぜひ押さえておきたい。
 3人のボーカリストが客を煽って1曲目から大騒ぎ。かと思えば客をしゃがませて焦らして焦らしてサビでジャンプさせたり、全員が揃って右に左に駆け回ったり、とにかく自分たちの世界に引きこむのが上手い。ヨーロッパのフェスで大人気なのもよくわかった。「Do you wanna dance? Do you wanna dance?」、英語と日本語を交えたMCも楽しかった。思い出すのはManu Chaoを始めとするスペインのシーンのことで、ひょっとしたら彼らも、祖国の現状を思って政治的なメッセージを歌ってたのかも知れないな。

White Stageに残ってceroを観た。彼らのデモテープを鈴木慶一が手掛けたこと、1stはMoonridersのパロディだったことをみんな知ってるのかな。小西康陽や小山田圭吾といった後輩たちから目の上のたんこぶ扱いされて、それを真に受けたさらに下のフォロワーやリスナーたちは、Moonridersや鈴木慶一をちゃんと聴いてるのかな。
 そんなシーンから飛び出して新作「Obscure Ride」で大化けした彼ら、ブレーク間近と言われるだけあって、勢いのあるステージだった。高城晶平のルックスは、相変わらず線の細い予備校講師なんだけど、声の太さとシャウトのかっこよさ、ブラックミュージックに接近した生々しいバンドのグルーヴ、全てが最高だった。「Summer Soul」や「Orphans」といった新作からのナンバーが殆ど、ラストは「Yellow Magus」で、バンドの新作への自信も伝わってきた。

...ただ、猛烈に暑くて命の危険を感じた。ところ天国で食糧と水分を摂取、冷たい川に足をつけてじゅって。木陰で、今年のFUJI ROCKで最大の物議を醸すことになるTodd Rundgrenを待った。

最近のToddはEDMにはまって、ライブはEDM路線と得意のバンド路線と平行してると聞いていた。ステージに登場したのはDJ1人。EDM路線だわ...。そしてパツパツの服を着たTodd先生がレオタードのお姉さんを従えて登場。早々にギターを置いて、一緒に踊る。EDM...と呼んでいいのかわからない派手な音色に、Toddの太い声は負けてなくて、音楽的にそんなに違和感はない。ビジュアル的におおいに違和感がある。言うなれば、壮大な武富士であった。客席にピックを投げたけど届かなかったとか、セトリの紙が靴に貼り付いたままだったなんて証言も漏れ伝わってきた。
 EDM路線のライブでも、よそでは名曲メドレーコーナーがあったそうで、それを聴いてみたかったような、聴かなくてよかったような。ツイッターに実況したら、「歴史的現場の目撃者ですよ」って言ってもらえてちょっと嬉しかった。

そんなタイムラインに弟子の高野寛が気がついたのか、翌日こんなツイートをした。「新作『GLOBAL』の日本盤で、トッドがどうして今のスタイルになったのか? についてライナーノーツを書きました。トッドは中学生の頃、コンピューター見たさに近所の郵便局に何度も通っていたというエピソードを持つ、筋金入りのギークなのです。で、トッドの『GLOBAL』は、60年代から西海岸に連綿と続くカウンターカルチャーの根幹にある"武器"=コンピューター を使って、愛と平和をストレートに歌ったメッセージアルバムです。そのコンセプトがあまり伝わってなかったとしたら残念です」。
 ギーク感や愛と平和感はよくわかる。それ以上にコレジャナイ感半端なかった。いやいやこういうToddがあってもいいよ。でも初めて観たToddがこれなのは無念すぎる。高野さんも予備知識なしにこのステージを観たら、Toddのファンにならなかったんじゃないか。

そんな余韻の中、大橋トリオが登場。爽やかなお兄さんのイメージだったのに、髭面のおっちゃんが出てきた。聴きやすいあったかなサウンドは好み、だけど混んできてスタッフさんに立ってくださいって言われて、立ってまで観ることはないかなって撤収。Field Of Heavenに登った。東山食堂のお姉さんに会いたかったってこともある。
 "Legends Of Blues" A Tribute to Howlin' Wolf featuring Henry Gray & Eddie Shawという長い名前のついたブルーズバンド。キーボーディストのHenry GrayとサックスプレイヤーのEddie Shaw、2人のレジェンドが好き勝手にソロを弾いて歌いあげていた。お喋りの駆け引きもお茶目なおじいちゃん達だった。それを (比較的) 若いギタリスト、ベーシスト、ドラマーが暖かく見守る構図。ドラマーはスティックを回したりジャンプしたりと派手なパフォーマンス、ベーシストは微動だにせず淡々と演奏する。その合間を埋めるギターが実は好み。誰が聴いても自然と腰が動く普遍的な音楽だった。

東山食堂のお姉さんと来年の再会を約束して、遥かGreen Stageに降りてRIDEを観た。
 19年ぶりの再結成とワールドツアーに不安もあった。でも「繊細な轟音」は、ブランクをまったく感じさせなかった。キラキラしてガーガーしてた。ボーカルもコーラスも安定して瑞々しかった。ベースの音がぐわんぐわん回ってたのはPA的な問題なのかな。ノイズピットはどうしてもMy Bloody Valentineと比べちゃう。なんてことが頭の片隅にありつつも、興奮したし感慨深い。ただ、Legends Of Bluesの普遍的な快楽を味わったあとだと、この喜びが同世代以外にどこまで伝わるものか、僕にはわからない。

最後はWhite Stageに登ってFKA twigs。好き嫌いが大きく分かれるパフォーマンスだったんじゃないか。僕は大好き。
 Bjork → Arca繋がりで彼女のことを知った僕は、彼女にポストBjork的なシャーマニズムを感じていた。体を思い切り高く低く大きく使って、おおきなうねりに巻き込むような柔らかいボーカル。それとは対照的に、エッジの効いたパーカッションと徹底的に低いベースの重さ。コンテンポラリーダンスみたいな、静かで映像的なステージは、最初はフェスじゃなくてホールに座って楽しみたいと思った。でも後半になると、どんどん内なるアナーキズムとエロティシズムが音に変わって、恍惚の域にまで高めていった。これは森の中で、あの時あの場所で起きた奇跡だった。終わってしばらくは呆然とした。

タイムテーブル的に、急いで帰らないとGreen StageのNoel Gallagherのお客さんとぶつかって渋滞しちゃう。興奮を覚ますように山道をくだって、Green Stageの後ろを通り抜けたとき、Noelが歌い出したのは「Don't Look Back In Anger」だった。だから今年のFUJI ROCKのラストチューンは「Don't...」って言いたいけど、Red Marqueeから電撃ネットワークのテーマが聴こえてきたんで、本当はそれだ。
 祝祭の日々を終えて翌日も快晴、バスで越後湯沢に降りてへぎそばを食べた。ここまで込みで、僕達のFUJI ROCKだ。去年「もう1杯くらいいけそうだよね」なんて冗談で言ってた大盛りのそば、本当に2杯食べた。帰ってきてから、「越後湯沢からの新幹線で尿道結石の痛みでうずくまってたら『どうしたの、大丈夫?』って優しく声をかけてくれた男性がいた。石野卓球さんだった」って話がタイムラインに流れてきた。なにその「実は江頭さんはいい人」感。

行く前は、また去年みたいになっちゃうんじゃないかって不安もあったんだ。今年は本当に行ってよかった。そして来年もまた帰るのだ。ケの日々を終えてハレの日へ。だから例年のフレーズで締めたい。人類の末裔として、いつもハートに音楽を。