FUJI ROCK FESTIVAL '19 7.27

実在する真実を語るダフ屋「ハイーある人あるよーない人ないよー」。実在する美少女フジロッカー「きのうの夕方雨すごかったねー」「あーその時間はテントでセックスしてたからわかんないやー」。ちょっとドキドキ。
 昼間の川はまだこんなに穏やかだった。この日が伝説の嵐になるとも知らず。

Field Of Heavenに登って、小雨の中蓮沼執太フィル。印象的なユニゾンボーカルは木下美紗都さん、ラップは環ROYさん、ストリングス、ホーン、ヴィブラフォン、スティールパン、総勢16名のバンドは名うてのプレイヤーばかり。こんな編成で普通にいいポップスを奏でる。穏やかで楽しくて。かつて僕がやりたかった理想のバンド像はこんな感じだったな。心地よさに朝からうとうとした。
 蓮沼さんは、ステージから写ルンですで写真を撮ったり足をぶらぶらさせたり、終始リラックスしたムードだった。でもある曲の演奏後に「良かったー」って声をあげる一幕もあって、実は非常に高度なパフォーマンスなんだろう。

Hevenに残ってキセル。僕が初めてか2度目にフジロックに来た時に、デビュー間もないキセルを同じヘブンで観た。お客さんはまばらで、MTRを使った演奏だった。「シー」ってテープノイズを覚えてる。
 あれから20年経って、ユニットは立派なバンド編成になり、会場はお客さんで埋まった。本人も「よく続いた」。でも楚々とした音楽とMCはあの頃のままの手触り。暖かくて穏やかで懐かしくて風通しのいい音楽だ。だんだん雨が強くなってきて、「風邪ひかないでね」って。

台風6号が上陸したニュースが伝わってきた。そしてその台風は、まっすぐに新潟に向かってくるのだった。
 朝霧食堂へ。今年は食べ物屋さんどこも非常に並ぶ。お客さんが多い、特にお子さんが多い。FUJI ROCK第1世代が子供を連れてくるようになったんじゃないかな。

Whiteに降りてUnknown Mortal Orchestra。サイケデリックなイメージだったけど、意外とソリッドでファンキーなバンドだった。言葉を丁寧に置いていくみたいなボーカルが好き。1曲目から観客の間を練り歩いて煽る煽る。オルガンとシタールの音にサイケデリック感が、そしてホーンがエキセントリックなプレイを聴かせてくれた。ホーンはなんと、ボーカルのお父さんだそうだ。すげえ親子バンド。
 後ろの方にも熱狂的なファンが多くて、会場全体がキャーキャー歓声に包まれてた。勢いに乗ってるバンドって感じた。雨は激しさを増していく。

Whiteに残って、ビールを飲んでも飲んでもなくならない、ただ薄くなる豪雨の中でCourtney Barnett。一番楽しみにしてたオーストラリアのシンガーソングライター。白いTシャツを着た華奢な姿が可愛らしい。
 スリーピースのバンドでゴリゴリのギターを弾いて叫ぶ彼女は、神々しいほどに美しくてかっこよかった。パワフルなソロ、キレのいいカッティング。揺れるグルーヴ。キラーチューンの数々。ギターロックは死んだなんてよく聞く。Spotifyでギターの音がするとスキップされちゃうなんて。でも滅びない。何度でも蘇る。その音、形、弾く姿、存在そのものが、胸かきむしり開放へと導く力を持った楽器だから。今年のベストアクト。

FUJI ROCKでは視野を確保するために、また危険を回避するために傘の使用が禁止されてて、登山用の雨具に当たる雨粒が痛いくらいの豪雨になった。いましずかちゃんがよく冷えた生ビールを、ジャイ子があったかいコーヒーを持ってきたら、ジャイ子と結婚してしまうかも知れない。

引き続きWhiteにてclammbon。宮沢賢治作品から取ったバンド名と、原田郁子さんがゆるふわな空気を纏っているために誤解されてるけど、ゴリゴリの変態バンドだ。サウンドチェックで "波よせて" を演奏して、ミトさんが「僕らThom Yorkeより機材が多いらしいよ」「みんな歌え」って煽る。こっちはそれどころじゃない。
 そのまま本編が始まって "KANADE Dance" "シカゴ"。郁子ちゃんが「風邪ひかないでね」って声をかけてくれた。ミトさんは「久しぶりのFUJI ROCKだけどホーム感がある」。それはリスナーも感じてるだろう。寒さを吹き飛ばすために、ゆったりな曲でもみんな倍速で踊る。最後にtoe.と徳澤青弦さんがサプライズゲストで登場、Nujabesの “reflection eternal” のカバーを披露した。

今川宇宙の夢日記のギタリスト、たかしUNDERSTANDと待ち合わせてたんで、急いでHeavenに登った。たかしは写真家でもあって、プレスで来てた。俺とお前の大五郎みたいなペットボトルにワイン入れて持ち歩いてたぞ。

George Porter Jr. & Friends。FUJI ROCK直前にThe Metersの盟友、Art Nevilleが亡くなったんだよね。このタイミングで、Nevilleファミリーを揃えたステージは絵だけでも感極まる。ニューオーリンズのシーン、Dr. JohnやAllen Toussaintの訃報がここ数年続いて、でもGeorge Porter Jr.はステージにいてくれる。それだけで嬉しい。
 ぶっといベースとイェイイェイイェイっていう熱いシャウト。超ソウルフルで超ファンキーで、圧倒的な横揺れのグルーヴにただ夢中にさせられた。気づいたら雨もあがってた。Metersの "Sissy Strut" しびれたな。

Whiteに戻ってAmerican Footballを途中から。エモシーンのレジェンド。結局エモいってどういう意味なんだ!? 内から湧き上がる感じのことなのかなあ。
 ヴィブラフォンや、タンバリンが3人いる曲があったり、クリーントーンのギターや変則的なリズム、僕からみたらこれは音響派ポストロックなんだ。繊細で美しいバンドだった。繊細すぎて、地面に打ちつける豪雨の音に負けてボーカルが聴こえないほど。照明の演出も美しかった。みんなただ呆然と聴き入っていた。

そして引き続きWhiteで次のバンドを待つ。寒くて寒くて、ところ天国に行ってカレーを食べようとしたんだ。ところ天国が閉鎖されてて目に入ったのはこの光景。決壊寸前じゃん!! この動画はTwitterでまとめられて、あちこちに転載されたみたい。

大嵐の中、Death Cab For Cutie。運営も危機を感じたか、15分早まってのスタート。ギタリストでプロデューサーだったChris Wallaが脱退して初めての来日ライブだ。打ち込みと絡んだ生ドラムと生ベース、ニューウェーブの香り漂う懐かしいサウンドは、思いのほかフィジカルでグルーヴィー。パフォーマンスも熱い。やっぱりギターが大活躍してた。
 Chris在籍時、脱退後問わず代表曲を惜しみなく演奏した。それはChrisがいなくてもDeath Cab For Cutieだった。アンビエントに展開する最後のナンバー "Transatlanticism" がたまらなく美しかった。たぶん用意してたアンコールなしで、あっけなくさよなら。

川について、運営の安全確保はなされていたと思う。僕も邪魔にならないタイミングで安全に撮影した。ほかにもすごい光景があちこちにあった。それは邪魔になるんで撮影しなかった。特にGreen StageからWhiteに向かう一帯が、1mくらい水没して道が細くなってた。こんな状況でライブ観て踊ってるんだからみんな頭おかしい。

それでも観るんである。Rookie A Go Goで君島大空さん。東京でも観たばっかり。豪雨の中、行き場を失った人々がどんどんRookieの会場に入ってきた。
 中性的なハイトーンボイス、特に途切れるような細かいビブラートを使った声の美しさと表現力に圧倒された。あのボーカルとタイトなバンドサウンドの両立はそれだけでオリジナル。楽曲もオルタナティブなのに耳に残る。ギタリスト出身ならではのキメキメな曲があったり、熱いインプロがあったり。"遠視のコントラルト" の動画が公開された。来年のメインステージ出演をかけた投票所は大混雑。嵐は吉と出たか凶と出たか。

宿に帰って会場の状況を把握した。去年は風の台風でキャンプサイトのテントが飛ばされたけど、今年は雨の台風で流されたり水没したりしたこと。ショップがデッドストックのTシャツを売ってること。Red MarqueeとOASISエリアも水没したこと。国道17号線に通行規制がかかったこと。伝説の天神山は知らないけど、苗場のフジロックでは一番の水害ではないか。

3日目に続く。